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第99話 鍛冶国ドラクハイム

 ディラード王子が王位を継承して、王になった。王位継承の経緯が経緯だけに、自らが王位を得るために外部勢力を引き入れたなんて邪推をされるかもしれないと密かに危惧していたのだが、そういうこともないようだ。もともと、ディラード王子の継承権は第一位であり、先王の后である太后が支持を表明したこともあり、あっさり受け入れられたという印象である。


 むしろ、多くの国民からは歓迎されているらしい。近頃の王都は先王ブリジステッドの施策によって傭兵が集まり、治安が悪化していたという。ディラードは王位についてから治安回復に力を注いでいるため、国民からの評価に繋がったようだ。


 懸念があるとすれば、やはりエステラに侵攻している軍のことだ。先王の葬儀も執り行ったことで、ディラードを正当な後継者であるとは認め、彼らも一応は指揮下に入った。しかし、領土の返還には難色を示しているらしい。戦うことすらなく、結果だけを伝えられたため、納得できないようだ。


 そんな事情もあって、ハリム王国のアラヤ平和同盟——いつの間にかそんな名前に決まっていた——加入については見送られている。同盟参加勢力との火種を抱えたまま加入を認めるわけにはいかないからだ。エステラとしては、領土返還もなく謝罪だけで済ますというわけにはいかないのでこれは仕方がない。


 とはいえ、それでうやむやになっても困るので、裏では俺とバナンザ立ち会いのもと、エステラ王とディラードの会談が行われた。ディラードは非公式ながらエステラに謝罪。半年以内の軍の引き上げを約束している。


 つまり、半年が説得の期限というわけだ。場合によっては、俺とアブジンのコンビに出番が回ってくるかもしれない。そうなる前に説得に応じて欲しいものだ。


 ともあれ——


「これでしばらくは落ち着けるだろう」


 久しぶりに昼間から自宅でゆっくりできるぞ。普段はリコたちと一緒に遊んでいるピコも今日は珍しく家にいる。このところ、外出が多かったから、まだまだ甘えモードだ。この間のシャボン玉だけじゃ足りなかったらしい。


「ケント、ずっとお家?」

「ずっとは難しいけど、まぁ夜には家いると思うぞ」

「やった!」


 ピコが嬉しそうに跳ね回る。喜んでくれるのは嬉しいが……家にいるだけで喜ばれるのもどうなんだろうな。それだけ不在にしているってことで、申し訳ない気持ちになる。


「ゆっくりできるといいですけど……でも、もうそろそろ通知が来る頃ですよ」


 レンが湯気の立つカップを三つ運んできた。ノルスルから仕入れてきたお茶だ。最近では村に必要なものも揃ってきたので、こういう嗜好品にまで手が回るようになってきた。商業関係はイセオに任せっきりだが、うまくやってくれているようだ。ありがたい限りだな。


「……そうなんだよなぁ」


 目をそらしても仕方がないので、渋々認める。そろそろ月一の計画報告がある頃だ。この会話がフラグとなったわけじゃないが、直後に通知が頭に響いた。


「来たな」

「そうですね」

「来た? 何が?」


 この場では、ピコだけシステム通知が聞こえない。そのせいで不思議そうな顔をしている。


「ああ。ええと、いつもの声のことだよ」

「女神様だ!」

「うーん、そうだな……」


 くっ、ピコまでがフィクスを女神と呼ぶようになってしまった。いや、実際、それっぽい存在ではあるんだが。


 ピコへの教育はいずれ考えるとして、今はシステム通知だ。 戦争が活発化しているのか、最初のいくつかは俺たちとは関わりのない通知が流れていく。そして——



“アラヤ一家がアルワース平原を占領しました”


(中略)


“ハリム王国が滅亡しました”



 旧エステラの領土を含むハリム全土の占領とハリム王国滅亡の通知が流れた。


 うーん。予想はしていたが、ハリムは滅亡扱いか。


 今回は一部地域しかスキルツリーを配置していない。なので、特殊支配での占領ではないはずだ。おそらく、ホームオブジェクトを奪取したことでハリム王国を降したという判定なのだろう。


 実際には今もハリム王国は存在するし、今後も存続させる予定である。これはエステラ魔法国も同じだ。この辺り、ゲームシステムと実情との差を感じるな。まぁ、この差異のおかげで、大陸中を巻き込む大戦争を回避できるかもしれないのだから、俺たちにとっては望ましいことなのだが。


 とはいえ、実情を知らない“プレイヤー”からはアラヤ一家がハリムとエステラを飲み込んで大国化していると見えるはずだ。危険視されないといいのだが。


 そういう危惧があるため、自由都市同盟にスキルツリーを配置するのは控えている。場合によってはバナンザに、アラヤ一家とは別勢力の第三者として仲を取り持ってもらうかもしれないからな。


「レン、どうしたの?」


 いろいろ考えていたら、ピコがレンの顔を覗き込んでいた。言われてみれば、レンの顔が青い。


「体調が悪いのか?」

「いやそういうわけじゃないですよ。ピコちゃんもありがとうね」

「ピコにまかせて! お薬とってくるね!」

「あ、そうじゃなくて……って行っちゃった」


 返事も聞かず、ピコが飛び出していく。レンを心配して薬を取りに行ったようだ。ちなみに、アラヤ村で薬と言えば【病気耐性】の実のことなので、更に摂取したところであまり意味はないのだが……まぁ、こういうのは気持ちが大事だからな。


 村の中のことなので、ピコのことは心配ないだろう。それよりも、レンの顔色のことだ。病気でないにしても、何かあったのは明らかだ。


「体調じゃないんだったら、どうしたんだ?」

「それは……さっきの通知ですよ」

「? なんかあったか? 正直、地名と勢力名だけだと、何がどうなっているのかさっぱりだ」

「あ、先輩はそうですよね。実は——」


 レンの説明によれば、占領された地域の中に、ユーリッド聖樹国の領地が含まれていたらしい。それどころか、四つある初期領地のうち三つが奪われ陥落寸前なんだとか。


 侵攻側は鍛冶国ドラクハイムというドワーフの国家らしい。定番ながらエルフとドワーフは仲が悪いらしい。


「一ヶ月で三領地か。なかなかの勢いだな」


 うちはそれ以上の領地を占領しているが、特殊な例なのであまり参考にならない。


「そうですね。ですが、一月でと言えるかどうかは微妙ですが……」


 俺は見落としていたが、ユーリッド聖樹国と鍛冶国ドラクハイムは先月の通知時点で戦争状態になっていたらしい。しかもユーリッド聖樹国が仕掛ける形でだ。防衛戦でドラクハイム側が大勝したあとの逆侵攻ならば、三領地落ちてもおかしく——はないとのこと。


「ですが、ゲームにおいてユーリッドとドラクハイムの戦力は拮抗していました。何らかの理由がなければ、ここまで大きく情勢が動くことはないと思います」

「なるほど。“プレイヤー”か」

「はい」


 それはありえるな。ドラクハイムの大攻勢には“プレイヤー”が関わっているとレンは見ているようだ。

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