表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/114

第92話 動く傭兵像

「なんだ、あいつは!?」


 ファンガが素っ頓狂な声を上げた。それほどに、ディラード王子を射た曲者はおかしな容貌をしていた。


 手足があれば、頭もある。矢を射ることからもわかるように、人としての振る舞いもできる。しかし、間違いなく人ではない。何故なら、そいつは金属でできていた。全身が、身にまとっている衣服を含め、銀色に鈍く輝いている。


 動かなければ鉄製の彫像とでも勘違いしたかもしれない。しかし、そいつはわずかな軋みさえもなく、滑らかに動いている。


「ケント様!」


 悲鳴のような声が俺の名前を呼んだ。それが誰の声か考える余裕はなかった。


 目の前に矢が迫っている。不思議なほどにゆっくりと。


 しかし、思うように避けることはできなかった。俺の体は矢よりもゆっくりとしか動けない。どうやら、危機的な状況に、脳だけがフル回転しているようだ。矢だけではなく、周囲の時間もゆっくり流れている。さっき叫んだのはルイだったようだ。イザベラとともに、こちらに駆けようとしているのが見える。だが、流石に矢を追い抜くほどのスピードではない。


 矢はまっすぐ飛んでくる。このままでは、俺は心臓を射抜かれて命を落とすだろう。どうにか、少しでも位置をずらしたいが――


 その時、右側から大きな衝撃を受けて、俺は吹き飛ばされた。と同時に、周囲の時間が元に戻る。


「ルーマ!」

「旦那を守れ!」


 すぐに身を起こし、周囲の状況を確認する。俺はどうやら、ルーマの体当たりを受けたらしい。おかげで矢を逃れることができた。代わりにルーマが矢を受けたようだ。


「ケント様、大丈夫ですか!」

「おのれ、あの鉄クズがぁっ!」


 ルイとイザベラが駆けつけて、助け起こしてくる。心配してくれているようだが、イザベラの豹変が少し怖いぞ。


 傭兵像はピエールとファンガが注意を引きつけてくれている。脱出路を守るような位置取りで、大きくは動かないようだ。


「ルーマ、大丈夫か」

「すまない。肩をやられた」


 俺の問いに、ルーマが不甲斐なさそうに答える。矢が刺さったのは肩だったので、命に別状はないが、武器を持っての戦いは厳しいようだ。


「いや、おかげで助かった」

「礼には及ばない。これが仕事だ。しかし、面妖な。刺さった矢が消えたぞ」


 ルーマは傷を負ったことよりも、矢が消えたことを気にしている。刺さった瞬間に消えたらしい。たしかに不思議だが、金属の像が動き回っているのだからそういうことが起きても不思議ではないと思うけどな。


 それよりも傷の手当をしたほうがいい。矢が消えたせいで、傷口を塞ぐものがなく、結果として流血が酷い。


「ローニー! ルーマの手当を頼む」

「わかった。ほら、まずは座りなさい」


 ルーマのことはローニーに任せて、俺は呆然と立ち尽くす、ハリムの兵に声をかける。


「あれはなんなんだ?」

「あ、あれは、陛下が召喚した守護者だ」

「守護者?」

「私も詳しいことはわからない。城から脱出される直前、陛下はふと思い出したように、玉座に戻られ、あれを呼び出された。そして、脱出路と玉座を守るように指示されたのだ」


 ハリム兵も存在を知らない守護者、ね。ひょっとして、勢力コマンドを使って呼び出したのか? うちの妖精は生産活動を補助する支援ユニットだが、勢力によっては戦闘系のユニットを呼び出せるのだろう。


「守るのはわかるが、何故王子まで」

「そ、そうだ! 殿下をお救いしなければ!」


 予期せぬ出来事に呆然として兵たちも、ディラード王子の危機を思い出し、彼を救おうと幾人かが玉座に駆け寄る動きを見せた。


 だが、そうはさせじと傭兵像が動く。牽制するファンガとピエールを無視し、素早い動きで矢を射た。射たれた数人は倒れ、残る兵の足も止まる。


 おいおい、無差別攻撃かよ。これじゃあ、玉座の近くで倒れている王子に近づけない。


 王子が矢を受けたのは腹部だった。おそらくまだ生きているだろう。しかし、血を失いすぎれば失血死の可能性がある。急がなければ危ない。


 ファンガとピエールなら傭兵像の矢に対応できるだろうが、王子を運びながら避けるのは流石に無理だ。さっさと傭兵像を倒してしまうほうが現実的かもしれないな。


「ファンガ、ピエール! そいつは倒せそうか?」

「駄目だ! 殴ってみたが、固ぇ!」

「私も厳しいですな。これを破壊するのは骨が折れそうです」


 二人でも駄目か。となると。


「アブジン、魔剣は!」

「駄目だ! ここでぶっ放したら王子を巻き込む!」


 く……それもそうか。王子が倒れている場所は、脱出路から近い。魔剣の過剰威力では王子をも巻き込んでしまう。


 マズいな。妖精もたいがいだが、あの傭兵像もなかなかのチートだ。今まで召喚しなかったのはなんでだ?


 ああ。妖精と同じく、燃費が悪いのか。長くは呼び出しておけないんだろうが、この状況では関係ないな。流石に一日二日なら維持できるだろう。


 では、どうするか。可能性があるとすれば、システム面での対策だな。勢力コマンドで呼び出したのなら、それを利用できなくすれば、消せるのではないか。


 狙うのはホームオブジェクト。ハリム王の直前の行動から判断すれば、玉座がそうだろう。あれの権限を奪うことができれば、どうにかできるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ