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第76話 ローニーたちの事情

ローニー視点


 やむなく受けた依頼がこのような結果をもたらすなんて。危うく同胞と殺し合うハメになっていたわ。幸い、村長さんが降伏を受け入れてくれたから良かったけど。しばらく村に留め置かれることになったけど、それは好都合。村人と接触できる機会があるなら、勧誘の機会も増えるものね。


 そう思っていたのだけど……


 一通り、村の中を見て思った。これは勧誘は難しいかもしれない。


「いい村」


 ぽつりとウェルが呟く。珍しいわね。あまり感情を見せないウェルにしてはうっすら笑顔が浮かんでいる。


「そうだな。皆、満ち足りた顔をしている。悪いことではないが……勧誘は難しかろう」


 ラピードがしかめっ面でそういう。しかめっ面なのはいつものことなので、別に不満があるわけではない。ただ、意見自体はもっともだ。


 この村は“アラヤ村”というらしい。死招きの森は危険な場所と聞いてるけど、そんな場所にあるとは思えないほど大きな村だ。まだまだ発展途上という感じだけど、村人は百人以上いるみたい。しかも、獣人と普人が半々くらい。獣人はどこにいても扱いが悪いのだけど、ここではそんなことがない。村長さんが、そういったことを許さないらしい。獣人の子を娘にしているのだから、表立って嫌悪感を出す普人はいないわよね。それどころか、表面上だけでなく、かなり仲良くしているように見える。こんな場所は珍しい。きっと今の生活には不満はないだろう。だったら、わざわざ戦いに身を投じようとは思わないでしょうね。


「それでも、一応声は掛けよう。もしかしたら、応じてくれる人がいるかもしれないわ」


 私の言葉にラピードとウェルが頷く。と言っても、声をかけるのは私の役割なのよね。二人は交渉事が苦手なようだから。


 スカウトについてはそれでいい。仲間が増やせないのは残念だけど、同胞が幸せに暮らせているのは悪いことじゃないから。


「それより、ピコちゃんのことはどう思う?」


 マーリアーニが滅ぶ直前、赤ん坊だった公女様が聖猫様に守られて国を出られた。今から五年前のことで、生きおられればピコちゃんくらいのはずだ。猫に守られて森で暮らしていたと聞いたときには公女様だと思ったのだけれど。


「何とも言えん。偶然にしてはできすぎているように思えるが……」

「あの猫たち、聖猫様じゃない」


 ラピードもウェルも微妙な表情だ。公女様が生きていたと信じたいけど、確証を持てない。そんな状況をもどかしく思っているのだろう。気持ちはわかる。私だってそうだもの。


 ピコちゃんと一緒にいたという猫たち。聞いていた特徴とは違うので聖猫様ではなさそうだ。だから、聖猫様の配下なのかと思ったけど、彼らは聖猫様を知らないと言う。


 けれど、あの猫たちは明らかに普通じゃない。人の言葉を完璧に理解してるようだし、魔物がはびこる森の中で生き抜く力もある。そんな猫たちが聖猫様と無関係だなんてことあるだろうか。

 

「焦るな」


 ラピードが短く言った。端的すぎて意図がわからない。


「私に言ってる?」

「そうだ。結果を急ぎすぎるな。まずは信頼を得るべきだ」


 うーん。結局、どういうことなのよ。ホントに寡黙なんだから。昔はこんなんじゃなかったのに、どうしてこんなになっちゃったのかしらね。


「信頼っていうのは、あの猫たちの?」


 確認すると、ラピードは少し首を傾けて頷いた。この仕草は掠ってるけど完璧な正解じゃないってところね。


「ピコ、村長に懐いてる。そっちも大事、だよ」


 ウェルが付け加えると、ラピードは今度こそまっすぐに首を上下させた。正解らしい。


 なるほど。要はピコちゃんの周りの人たちの信頼を得ろってことね。


 ピコちゃんが公女様だったとしても、出会ったばかりの私たちに打ち明けてくるとは限らない。信頼を深めて、打ち明けてくれることに期待しろってことね。


 もし、公女様じゃなかった場合、時間を無駄にすることになるけど……いや、そうでもないわね。ここには同胞も多くいる。仲を深めておくことは将来的にプラスに働くはず。スカウトは他の仲間に任せて、私たちはこの村に滞在するって方針が良さそうね。


「わかったわ。それじゃ、村で活動して信頼を得ることを目標にしましょう!」

「うん……」


 ウェルは返事をしてくれるけど、小声すぎてギリギリ聞き取れるくらい。ラピードに至っては無言で頷くだけだ。ホント、愛想がないのよね。こんなことで、仲を深めることはできるのかしら。ちょっと不安になってきたわ……。



ケント視点


 ルーマ傭兵団の獣人三人の故国マーリアーニは五年前に滅んだらしい。ゲーム時代のクロニクル・オブ・ロードではどういう扱いだったのか気になったので、レンに尋ねてみたのだが、作中にマーリアーニという国名は出てこないらしい。


「ですが、ローニー、ラピード、ウェルの名前は覚えがありますよ。魔帝国ゲヘルキアに対するレジスタンス勢力の英雄だったはずです」


 なるほど。マーリアーニを滅ぼしたのがその魔帝国ゲヘルキアなんだろうな。


「でも、そうなると、そのレジスタンスの英雄がこの森にいることになるな」


 俺たちがこの世界に転移したのは、聖暦一二〇〇年。これは、ゲーム『クロニクル・オブ・ロード』が始まる年と同じだ。つまり、今の時期、本来ならば彼女たちは魔帝国ゲヘルキアの一角で立ち上がっているはずである。


「そうですね。ですが、ゲームの歴史をそのままなぞるとは限りませんよ。僕らのような異物がいるわけですし」


 レジスタンス勢力を選択したとき、オープニングイベントでゲヘルキアの一部地域で蜂起するところから始まるらしい。


「ゲーム開始から、敵対状態の国と隣り合わせです。しかも、戦力差は非常に大きい。上級者向けのかなりシビアな勢力なんですよ、レジスタンス軍は。もし、リーダーが“プレイヤー”なら、不利な状況での蜂起を避け、潜伏を続けるんじゃないですかね」

「じゃあ、ローニーたちが仲間集めをしているのも、リーダーの方針ってことか?」

「その可能性は高そうですね」


 新たな“プレイヤー”か。まぁ、死招きの森からは離れた場所なので、当面は関係なさそうだな。


「ローニーが気にしていた“聖猫”については何か知ってるか?」

「いえ。ですが、僕はレジスタンス軍でプレイした経験がないので、なんとも……」


 おお、そうか。レンでも知らないことはあるんだな。ま、結局、ノアたちは聖猫ではなかったようだし、気にしても仕方がないか。


---

ローニー 種族:獣人(犬耳)


レジスタンス軍『銀の刃』所属の英雄。勢力固有の英雄なので能力値は固定。長身だが、まだ若く十九歳。


戦闘:65 統率:67

知略:55 工作:66

話術:47 商才:72

儀礼:71 世話焼き:78


 尖ったところがなく、ゲームではいまいちな評価。しかし、現実となると、なんでもこなせるオールラウンダーなところは管理職向き。世話焼きな面もあるので、スカウト隊のリーダーに任命された。部下は幼馴染二人。いつも振り回されて大変な思いをしている。



ラピード 種族:獣人(狐耳)


寡黙で古めかしい口調だが、実は二十歳。


戦闘:77 統率:52

知略:83 工作:37

話術:28 商才:33

儀礼:43 軽業:82


 戦闘向きの能力だが、獣人英雄としては控えめ。しかし、身のこなしの軽さを活かして敵地潜入などはできそう。喋るのが苦手なので、交渉役としては不適。



ウェル 種族:獣人(兎耳)


無口な兎耳獣人二十歳。実は無口なのではなく声が小さいだけで、ぼそぼそ喋っている。悲しいかな気づかれないことも多い。


戦闘:81 統率:21

知略:61 工作:79

話術:31 商才:48

儀礼:47 弓術:88


 三人の中では個人戦闘力は一番高い。特に弓の扱いに優れている。反面、兵を率いるのは不向き。声が小さいので指示が通らない。

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