同じ時間
カイルは日記を膝の上に置いたまま、しばらくルシアを見ていた。
ルシアは少し離れた場所に立っている。
以前なら、何も考えずカイルの隣へ座っていた。
けれど今日は、そこまで近づこうとはしなかった。
「……そこに座る?」
カイルが木の根元を指す。
「はい」
ルシアは少し迷ってから、カイルの隣ではなく、少し離れた場所に腰を下ろした。
カイルは何も言わなかった。
ただ、手元の日記へ視線を落とす。
「読んでもいい?」
「……はい」
カイルはゆっくりとページを開いた。
昨日までなら、ルシアは隣から覗き込んでいたかもしれない。
でも今日は、自分からは見ようとしなかった。
しばらくして、紙をめくる音が止まる。
「……ありがとう」
「何がですか?」
「日記を書いてくれたこと」
「いえ……交換日記ですから」
ルシアはそう答えた。
以前なら、もっと自然に笑えていた気がする。
カイルは日記を閉じると、膝の上に置いた。
「ルシア」
「はい」
「今日も、ここにいてくれる?」
思いがけない言葉に、ルシアが顔を上げる。
「……いても、いいんですか?」
「もちろん」
「でも、お仕事もありますし……」
「まだ時間はあるよ」
カイルは穏やかにそう言った。
ルシアは少しだけ考える。
そして、小さく頷いた。
「……では、少しだけ」
「うん」
それ以上、カイルは何も言わなかった。
ルシアも何も話さない。
二人の間には、以前より少し遠い距離がある。
それでも、木漏れ日の落ちる静かな中庭で、同じ時間を過ごしていた。
やがてカイルが、日記を手に取る。
「これ、今日の夜に書いておくね」
「……ありがとうございます」
「明日、渡すよ」
「はい」
ルシアは微笑んだ。
その笑顔を見て、カイルもほんの少しだけ笑った。




