第71話 気がつけば盟主に
後日、俺とバナンザ、エステラ王が集まって、三者で同盟が結ばれたわけだが――――何故か、俺が盟主になった。
「いや、なんでだよ!」
ノルスルの宿屋。会談をするときにいつも使っている一室でバナンザ相手に不満をぶちまける。
「いったい、何が不満なんだ」
「そりゃ、盟主にされたことだよ。一番の弱小勢力がなんで盟主なんだよ」
睨みつけてやるも、バナンザにはまったく効いていない。からかうようにニヤニヤ笑うだけだ。ちなみに、この部屋にはバナンザの護衛もいるが、俺の態度を咎めることもない。というか、向こうでファンガとボードゲームをやってる。護衛としてそれはどうなのだろう。もちろん俺はバナンザを害するつもりなんてないが。
「そりゃあ、いろいろ理由はある。一番の理由は、お前を中核とした同盟だからだろ」
「俺が中核ぅ?」
「いや、なんで不満げなんだよ。実際、そうだろ。ノルスルとエステラを結びつけたのはお前だぞ」
それはまぁ、そうか。
「でも、仲介しただけだぞ」
「そんなわけがあるか。ノルスルとエステラだけじゃ、ああまで簡単に話はまとまらん」
「そうか?」
「そうだよ。ハリムに対する軍事同盟くらいならともかくな」
ううむ、そういうものか。
たしかに、今回三勢力で結んだ同盟はかなり踏み込んだ内容だった。ハリムに対して協力して当たるだけには留まらない。三国は協力して軍事的脅威に立ち向かうこと、加盟勢力が経済的な困難に直面した場合は最大限の支援をすること、文化的な交流の推奨などなど。かなり制約が強い。ルール通りに運用されれば、一つの巨大な国家として機能するような内容だ。
ハリムに攻められて亡国の危機にあるエステラはともかくノルスルはよく乗ってきたなと思える。まぁ、提案してきたのがバナンザなのだが。
「うちと違って、この同盟は盟主の権限が強くなる。エステラ王が野心を抱かんとは限らないしな」
「だったら、バナンザがやればいいだろ」
「それはエステラ王が納得せんだろ。それに、都市同盟の他の市長たちがよからぬ企みを考えかねん」
ああ、なるほど。ノルスルとしての同盟加盟であっても、それをいいように解釈して他の都市が勝手に動くと。自由都市同盟を完全に掌握したあとならともかく、今の段階でバナンザが三勢力同盟のトップになるのはまずいか。
「つまり消去法か……」
「それだけじゃないぞ。こういうのは面倒だから積極的にやりたくないってくらいのスタンスを据えるくらいでちょうどいいのさ。それでいて、いざとなったら仕事を放り出さずにやる責任感があればなおいい」
ぐぅ。もしや面倒事を丸投げしようと考えていたことがバレたか? まさか、それが裏目に出るとはな。
仕方がない。今のところは俺が引き受けるしかなさそうだ。というか、すでに決まったことなので、今更どうこう言ってもどうにもならないんだが。
まぁ、愚痴はこの辺りにしておくか。
「ところで、どうして、あんな内容にしたんだ?」
「同盟の話か? 別におかしなことじゃないだろ。多少不自由があっても、強くまとまらなければ、これから先は生き残れないってことだ。これから先は大陸は戦乱の世になる。弱小勢力じゃ、あっという間に飲み込まれてしまうぞ」
バナンザは大陸の状況に強い危機感を持っているようだな。
前回のシステム通知。俺はエステラ滅亡のことで頭がいっぱいになってしまったので、他にもいくつもの報せがあった。“プレイヤー”が関与しているかどうかはわからないが、各地で戦争が起き始めている。この流れは止まらないだろう。そもそもがこの世界はウォーゲームのための舞台だからな。創造主のフィクスですら、出資者の意向に逆らえないのだ。最終的には大陸全土を巻き込んだ戦いになることは間違いない。
自由都市同盟を掌握した程度では戦えない。バナンザはもっと大きな枠組みでまとまろうと考えたようだ。
「なるほどな。それであの同盟案か」
「本当なら連合国にしたいところだが、そうなるとまた揉めるだろうからな。まずは同盟からだ」
「そこまで考えているのか……」
って、待て!
「連合国って……その場合、俺がトップになるのか!?」
「ははは、まぁ、頑張れ」
そんな言葉で済ませられてたまるか!
「俺には無理だ」
レンやバナンザは、こちらの住人に憑依する形で転移している。統治者としての知識、経験を引き継いでいるので、大国のリーダーとしてもやっていけるかもしれない。だが、俺にはそんなチートはないんだぞ。ただの会社員、それも働きはじめて三年の平社員だ。チームを率いた経験すらろくにないのに、何を言うんだ。
しかし、バナンザは思いのほか真剣な表情で俺を見据えた。
「いや、お前以外には無理だ。実務なら俺たちが代わってやれるが、トップはお前でなくてはならない」
「……なぜ?」
「俺たちが生き残るために、だ」
生き残るため? ずいぶんと重い理由が飛び出してきたな。
「どういうことだ」
「うむ。クロニクル・オブ・ロードの仕様の話になるが……」
バナンザは小声で話はじめる。ゲームでの仕様の話なので、護衛たちにも聞かせたくないのだろう。説明が面倒だしな。
「ゲームの最終目的は知ってるな?」
「大陸統一だろ?」
「そうだ。これはオプションにもよるが、場合によっては同盟すら許さず一国に統合する必要がある」
「はぁ?」
マジかよ。
「ってことは戦争は避けられないのか?」
「同盟、従属と段階を踏めば併合という選択肢もあるが、時間がかかりすぎる。基本的には戦争による征服で統一を進めていくことになるな」
だったら、この同盟はどうなるんだ。いや、わざわざバナンザが提案したのだから、何か狙いはあるんだろう。
それよりも、だ。
「ゲームクリアには戦争が必須なのはわかるが、だったらクリアを目指さなきゃいいんじゃないのか?」
「それができるならそれでもいい。だが、お前の話によると、このウォーゲームには出資者がいるんだろう? そいつらが、黙って見ていると思うか?」
フィクスの話によれば、出資者とやらは“プレイヤー”の勝敗で賭けを楽しむつもりらしい。なので、出資者同士の協定で、この世界に干渉してくることはない。だが、ゲームが膠着状態に陥ったらどうだろうか。結果が出ない賭け事なんて興ざめだろう。何らかのテコ入れを要求してくる可能性は高い。
「まぁ、望み薄か」
「だろう。だから、世界統一の流れは避けられないと思ったほうがいい」
はぁ、そうか。ノンビリスローライフは遠そうだな。
「それで?」
「大陸統一が進む前提で話をすると、俺たち“プレイヤー”は死の危険性がつきまとう」
他勢力を滅ぼした場合、そこに所属した英雄の処遇は、滅ぼした側のプレイヤーが決める。基本的には、勧誘・処刑・解放だ。元首の場合は解放という選択肢はなく、勧誘・処刑の二択になる。
「これはあくまでゲームの話だ。こちらの世界でどうなるかは実際のところわからん。だが、統治のしやすさを考えて旧統治者を処刑するという選択肢は普通にあり得るだろう」
「“プレイヤー”同士でもか?」
「相手が狂人でないとは限らないし、そうでなくとも“プレイヤー”以外はこの世界の常識で動くんだぞ。元首といえども絶対的な権力者じゃない。部下の声を抑えきれないってことはあるだろ」
まぁ、確かに。実際、レンは国を追放されているし、バナンザは他都市に干渉できずにいる。“プレイヤー”の考えが必ずしも勢力の行動指針と一致するとは限らないか。
「それはそうか」
「だろう。だから、お前の力が必要なんだ」
「俺の力?」
「そう。戦争をせずに領土を占領する力だ」
要はバナンザもフィクスと同じようなことを考えているらしい。戦争を望まない“プレイヤー”を同盟に引き込み、スキルツリーによる占領を受け入れさせる。そうすれば表示面上は独立国のまま、システム的には統一されるわけだ。
「もちろん、提案を受け入れない“プレイヤー”もいるだろう。戦争を完全になくすことはできない。だが、それでも“プレイヤー”の生存率は上がるはずだ。だから、頼む……!」
バナンザが深く頭を下げる。
俺をトップに据えたのは、なるべく穏便にウォーゲームを終わらせるためか。本当にそれで出資者たちが納得するかはわからない。だが、曲がりなりにも勝敗がつくのだから、膠着状態よりは納得感があるはずだ。賭けは荒れるかもしれないが、妙な横槍はない……といいなぁ。
ともかく、バナンザなりに戦争を回避するために動いたということだ。俺だって戦争は避けたい。そのために協力が必要なら……仕方がないな。
「わかった。まぁ、そういうことなら納得しとく」
でも、リーダーシップを発揮して同盟を率いるとかは無理だからな。ちゃんとフォローは頼むぞ。マジで。




