中庭の奥で
「中庭の奥に行ったよ」
そう答えた青年は、木の幹に背を預けたまま、本を閉じた。
ルシアは教えてもらった方向へ目を向ける。
「あっ、ありがとうございます!」
小さく頭を下げて、奥へ向かおうとした。
けれど――。
「たぶん、あそこ」
青年が指差した先には、背の高い草花が並んでいる。
「猫、見つかるかな……」
ルシアが少し不安そうに呟くと、青年は穏やかに笑った。
「一緒に探そうか?」
「え?」
「僕も暇だったから」
そう言って、青年はゆっくり立ち上がった。
ルシアは少し驚いたあと、嬉しそうに笑う。
「じゃあ、お願いします!」
二人は並んで、中庭の奥へ歩いていった。
花の陰を覗き込み、植え込みの向こうを探す。
「いないですね……」
「うん。もう少し先かもしれないね」
「あっ」
そのとき、茂みの向こうから小さな鳴き声が聞こえた。
「いました!」
ルシアが駆け寄ると、白い猫が花壇のそばで丸くなっていた。
「よかった……!」
しゃがみ込んだルシアの足元へ、猫がすり寄ってくる。
「ふふ、見つかったね」
青年も少し離れたところから、その様子を眺めていた。
「この子、よくここに来るの?」
「たぶん今日が初めてです。私も追いかけてきたので」
「そうなんだ」
青年はまた穏やかに笑った。
ルシアは猫を抱き上げると、ふと青年を見る。
「そういえば……お名前、聞いてませんでした」
「僕?」
「はい」
青年は少しだけ考えるように目を伏せた。
「……カイル」
「カイルさんですね」
その呼び方に、カイルはほんの少しだけ目を細めた。
「うん」
「私はルシアです。今日からこのお城で働くことになったんです」
「新人さんなんだ」
「はい!」
嬉しそうに答えるルシアを見て、カイルは再び笑った。
まだ二人とも知らなかった。
この何気ない出会いが――
これから何度も続いていく、大切な時間の始まりになることを。




