24/84
明日も話したい
午後になり、ルシアはそろそろ仕事へ戻る時間になった。
「……そろそろ行きますね」
立ち上がると、カイルも本を閉じた。
「うん。忙しい?」
「少しだけ残っています」
「じゃあ、無理しないでね」
「はい」
ルシアは一礼する。
「それでは、失礼します。カイル様」
「……ルシア」
呼び止められて、ルシアが振り返った。
カイルは少し考えるようにしてから、穏やかに言った。
「明日も、来てくれる?」
ルシアは目を瞬かせる。
「……交換日記を渡すために、ですか?」
「それもあるけど」
カイルは木の下に座ったまま、ルシアを見る。
「少し話したいから」
その言葉に、ルシアの表情がわずかに和らいだ。
「……はい」
それだけ答えて、今度こそ中庭を出ていく。
扉が閉まる。
静かになった中庭で、カイルは膝の上の日記へ視線を落とした。
さっき読んだ文章を、もう一度思い返す。
以前の日記とは違う。
言葉も、呼び方も、少しだけ遠い。
カイルはその距離を無理に縮めようとはしなかった。
ただ、明日もここで待っていようと思った。
そしてその夜。
カイルは自室の机に向かい、ルシアから預かった交換日記を開いた。
ペンを持ったまま、しばらく考える。
「……僕も、少し丁寧に書こうかな」
そう呟いて、ゆっくりと一行目を書き始めた。




