表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/118

第91話 脱出路に潜む悪意

 謁見の間は二階らしい。ディラード王子の案内のおかげで、迷うことなく辿りつくことができた。両開きの立派な扉が、俺たちの前に立ち塞がる。


「ここにも兵がいないな」

「中で待ち構えているのだろう」

「たしかに多数の気配がありますな」


 俺の疑問に、アブジン、ピエールが答える。


「旦那は少し下がってな」


 ファンガの指示に従い、俺はディラード王子、護衛のルーマ傭兵団と一緒に扉から少し距離を取る。残る面々が扉の両脇に立った。


「開くぞ!」


 ファンガとピエール、それぞれ扉を開く。


 直後、中から「放て」と声が響き、大量の矢が飛んできた。しかし、こちらもそれは予想していたので、正面には誰も立っていない。


「突入だ!」


 矢が途切れたところを見計らって、ファンガが号令を発した。即座に反応した獣人たちが、恐れもせずに部屋になだれ込んでいく。


「兵は五十程度! ですが、ハリム王らしき人物がおりません!」


 すぐにピエールから報告が飛んだ。


 しかし、ハリム王がいない? 兵の数も想定よりも少ない。


「王子?」

「ひょっとしたら、形勢不利と見て、城を脱したのかもしれないな。非常時の脱出路があると聞いている」


 脱出路か。たしかに、王族用が逃げ延びるための秘密の通路とかありそうだよな。


「場所はわかるか?」

「すまないが、正確な場所はわからない。たしか、玉座の後ろに仕掛けがあると聞いたような気がするが……」


 王子も正確な場所は知らないようだ。まぁ、どのみち、中に居座る兵を排除しなければどうにもならないんだが。


「兵しかいないら、私が投降を呼びかけよう」

「そうだな。頼めるか」


 ディラード王子の申し出を受け、俺たちも謁見の間へと移動する。幸い、敵兵たちはこちらに注意を払う余裕はないらしく、矢は飛んでこなかった。


「ハリム将兵に告ぐ! 武器を捨て投降せよ! 無駄な血を流す必要はない!」


 凛とした声は、戦いの中でも通りが良かった。指示が浸透し、ハリム兵が戦いを止める。しかし、すぐさま武器を捨てるということはなかった。


「ディラード殿下! なぜ、こちらに……?」

「まさか、敵に寝返ったのですか!?」


 糾弾の声にも動じず、ディラードはゆっくり首を振る。


「そうではない。あくまで、無駄な血を流さぬためだ」

「無駄ではありません! 敵兵を一人でも減らせば、それだけ王国の勝利に近づきます!」

「諸君らの気持ちはわかる。しかし、無駄なのだ。魔剣の話は聞いていないか?」

「そ、それは……」


 投降に応じないと息巻く兵たちが、魔剣と聞いて怯む。「まさか」とか「やはり」とか聞こえてくるので、報告には聞いているのだろう。まぁ、ここまで派手に使ってきたからな。


「アブジン殿」


 ディラード王子がアブジンの名前を呼ぶと、兵たちがざわめいた。どうやらハリムでもアブジンの名前は知られているらしい。


「何か?」

「魔剣の威力を披露して欲しい」

「ここでですか? 酷いことになりますよ」

「実際に見なければ納得できぬ者もいるだろうからな」


 アブジンがどうするって顔で俺を見るので、頷いて肯定を示す。無用な犠牲が避けられるならそのほうがいいからな。代わりに謁見の間に大きな被害が出そうだが、ディラード王子が良いというのだから構うまい。


「では」


 誰もいない壁に向け、アブジンが魔剣を振る。室内ということで、多少威力を抑えたようだが、黒刃は容易く壁を切り裂いて、隣室の様子があらわになった。


「「「なっ!?」」」


 驚くハリム兵を尻目に、アブジンは更に剣を振る。位置をずらして、三振り。結果として、部屋を仕切る壁は完全に取り去られた。


 兵たちはもはや声も出ないようだ。けしかけたはずのディラード王子さえ、絶句している。


「このように連続して放てる。威力はこれでも抑え気味だ。ほとんど消耗もないので、時間をかければ、城を破壊することもできるだろう」


 兵に向けて、アブジンが宣言する。我に返ったディラード王子が、青ざめた顔で続けた。


「見ての通りだ。王宮での戦いに持ち込まれた時点で、我々に勝ち目はない。見たところ、陛下は城を脱したのだろう? ならば、君たちは十分に役割を果たしたと言えよう。何も命まで失うことはない!」


 魔剣の威力を目の当たりにしたことで、兵たちも抵抗は無駄だと悟ったようだ。チラホラと武器を手放す者が現れ、やがて全員が投降に応じることになった。その結果に、ディラード王子がホッと息を吐く。


 これで、王宮は制圧したってことでいいんだろうか。


 しかし、肝心のハリム王には逃げられてしまったな。エステラ方面にはまだ兵がいる。合流されると面倒なことになりそうだ。


「ディラード王子、脱出路は?」

「追われぬように、潰されていると思うが」

「それでも調べておかないとな」

「そうか。聞いた話ではこの辺りに……」


 仕掛けを探すべく、ディラード王子が玉座の裏に回り込む。何か操作すると、ガタンと音を立て、壁際の床が開いた。どうやら、脱出路が見つかったようだ。


 と、そのときだ。その脱出路から何者かが飛び出し、矢を放った。

 

「ぐっ……」

「殿下っ!?」


 矢がディラード王子の体を貫いた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ