表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/115

第73話 ルーマ傭兵団

 こちらの戦闘要員は二十人ほど。ファンガとピエールがいるので、同数以上とも渡り合えるだろう。しかし、それにも限度がある。


 化物がハリボテだと気づいたら、傭兵たちは反転して襲いかかってくるに違いない。人数差は倍以上で、三倍にも届きそうだ。真っ向勝負で覆すには厳しい戦力差である。仮に勝てたとしても、どれほどの犠牲を払うことになるか。


 転移で逃げるのも厳しい。帰還魔法は全員が習得しているが、俺以外は呪文の高速詠唱に慣れていないのだ。敵前で即座に魔法を唱えるのは現実的じゃない。もし失敗して取り残されたら危険だ。


「ケント、どうする?」

「向かってくる傭兵団をうまく飲み込んでくれ!」

「わかったー」


 敵は一直線に走ってきている。幸い、あとに続く傭兵団はいないようだ。うまく分断できれば勝機はある。だからこその『飲み込む』作戦だ。


 やることはシンプル。ルーマ傭兵団とやらが突っ込んできた瞬間に布を操り、攻撃を回避しながら布のこちら側に招き入れるだけだ。


 突っ込んでくるルーマ傭兵団とやらは少数っぽいので、ヤツらだけなら勝てるはずだ。それ以外の傭兵には帰ってもらうことにしよう。そのためにはうまく対処しないと。


「やぁぁぁ! む?」


 近づいてきた勇ましい声が、不審の色をにじませて止まる。まずい、気づかれたか。まぁ、足元は布がだぶついているような状態だからな。そりゃ気づかれるか。


「飲み込め!」

「わかった!」


 布の体を前進させ、ルーマ傭兵団を内側に取り込むように妖精たちに指示する。


「ルーマ!」

「来るぞ、警戒しろ!」

「わぁ!」


 流石に無抵抗とはいかず、布が切り裂かれてしまったが、うまく件の傭兵たちを内側に取り込むことができたようだ。思った以上に少数で数は男女合わせて四人らしい。


「なに、これは……!?」

「ハリボテか!」


 中に入れば化け物の正体は当然バレる。騒がれたら困るので、早期制圧が望ましい。


「ピエール!」

「お任せを!」


 即座にピエールが走った。戦闘に立つ男に向けて拳を放つ。が、その一撃はギリギリで避けられてしまった。


「おや、外しましたか」

「なんだ、コイツ! 凄まじく速いぞ!」


 どうやら敵もかなり手強いらしい。早期に倒し切るのは難しいかもしれない。ならば、次の手だ。


 SE魔法を発動。爆発音を盛大に響かせる。出力最大の大盤振る舞いだ。


「――な――だ!?」

「お――」


 うぉ!?


 ヤバい。調子に乗りすぎたかもしれない。発生箇所を少しずらしたのに、うるさすぎて耳が馬鹿になってしまった。ルーマ傭兵団だけじゃなくて、ファンガたちまで耳を抑えて動けずにいる。


 ただ、ピエールとルーマと呼ばれた傭兵団長らしき男だけが戦っている状況だ。


「なかなかやりますね」

「くっ、まさか俺が押されるとはな。さっきの音といい、恐ろしい連中だ!」


 ようやく耳が回復してきた。ピエールとルーマの声も聞こえてくる。いまのところ決着はついてないが、優勢なのはピエールだ。ルーマの声には余裕がない。


 そもそも、敵は武器を使っているのにピエールは素手だ。それなのに優勢って、やっぱりおかしいよな。


 と、呆れている場合じゃない。音量に気をつけて、再度爆発音を鳴らす。これは外の傭兵団に対する威嚇だ。さらには、内側からの音をごまかすためでもある。


「妖精君!」

「な〜にぃ!」


 操作役の妖精一人に声をかける。爆音に負けないようにお互い大声だ。


「外の人間はどうなった?」

「みんな〜逃げていくよ〜!」


 よしよし、うまくいったな。散り散りになった傭兵団がちゃんと逃げ帰ったか、あとで確認する必要はあるが、ひとまず危険は去った。あとは、残ったルーマ傭兵団に対処するだけだ。


 この頃になると、ファンガたちの聴力も回復してきたようだ。武器を手に四人を取り囲む。あちらの仲間も回復しているが、人数差でこちらが有利だ。


「囲まれたか! 外の連中はどうなっている!」

「音に恐れをなして逃げたようですよ」

「なんだと……傭兵としての誇りはないのか!」

「私もあまり詳しくはないですが、傭兵などそんなものでは? 生き残るのが第一だと思いますが」

「そう、なのか?」


 ルーマとピエールの戦いは続いている。そちらはピエールに任せておけば良いだろう。残る三人を討ち取れば勝ちだ。


 女が二人、男が一人。背の高い女と男が戦士風の装備で、残る女は弓を背負っている。戦意を失っていないルーマと違い、こちらの三人には焦りが見えた。


「ま、待て! 私たちは降参する!」


 背の高い女が武器を捨て両手を上げる。残る二人も、それに続いた。


「あぁん? 攻めてきておいて、都合のいいことをいいやがる」


 ファンガが吐き捨てるように言うが、女は特に言い返すこともなくゆっくり頷いた。


「言いたいことはわかる。だが、私たちの言い分も聞いてくれ。私たちが受けた仕事は森の調査と『蠢く巨人』と呼ばれる魔物の退治だ。君たちのような者がいるとは聞いていない」

「む……」


 流石に無視できなかったのか、ファンガが困ったように俺を見てきた。仕方がないので、交渉役を交代する。


「戦う気がないと言うが、あっちの男はどうなんだ?」


 ルーマという男を指さすと、長身の女が右手で頭を押さえる。


「申し訳ない。ただちに止めさせる。おい、ルーマ! 私たちの目的を忘れたか!」

「ふむ……目的か。何だったろうか?」

「馬鹿! 本当に忘れるヤツがあるか!」


 本気で怒鳴りつける長身女性。他の二人の表情にもうんざりといった表情が見える。どうやら、このようなやりとりが普段から繰り返されているようだな。


 ルーマ傭兵団というからには、あのルーマという男が団長なんだろうが、実質的に取り仕切っているのはこっちの女性なのだろう。暴走気味の団長に手を焼いているようだ。


 力の抜けるやり取りに毒気を抜かれたのか、こちらの面々もすでに戦う気は失せたようだ。弛緩した空気が流れている。


「ええと、ピエール。戦いを止められるか?」

「はぁ。では、まぁ取り押さえます」

「なにっ!?」


 ピエールが腕をとったかと思うと、ルーマの体が宙を舞っていた。どうやら一本背負いの要領で投げ飛ばしたらしい。その隙に武器まで奪っている。


「ぐほっ!?」

「大人しくしなさい。仲間も困っていますよ」


 受け身も取れずに地面に叩きつけられたルーマの腹をピエールが踏みつける。手加減はしているようだが、容赦ないな。


 ともあれ、これで制圧完了だ。はてさて、では向こうの言い分とやらを聞いてみますかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ