再び交わる視線
それからしばらく。
ルシアは中庭へ行かなくなった。
あの日以来、カイルとは仕事でも一度も顔を合わせていない。
ルシア自身も、できるだけカイル――第二王子殿下と顔を合わせないようにしていた。
そしてカイルもまた、以前のようにルシアの前へ姿を見せることはなかった。
そんなある日のこと。
「ルシア、この資料を運んでくれる?」
先輩侍女から、大量の書類を渡された。
「はい」
ルシアは両腕いっぱいに資料を抱える。
思った以上に量が多く、前がほとんど見えない。
それでも落とさないように、慎重に廊下を歩いていく。
「……重い……」
角を曲がろうとした、そのときだった。
「――あっ」
向こうから侍女が歩いてきた。
お互いに気づくのが遅れた。
「危ない!」
避けようとした瞬間、ルシアの腕から書類が崩れた。
「きゃっ……!」
大量の資料が、廊下いっぱいに散らばる。
紙が床に落ちる音が響いた。
「ご、ごめんなさい!」
侍女が慌ててしゃがみ込む。
「私も拾います!」
「いえ、大丈夫です!」
ルシアも急いで書類を拾い始める。
「でも……」
「先輩、急いでいらっしゃるんですよね?」
「え?」
「私一人で大丈夫ですから。先に行ってください」
ルシアは笑ってみせた。
「本当に大丈夫です」
「……ごめんなさい。ありがとう」
侍女は申し訳なさそうに頭を下げる。
「後でちゃんと手伝いますから!」
「はい」
侍女は急いでその場を離れていった。
廊下に残されたのは、ルシア一人。
「……よし」
気を取り直して、散らばった書類を拾っていく。
一枚。
また一枚。
けれど――
「……あれ?」
手が止まった。
書類には数字や日付、部署名が並んでいる。
「これが……最初?」
別の紙を見る。
「……違う」
さっきまで分かっていたはずなのに、散らばったことで順番が分からなくなってしまった。
「どうしよう……」
ルシアが困ったように書類を見つめていると――
廊下の向こうから、足音が近づいてきた。
ルシアは気づかない。
やがて、その足音がすぐ近くで止まる。
そして――
何も言わず、一枚の書類が拾われた。
「……え?」
ルシアの手が止まる。
ゆっくり顔を上げる。
そこに立っていたのは――
カイルだった。
「…………」
ルシアは、驚きのあまり完全に固まってしまった。




