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第77話 ファンガの提案

 かなり冷え込むようになってきた。冬支度は万端……と言いたいところだが、実は全然足りていない。


 というのも、予定外に住人が増えてしまったからだ。補給基地から運んできたエステラの住人が五十人ほど。彼らはそのままアラヤ村に滞在している。一次避難のつもりだったんだが、すっかり馴染んでしまったんだよな。ほとんどがこのままアラヤ村に移住するつもりらしい。いつハリムに攻め込まれるかわからない村に戻りたくないのはわかるが、そのまま居着くとは思わなかった。ここも、魔物がはびこる森の中なんだがなぁ。


 そんなわけで家や防寒具が足りない。エステラはこの森よりも寒いから、寒さには慣れていると言っても限度はあるからな。ベンゼル村の要塞化は十分なのでカペタを呼び戻して、また家を建ててもらっている。


 というわけで、俺も整地魔法で村の敷地を広げる作業で忙しいんだが――


「旦那。それでハリムにはいつ攻め込むんだ?」


 マナ回復の休憩中、護衛をしていたファンガがとんでもないことを言い出した。


「攻め込む? うちの村の戦力でか? それは流石に無謀だろ」


 アラヤ村の住人は妖精も含めても二百人くらい。はじめは俺一人だったことを思えば驚くほど増えたが、それでもごく普通の村程度の大きさでしかない。しかも、ほとんどは非戦闘員。妖精も敵地に攻め込む場合あてにはできない。逆侵攻などとても無理だ。


「そうか? ハリムの兵はほとんどがエステラの旧領に駐在しているんだろ。王城を一気に攻めれば落とせないか?」

「いや、少なくとも近衛兵はいるだろ。守備兵だっていくらかは残してるだろうし」

「ルーマが言うには、本当に最小限らしいぞ。少数で攻めれば、わざわざ国境から引き剥がすことはないだろ」


 情報元がルーマというのが少々心もとないが、事実なら確かにそうか。少人数なら脅威度は低いと敵も判断するだろう。隣国の野心を誘発しかねない国境兵の動員は避けるか。何なら、バナンザやアブジンに頼んで西側から攻める構えを見せてもらってもいい。実際に攻めずとも、国境に兵を出すだけで、ハリムの国境兵も動けないはずだ。


「とはいえ、近衛兵だけで結構いるだろ。傭兵も残っているだろうし」

「傭兵は気にしなくていいだろ。ハリム王はケチらしいから、積極的に動いたりはしないと思うぞ」


 傭兵は基本的に契約で動く。ときには、働いて恩を売るために契約前に動くこともあるが、それは後の恩賞が期待できる場合に限る。ハリムは契約金が渋いと傭兵たちには不評らしい。これはローニーが、一緒に行動していた傭兵たちから聞いた話だそうだ。となると、傭兵たちが自主的にハリム王を守ることはなさそうだな。騒ぎに便乗して、ハリム内で略奪を働くことはありそうだが……。


「それでも近衛兵がいる」

「まぁな。五百はいるらしい。だが、ルーマも協力してくれるって話だし、いけるだろ」

「ルーマも連れていくつもりなのか……」


 少しの間に、ずいぶん仲良くなったなぁ。


 ルーマは傭兵団長なんかやってるわりに曲がったことが嫌いな熱血漢だ。そして、強い。それが獣人の男たちにとって好ましく映るらしく、あっという間に村に馴染んだ。正直、ローニーたちよりも馴染んでると思う。ルーマはルーマで、村人たちからハリムの傍若無人ぶりを聞かされてハリム王許すまじと息巻いているらしい。


「ローニーたちも協力するって話だ」

「そこまで根回ししているのか」


 ローニーたちの目的は住人のスカウトらしい。ファンガたちに恩を売ろうとするのはわからない話ではない。それに、ハリムが滅ぶまで村の外に出さないって約束だからな。早く自由になるために積極的に協力することもありえるか。


 と言っても、増えるのは四人だ。いずれもクロニクル・オブ・ロードの英雄キャラクターなので、一般兵に比べれば戦闘力は高いが、それでも人数差は大きい。


「あとはアブジンのヤツも連れてくればなんとかなるだろう」

「アブジンか。協力してくれるかねぇ」

「危険な隣国を排除できるチャンスなんだ。アイツなら来るだろうさ」


 ファンガには確信があるらしい。


 アブジンには自由都市同盟の兵を率いてもらうつもりだったが、近衛兵たちとの戦闘を考えれば、アブジンの魔剣は頼もしい戦力になるな。自由都市同盟の兵はあくまで牽制役。実際に戦わないのなら、率いるのはアブジンでなくてもいいか。


 って、ファンガにつられてすっかり戦う前提の話になっているな。とはいえ、勝機が十分になるなら、仕掛けるべき……なのか?


 正直言って、俺は自分から戦いを仕掛けたくはないんだよな。その結果人が死ねば、その責任は俺が背負うことになる。想像するだけで、震えがきそうだ。


 だが、この思考が逃げだとも思っている。


 これはウォーゲーム。バナンザも言っていたが、背後に出資者とやらの存在がある限り、戦争なしでなぁなぁで済ますことはできないだろう。


 俺が動かなくても争いの火は広がっていく。いずれかの勢力が拡大していったとき、それに対抗する力がなければ俺たちのアラヤ一家も飲み込まれてしまうだろう。その結果、ピコが、村の仲間たちが死んでしまったら後悔してもしきれない。


 ならば、どうするか。逃げずに動くしかないのだ。


「わかった。とはいえ、準備も必要だ。俺たちだけで動く必要もないしな」


 せっかく同盟を組んだのだから、協力してもらわなければ。ハリムへの侵攻なら嫌とは言わないだろう。


「ま、その辺りは旦那に任せるぜ! 俺たちもいつでも動けるようにしとくから、準備ができたら声をかけてくれ」


 肯定的な返事を聞いたことで機嫌が良くなったファンガが口笛を吹きながら村に戻っていく。おいおい、護衛はどうした。


 まぁ、呑気に整地をやっている場合じゃないか。すぐに同盟勢力に相談をしなければ。


 まずはバナンザだな。俺を盟主に押し上げたんだから、せいぜいこき使ってやるからな。

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