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誰も来ない中庭

それから、ルシアは中庭に来なくなった。

一日目。


カイルはいつものように木の下へ向かった。

本を一冊持って。


いつもと同じ場所に座る。


静かな風が吹き抜ける。


ページをめくる。


けれど、文字がなかなか頭に入ってこない。


カイルはふと顔を上げた。


「……今日は来ないか」


そう呟いて、また本に視線を戻す。


当然だった。


ルシアはもう、自分をただの庭師だとは思っていない。


ここへ来る理由もなくなったのだ。


二日目。


カイルはまた中庭へ来た。


昨日と同じ木の下。


本を開く。


それでも、時々入口のほうを見てしまう。


誰かが来る気配がするたび、ほんの一瞬だけ期待する。


けれど、現れるのは風に揺れる木々だけだった。


三日目。


「……今日も来ないだろうな」


そう思いながら、それでも足は中庭へ向かっていた。


自分でも分かっている。


来るはずがない。


それなのに。


もしかしたら。


ほんの少しだけ、そんな期待が残っている。

木の下に座り、本を開く。


しばらくすると、カイルはまた入口を見る。

誰もいない。


「……やっぱり」


小さく笑って、視線を落とす。


それから何日も、同じことを繰り返した。


ルシアは来ない。


それでもカイルは、中庭へ向かう。


ここに来れば、いつかルシアが現れるような気がして。


もちろん、そんなことは起こらない。 


けれど―― 


「今日は来るかもしれない」


そんな淡い期待だけは、どうしても捨てられなかった。


以前なら、木の下で本を読んでいれば、明るい声が聞こえてきた。


「カイルさん、また本読んでるんですか?」


そんな声が聞こえてきそうで。


カイルは時々、何もない隣を見てしまう。


そして、静かに目を伏せる。


「……静かだな」


いつも好きだった静けさ。


今は、その静けさが少し寂しい。


それでも次の日になると、またカイルは中庭へ向かう。 


誰も来ないと分かっていても。


もしかしたら――


という、小さな期待を抱えたまま。

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