第84話 作戦開始
「こちらです」
合流したルイが案内してくれたのは、商業区の外れにある空き家だった。潜伏中彼らは宿住まいだったようだが、作戦のための拠点となる建物も探してくれたようだ。それが、この空き家というわけだ。
放置されて長いのか、かなり埃っぽい。ごく普通の空き家なのだが、ただひとつ、部屋の中央に居座るそれが強烈な存在感を放っていた。木である。
え、なんで、木? ここ、普通の民家だよ。日本の田舎では、竹が床板を破って成長するって話は聞いたことがあるが、ここに生えているのは普通の木だ。床板は取り去られているから、自然に生えたわけじゃないだろう。
「この木は……いったい?」
「私が持ってきました!」
戸惑い気味に尋ねると、イザベラが誇らしげに宣言した。
持ってきたって……木を? 端材とかじゃなくて、かなり立派な木だぞ。それを引っこ抜いて運んできたのか。古代種ならできなくはないのかもしれないが、流石に一人では無理だろ。
ちらりとルイを見るとゲンナリした顔で頷いた。どうやら手伝わされたらしい。
しかし、木を運んでくるとはね。その発想はなかったので、目から鱗が落ちる思いだな。
スキルツリー化には、元となる木が必要だ。木がなければ、スキルツリーは作れないし、帰還魔法のアクセスポイントも作れない。しかし、これがうまくいくならどこにでも設置できるようになるぞ。それどころか、植木にして運べば……まぁ、その辺りは後々検証しよう。
「イザベラは凄いな。助かった」
「は、はい! お役に立てて光栄です!」
礼を言うと、イザベラはピンと背筋を伸ばして返事をした。うーん、固いな。かなり緊張しているようだ。
ルイもそうだが、なんだかやけに敬われている気がするんだよな。村に迎え入れたことに恩義を感じてるんだろうけど、こっちとしても住人が増えて悪いことはないのだから、気にしなくていいんだが。
まぁ、無理矢理砕けた態度をとらせるのも違うと思うし、今はこれでよしとするか。村には馴染んでいるし、そのうち慣れるだろう。
「じゃあ、ここは俺が接木しよう。ピエールは他を頼む」
「わかりました」
「候補地はいくつか見繕っているので、俺も同行します」
転移先として利用するために、スキルツリー化を行う。ここなら、運んできた兵も隠せるので便利だ。どのみちシステム通知でスキルツリーの存在はバレてしまうが、発見を遅らせることができればそれでいい。
スキルツリー化するのが一箇所だと、すぐに兵を差し向けられてしまうので、対策としてダミーのツリーも作る予定だ。そちらはピエールに任せた。ルイの案内もあるので、さほど時間をかけずに作業を終わらせることができるだろう。
あとはスキルツリー化待ちだ。接木した次の日には変化しているはずだが、今回は時間との戦いになるので、寝ずに待つ。真夜中、おそらく日付変更のタイミングで、それは起きた。
「ケント様」
「……ん? あ、ツリーか!」
うとうとしていたところ、イザベラに声をかけられて、木に視線をやる。接いだ枝がうっすら光っている。光は徐々に木全体に伝わり、同時に枝葉にも変化が起きた。気づけば、枝は青い実をつけ、それがみるみる成長していく。変化がはじまった数分後には見慣れたスキルツリーになっていた。
「こんな風にスキルツリー化するのか」
「うむ。拝んでおこう」
感心する俺の横ではアブジンが木に祈りを捧げている。そんな神聖なものではないんだがなぁ。とはいえ、魔剣の影響を受けるアブジンにとっては命綱とも言える存在だから、拝みたくなる気持ちもわからないではない。なので、好きにさせている。
おっと、呑気にアブジンの様子を観察している場合じゃないな。さっさとファンガたちを運んでこないと。村に戻る前に新たな聖樹に触れて、アクセスポイントを登録。これで、準備は完了だ。
「私は他の木を確認してきましょう」
「わかった。けど、無理するなよ」
「無論です。遠目から確認するだけにしましょう」
ピエールを見送って、俺は村に戻る。スキルツリー前の広場には、すでに準備を整えたファンガたちが控えていた。
「準備はできているか?」
「もちろんだぜ、旦那。あっちの状況はどうだ?」
「それは向こうでアブジンに聞いてくれ」
「おっと、そうだな」
説明の時間を惜しんで、兵たちをハリムの拠点に運ぶ。運びやすいように五人組を作っているので、各組ごとに運ぶ形だ。内訳は獣人兵士四十人にルーマ傭兵団の四人。人数は心もとないが、ルーマを除けばほぼ獣人で構成された少数精兵部隊だ。
全員運ぶには九往復必要だ。その途中でピエールが戻ってきた。
「聖樹化は問題ないですな。ですが、敵の対応が早い」
スキルツリーを確認するついでに王宮を確認してきたらしい。篝火を焚いて騒がしくしていたので、兵を出す準備をしていたのだろう。
「マジか。こっちがいつ来るかわからなかっただろうに」
システム通知が受け取れるのは“プレイヤー”だけだよな。ってことは、ハリム王は寝ずに待ち受けていたのか? あ、いや、もしかしたら寝ているときに通知を受けたら目を覚ますのかもしれん。それは確認してなかったな。
「っち! ここも見つかったかもしれんぞ」
ファンガが声を上げた。どうやら、ここにも兵が駆けつけてきたらしい。
本当に対応が早い。これは個別に木を切ってる速さじゃないな。全てに兵を送っているのか。
だが、悪くはない展開だな。各個撃破できれば人数差の不利は小さくなる。
「ここは俺たちで対応する。ケントは兵を運べ」
「わかった。アブジンは……やりすぎるなよ?」
「わかってる。ここで魔剣は使わんよ」
まぁ、ファンガ、アブジン、ピエールがいれば少数の兵に負けることはないだろう。だが、いつまでもスキルツリーが伐採されないとなると兵が集まってくるはずだ。それまでに兵を運んでしまわなければ。




