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第97話 妖精傭兵像

 結局、ろくに睡眠もとらないまま、俺はハリムの王宮に舞い戻ることになった。肉体的な疲労は取れていないが、ピコと遊んでリフレッシュしたので、精神的には休まったはず。何とか、乗り切りたい。


「ん、なんだ?」


 王宮の玉座を転移先として帰還魔法で転移すると、何やら騒々しい。まさか、ハリム王が戻ってきたんだろうか。


「旦那」


 俺に気づいたファンガが声をかけてきた。昨日からそのまま張り付いているらしく、脱出路の脇にファンガはいた。ただ、表情に険しさはない。この様子なら、王が戻ってきたわけではなさそうだ。


「何があったんだ?」

「いや。それがよくわかんねぇんだけどな」


 戸惑った表情でファンガが答える。それによると、少し前に例の傭兵像が突然動き出したらしい。言われてみれば、近くに転がっていたはずの像が消えている。


「大丈夫だったのか?」

「それはまあ。攻撃してきたわけでもないからな」


 なんでも、傭兵像は突然起き上がったあと、誰かを探すような仕草を見せたあと、いきなりどこかに駆け出したらしい。


「どこかって?」

「いや、知らねぇよ。ついさっきの話だ。一応、ピエールが追ったが……って戻ってきたな」


 ちょうど良いタイミングでピエールが謁見の間に戻ってきた。


「ケント様、お戻りでしたか」

「ああ。傭兵像が動き出したって聞いたが?」

「ええ、そうです。そのあと何故か宝物庫の前に居座っております。攻撃の意志はなさそうなので、とりあえず放置してきました」


 ピエールから見ても危険はないらしい。


 しかし、あの像がまさか動くとは。権限を奪取したことで、召喚したユニットも引き継いだということだろうか。


 勢力コマンドを確認してみると……おっ、項目が増えてるな。グレーアウトされていて選択できない状態だが、防衛ユニットの項目がある。ユニット名はアイゼンゾルドナーで、維持コストに必要な資源は金貨か。


 まさか、宝物庫の前に居座っている理由はこれか? つまり、賃金を寄越せと。


 具体的な数値が記載されてないのが怖いんだよな。小さな体の妖精でさえ、大食らいなのだ。ピエールでさえ対処に困る防衛ユニットを維持するにはどれほどの金貨が必要となるだろうか。


 まぁ、ここで考えていても仕方がないか。


「直接交渉するか」

「交渉するって、あの像とか? そんなことできるのかよ」


 ファンガが呆れたような目で俺を見る。もちろん、できる保証はないが、支援ユニットの妖精と会話できるのだから、防衛ユニットとできない理由はないだろう。


「さぁ? それも含めて確認だ」

「まぁ、旦那の好きにすればいいけど、気をつけろよ」

「ああ」


 と答えたものの、あの傭兵像……ええと、アイゼンゾルドナーだったか、あれが突然暴れ出したら、俺の身体能力ではどうにもならない気がするが。


 危険だが、それでも交渉を取りやめる気はない。あの性能、消滅させてしまうには惜しいからな。勢力コマンドが追加されているので、再召喚できるかもしれないが、グレーアウト状態なのが気になる。ひょっとしたら、再召喚できないかもしれない。


「では、案内しましょう」

「ああ、頼む」


 ピエールの案内で、宝物庫へと向かう。どうやら、王宮の奥の方に向かっているようだ。


「こういうところって、勝手に入っちゃダメなんじゃないか?」

「それは今さらですな。そもそも、王宮を関係者以外が単独でうろついていることが問題です」

「まぁ、そうか」


 言われてみればそうだわ。たとえ、賓客であっても、普通は案内がつくよな。


 まぁ、俺たちも関係者ってことでここはひとつ。実際、たびたび人とすれ違っているが、特に咎められることはなかった。どうやら俺たちのことは通達がいっているようで、兵ではない文官っぽい人からも通りすがりに頭を下げられる。何だか自分が偉くなったかのようだ。実際のところは、ハリムの行く末が決まっていない現状、それを多少なりとも左右する俺たちを丁重に扱っておこうというところかな。


「あちらです」

「おお、人が集まっているな」

「今は大人しくしていますが、王子を傷つけたのですからな」

「そりゃそうか……」


 できれば維持したいと思っていたが、ハリムの兵たちの心証を思えば、よくないか? まぁ、スカウトすれば村に連れ帰るつもりだし、気にする必要はないか。


「ケント殿。戻られましたか」


 宝物庫を取り囲む人だかりに近づくと、こちらに気づいた大男が話しかけてきた。ダントンだ。


「ああ。あの像について調べたくて。いいか?」

「私にそれを許可する権限はありませんが、ケント殿がそうしたいというのでしたら、止められる者はおりません」


 言質は……とれてないが、まぁいいや。あの傭兵像は野良みたいなものなので、問題なしということで。


「アイゼンゾルドナー」


 呼びかけると、宝物庫の扉の前に座り込んでいた傭兵像が立ち上がり、こちらを向いた。取り囲む兵たちからどよめきが上がるが、傭兵像はその反応を気にした様子もなく、じっと俺を見ている。


「契約更新をしたい」


 そう言うと、無表情だった傭兵像の顔にニヤリと笑みが浮かぶ。やはり、こちらの言葉は理解できているらしい。


「まずは、日々のコストについて聞きたいんだが……お前、喋れたりしないか?」


 表情や仕草である程度の意思疎通は図れそうだが、値段交渉となると厳しい。できれば会話でやり取りしたいのだが、傭兵像は難しい顔をしている。


「無理か。だったら、筆談でもいいんだが……ん?」


 筆談を提案したら、待てのポーズ。顎に手をあて、考える素振りを見せた傭兵像は、ふいにパチリと指を鳴らした。


「お、おお?」

「像が……縮んでいく?」


 みるみるうちに像は縮んで、気づけば像は子どもくらいのサイズになってしまった。金属像のような姿のままだが、見た目は支援ユニットにそっくりだ。あそこまで小型ではないが。


「あーあー! これでどう!」

「あ、ああ、大丈夫だぞ」

「よかった!」


 元の渋いおじさん姿からはイメージできない甲高い声だ。というか、喋り方といい、まんま妖精だな。


「なんと!」

「守護者が子どもの姿に」

「これが女神の……」


 兵たちがざわめいている。まぁ、気にしないでおこう。


「ええとね、契約はね。金貨が欲しかったんだけど、木の実でもいいよ!」


 んん?

 

「木の実って?」

「ケントの村にあるヤツ!」


 はい、スキルの実ですね。もしかして、妖精のような見た目になったことで嗜好も変化したのか?


 まぁ、なんにせよ木の実なら売るほどある。これで傭兵像改め、妖精像も維持できそうだ。


 ただ……これ、戦闘能力は維持できてるのか?

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