第73話 ルーマ傭兵団
こちらの戦闘要員は二十人ほど。ファンガとピエールがいるので、同数以上とも渡り合えるだろう。しかし、それにも限度がある。
化物がハリボテだと気づいたら、傭兵たちは反転して襲いかかってくるに違いない。人数差は倍以上で、三倍にも届きそうだ。真っ向勝負で覆すには厳しい戦力差である。仮に勝てたとしても、どれほどの犠牲を払うことになるか。
転移で逃げるのも厳しい。帰還魔法は全員が習得しているが、俺以外は呪文の高速詠唱に慣れていないのだ。敵前で即座に魔法を唱えるのは現実的じゃない。もし失敗して取り残されたら危険だ。
「ケント、どうする?」
「向かってくる傭兵団をうまく飲み込んでくれ!」
「わかったー」
敵は一直線に走ってきている。幸い、あとに続く傭兵団はいないようだ。うまく分断できれば勝機はある。だからこその『飲み込む』作戦だ。
やることはシンプル。ルーマ傭兵団とやらが突っ込んできた瞬間に布を操り、攻撃を回避しながら布のこちら側に招き入れるだけだ。
突っ込んでくるルーマ傭兵団とやらは少数っぽいので、ヤツらだけなら勝てるはずだ。それ以外の傭兵には帰ってもらうことにしよう。そのためにはうまく対処しないと。
「やぁぁぁ! む?」
近づいてきた勇ましい声が、不審の色をにじませて止まる。まずい、気づかれたか。まぁ、足元は布がだぶついているような状態だからな。そりゃ気づかれるか。
「飲み込め!」
「わかった!」
布の体を前進させ、ルーマ傭兵団を内側に取り込むように妖精たちに指示する。
「ルーマ!」
「来るぞ、警戒しろ!」
「わぁ!」
流石に無抵抗とはいかず、布が切り裂かれてしまったが、うまく件の傭兵たちを内側に取り込むことができたようだ。思った以上に少数で数は男女合わせて四人らしい。
「なに、これは……!?」
「ハリボテか!」
中に入れば化け物の正体は当然バレる。騒がれたら困るので、早期制圧が望ましい。
「ピエール!」
「お任せを!」
即座にピエールが走った。戦闘に立つ男に向けて拳を放つ。が、その一撃はギリギリで避けられてしまった。
「おや、外しましたか」
「なんだ、コイツ! 凄まじく速いぞ!」
どうやら敵もかなり手強いらしい。早期に倒し切るのは難しいかもしれない。ならば、次の手だ。
SE魔法を発動。爆発音を盛大に響かせる。出力最大の大盤振る舞いだ。
「――な――だ!?」
「お――」
うぉ!?
ヤバい。調子に乗りすぎたかもしれない。発生箇所を少しずらしたのに、うるさすぎて耳が馬鹿になってしまった。ルーマ傭兵団だけじゃなくて、ファンガたちまで耳を抑えて動けずにいる。
ただ、ピエールとルーマと呼ばれた傭兵団長らしき男だけが戦っている状況だ。
「なかなかやりますね」
「くっ、まさか俺が押されるとはな。さっきの音といい、恐ろしい連中だ!」
ようやく耳が回復してきた。ピエールとルーマの声も聞こえてくる。いまのところ決着はついてないが、優勢なのはピエールだ。ルーマの声には余裕がない。
そもそも、敵は武器を使っているのにピエールは素手だ。それなのに優勢って、やっぱりおかしいよな。
と、呆れている場合じゃない。音量に気をつけて、再度爆発音を鳴らす。これは外の傭兵団に対する威嚇だ。さらには、内側からの音をごまかすためでもある。
「妖精君!」
「な〜にぃ!」
操作役の妖精一人に声をかける。爆音に負けないようにお互い大声だ。
「外の人間はどうなった?」
「みんな〜逃げていくよ〜!」
よしよし、うまくいったな。散り散りになった傭兵団がちゃんと逃げ帰ったか、あとで確認する必要はあるが、ひとまず危険は去った。あとは、残ったルーマ傭兵団に対処するだけだ。
この頃になると、ファンガたちの聴力も回復してきたようだ。武器を手に四人を取り囲む。あちらの仲間も回復しているが、人数差でこちらが有利だ。
「囲まれたか! 外の連中はどうなっている!」
「音に恐れをなして逃げたようですよ」
「なんだと……傭兵としての誇りはないのか!」
「私もあまり詳しくはないですが、傭兵などそんなものでは? 生き残るのが第一だと思いますが」
「そう、なのか?」
ルーマとピエールの戦いは続いている。そちらはピエールに任せておけば良いだろう。残る三人を討ち取れば勝ちだ。
女が二人、男が一人。背の高い女と男が戦士風の装備で、残る女は弓を背負っている。戦意を失っていないルーマと違い、こちらの三人には焦りが見えた。
「ま、待て! 私たちは降参する!」
背の高い女が武器を捨て両手を上げる。残る二人も、それに続いた。
「あぁん? 攻めてきておいて、都合のいいことをいいやがる」
ファンガが吐き捨てるように言うが、女は特に言い返すこともなくゆっくり頷いた。
「言いたいことはわかる。だが、私たちの言い分も聞いてくれ。私たちが受けた仕事は森の調査と『蠢く巨人』と呼ばれる魔物の退治だ。君たちのような者がいるとは聞いていない」
「む……」
流石に無視できなかったのか、ファンガが困ったように俺を見てきた。仕方がないので、交渉役を交代する。
「戦う気がないと言うが、あっちの男はどうなんだ?」
ルーマという男を指さすと、長身の女が右手で頭を押さえる。
「申し訳ない。ただちに止めさせる。おい、ルーマ! 私たちの目的を忘れたか!」
「ふむ……目的か。何だったろうか?」
「馬鹿! 本当に忘れるヤツがあるか!」
本気で怒鳴りつける長身女性。他の二人の表情にもうんざりといった表情が見える。どうやら、このようなやりとりが普段から繰り返されているようだな。
ルーマ傭兵団というからには、あのルーマという男が団長なんだろうが、実質的に取り仕切っているのはこっちの女性なのだろう。暴走気味の団長に手を焼いているようだ。
力の抜けるやり取りに毒気を抜かれたのか、こちらの面々もすでに戦う気は失せたようだ。弛緩した空気が流れている。
「ええと、ピエール。戦いを止められるか?」
「はぁ。では、まぁ取り押さえます」
「なにっ!?」
ピエールが腕をとったかと思うと、ルーマの体が宙を舞っていた。どうやら一本背負いの要領で投げ飛ばしたらしい。その隙に武器まで奪っている。
「ぐほっ!?」
「大人しくしなさい。仲間も困っていますよ」
受け身も取れずに地面に叩きつけられたルーマの腹をピエールが踏みつける。手加減はしているようだが、容赦ないな。
ともあれ、これで制圧完了だ。はてさて、では向こうの言い分とやらを聞いてみますかね。




