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第70話 同盟打診

「我が子らを救ってくれたこと。また、都市防衛に協力してくれたこと。とても感謝している」

「私からも感謝を」


 そう言って頭を下げるのは、エリト王子とヒルエ王子の父と兄……つまりはエステラ魔法国の王と王太子だ。非公式の会談とはいえ、本来は軽々しく頭を下げられる立場ではないはずなのに。


 大丈夫だよな? こっちは弱小勢力だって、ちゃんと伝わってるよな?


 付き添いのエリト王子を見ても、ニコニコしているだけでフォローしてくれるわけでもない。俺が自分でなんとかするしかないのか。


「い、いえ、頭をお上げください。感謝されるようなことではありません。ハリムを排除するのは我々の思惑とも一致していましたから」


 とりあえず、偉い人に頭を下げられっぱなしでは落ち着かないので、頭を上げてもらった。それで気が楽には……ならないよな。なんで王族の私室で、王と王子に囲まれているんだか。エリト王子はまだ子どもなので比較的接しやすいが、この二人はザ・王族という感じで近寄りがたい雰囲気だ。一緒にいるだけで威圧されている気分になる。ただの被害妄想なんだろうが。


 事の発端は、ちょっとした親切心だった。アラヤ村で預かっているヒルエ王女を一時帰還させてはどうかと考えたのだ。


 もともとは王都陥落を覚悟して避難させたのだろうが、現状はそこまで切迫した状況ではない。先のことはわからないが、春がくるまで膠着状態だろう。なので、一度王都に戻ってもいいんじゃないかと思ったのだ。ヒルエ王女もそれを望んだので、王都に運んだ。


 とはいえ、送り届けて終わりとはならない。


 王都とはいえ、王女とその侍女を二人で街に放り出すわけにはいかない。事前にエリト王子に連絡をとり、迎えを用意してもらっていた。出迎えにはエリト王子自身が足を運んでいて、その際に是非城によって欲しいと請われてしまったのだ。これからの方針について話し合いたいと言われると無下にもできず、ホイホイとついていったらこの有様である。


 まぁ、いきなり謁見とか言われても困っていただろうから、こちらのほうが良かったのか? いや、そっちのほうがやりとりは最小限だろうから良かったかもしれない。今さら言っても手遅れだが。


 いや、本当に意味がわからないんだよ。あまりに扱いが丁寧というか、同格かあるいは格上みたいに扱われている。こちらは、ただの村長だというのに。


 ちなみに、この部屋には俺と王、王太子とエリト王子だけで護衛すらいない。もちろん、部屋の外にはいるはずだけどな。それにしたって無防備すぎだろう。信頼しているというアピールなのかもしれないが、それがまた丁重に扱われている気がして憂鬱になる。


 ともかく、この状況はよくない。放っておくといつまでも礼を言っていそうな二人をどうにかなだめて、話を進める。エリト王子が言っていた通り、今後の方針について話し合うつもりはあるようで、俺から話を振ると王たちも乗ってきたのでひと安心だ。殺伐とした話なのに安心するのもどうかとは思うが、頭を下げられるよりはやりやすい。


「我々は兵を再編し立て直しを図っています。しかし領土の半分を失ったのは大きい。我々だけで領土を取り戻すことは厳しいでしょう。ケント殿にも是非お力添えをお願いしたい」


 エステラ王が真剣な表情でそう口にした。


 力添えね。それは何とも無茶ぶりではないか。


「帰国の苦境は理解できます。私たちにとっても、ハリムは仇敵です。可能な限り支援はしましょう。ですが、小さな勢力に過ぎない私たちにできることは限られます」

「ご謙遜を。ポリステラから兵二千を引き受けたと聞いていますよ」


 王太子も畳み掛けるように言ってくる。こちらも本気だ。


 いやいや、無理を言わないで欲しい。少しずつ増えているとはいえ、こちらは七十人くらいの村なのだ。


「あれは不意をついたからですよ。協力はしたいのですが、アラヤ村は人が少ないので兵を出すのは難しいのです。我らにできるのは食料支援と……特殊な木の実を提供するくらいですが」

「特殊な木の実、ですか?」


 エステラ王が怪訝な表情を見せた。適当なことを言って協力要請をかわすつもりなのではと疑っているのかもしれない。何か、保証になるものは……


「え、ええ。兵の力を強める特別な木の実です。同盟者であるノルスルのバナンザ殿にも卸していますので、効果は確かですよ」

「バナンザ殿といえば、自由都市同盟の盟主ですか!」

「ええそうです」


 これで信じてもらえたかと思ったら、話は変な方向に転がった。


「ケント殿は自由都市同盟と同盟を組んでおられるのか」

「そうです、父上。その関係で、アブジン殿にも協力をいただきました」

「なんと!? ノルスルの守護者を! 彼の者を遣わすとは、ケント殿はそこまで重要視されているんですね!」


 アブジンのネームバリューが思ったよりも大きい。おかげで、俺まで大物扱いだ。


「あー、いえ。そういうわけではなく、個人的な付き合いがあって、協力してくれただけですよ。同盟もノルスル単独で、自由都市同盟全体と結んだわけではないので」


 説明を試みるも、どういうわけか謙遜と受け取られてしまう。いや、真実はどうあれ持ち上げておけという魂胆か? 一度は国を失いかねないところまで追い詰められたのだ。形振りかまっていられないのかもしれない。


「ケント殿、できますれば、我らも同盟に加えてもらえないだろうか」


 同盟か。今のところ、“プレイヤー”同士の協定ってレベルなんだが……それを非“プレイヤー”であるエステラ王に伝えるわけにはいかないので説明が難しいな。大体、村と一都市との同盟に領土が半分になったとはいえ国が入ってきたら力関係のバランスがおかしくなるんじゃないか?


 いや、大丈夫か。うちにはスキルの実があるし、ノルスルには魔剣持ちのアブジンがいる。どちらも他に代えられない特殊な力だ。エステラが加わったとしても、主導権を握られることはないだろう。


 であれば、エステラを同盟に加えるのは悪いことではないな。同盟国が増えるほど、他国から攻められるリスクは小さくなる。


 それに、俺個人にとってもメリットがある。正直、俺にはこういうトップ同士の堅苦しい話し合いは向いていないんだ。今は同盟国が少ないので代表者の一人として働かなきゃいけないが、同盟国が増えていけば村規模の勢力の存在感は小さくなるはず。そうなれば、同盟の舵取りはバナンザとエステラ王、その他の国々の元首に丸投げできる。俺は後方支援に徹して、平和にぬくぬくとスローライフが送れるというわけだ。


「ご提案は承りました。お返事はバナンザ殿との話し合いのうえとなりますが、前向きに検討致しましょう」

「おお、助かります!」


 さて、スローライフに向けてもうひと働きしますかね。まずは、バナンザに声をかけて同盟締結だ。

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