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第69話 久しぶりの団らんと新魔法

 予想通り、冬になって軍の動きが鈍化した。ハリム軍はエステラ南部・東部の都市に分散して駐留しているようだ。敵の支配地域で妖精が活動できないので詳しい偵察はできていないが、大きな動きは確認できていない。しばらくはこのままだろうと、久しぶりにアラヤ村でゆっくりしているところだ。


「ケント!」

「おお、どうした」

「にひひ」


 床に座っていると、ピコがぴょんとひざに飛び乗ってきた。どうやら特に用事はないらしい。最近はあまり構ってなかったから、甘えたいのかもしれない。


「ピコは体温が高いな」

「ピコ、温かい?」

「温かいぞ」

「ぎゅってして、いいよ!」

「そうか。ありがとうな」


 腕を回してポンポンと背中を軽く叩くと、ピコがきゃははと笑う。しばらくの間、そうしているとフランが寄ってきた。


「にぃ」

「どうした?」

「フラン、魔法見つけたって言ってるよ」


 おお、それは嬉しいな。ハズレ率が高いスキルの実だが、魔法系スキルは有用なものが多いからな。


 俺もこまめにチェックしたいと思っているのだが、最近ではそれも難しい。忙しいのもあるが、帰還魔法にマナを残しておきたいという事情もある。帰還魔法は便利だが他の魔法に比べるとマナの消費が大きいのだ。しかも、急に必要になることが多いので、マナはできるだけ温存しておきたい。

 

 そんな事情があるので、フランが代わりにチェックしてくれるのは非常に助かっている。


「よし、見に行こう」

「行く!」


 ピコと手をつないで、家の外に出る。辺りはうっすらと雪が積もっていた。死招きの森はエステラに比べると暖かいが、それでも雪が降ることもあるようだ。もっと寒くなればそれなりに積もるかもしれないな。一応、住居は軽い積雪なら耐えられるらしいので、そのあたりは心配は要らないが、やはり暖房が欲しくなるな。一応、暖炉はあるが薪割りとかが大変なので、気軽に使えるわけでもないのだ。現代人にはなかなか厳しい環境である。


「にぃ。にぃ、にぃ」


 スキルツリー前で、フランがあれあれと前足で示す。それも三箇所だ。もしかして、三つあるのか?


「おお、良さそうだな!」


 フランが示したのは【保温魔法】【燻煙魔法】【雑草加工術】を宿す実だった。保温魔法と燻煙魔法は初見だな。そして待ち望んだ雑草加工術がついに手に入った。俺の習得したのと違い“+”がないので性能は劣るのだろうが、それでも役に立ってくれるに違いない。


 早速、それらの実をつけたカットして、実験農場に移動して、適当な木を選んで接木した。実験農場なんて呼んでいるが、今では有用スキルを増やすための区域だな。名前を変えたほうがいいかもしれない。


 次の日。無事スキルツリー化は成功し、量産体制が確立した。早速、実を食べてスキルを試してみることにする。


「というわけで、新スキルを試すぞ」

「「おー!」」


 パチパチと手を叩くのはピコを含めた村の子どもたち。ルイとイザベラも律儀に付き合ってくれている。ついでに、暇そうにしたファンガとマーシャにも声をかけた。あとは、猫ズのうち大人しい組のフランとチャトルもゆっくりしっぽを揺らしながら聞いているようだ。


 まずは保温魔法を試してみるか。例によって例の如く、呪文は謎の文字列だ。初めて唱えるので噛まないように慎重に読み上げる。これで発動できるようになったはずだが……?


「ん、失敗したな?」


 自分に使ってみたが、不発だった。どうも対象選択に失敗したようだ。何度か試してみたところ、非生物にしか使えないらしい。となると、これは物体の温度を保つ魔法なのかな。


「温度を保つ、ですか?」

「どういった意味があるのかしら?」


 ルイとイザベラがそっくりな仕草で首を傾げる。少しの間一緒にいて気づいたんだが、二人はこういうときシンクロすることが多い。別に、兄妹というわけではないそうだが、育った環境が同じだからだろうか。そのわりに性格はかなり違うんだが。


「そうだな。例えば、火を焚くそばに石でも置いておいて、それに保温魔法をかけたら温かい状態を維持できるだろ。それを抱いて寝れば夜の寒さも和らぐんじゃないか?」

「なるほど!」

「早速、やってみないとね!」


 ぱっと思いついたアイデアだったが、好評だった。やっぱり、みんな夜は寒いんだな。


 とはいえ、石を温めるにも時間がかかるので、試すのは後回しだ。


「次は燻煙魔法だな」

「燻煙ってのは、なんだ?」

「煙で燻すって意味だな」

「ふぅん。煙幕か? うまくやれば使えそうだな」


 ファンガは煙幕としての用途を見出したようだ。それに引っ張られたのか、試しに使ってみると右手からもくもくと黒い煙が噴き出してきた。


「ケホケホ! うな〜!」

「わ、煙い」

「目が痛いよ」


 煙にまかれた子どもがつらそうにしていたので、すぐに魔法を取りやめる。ファンガの言う通り、煙幕には使えそうだな。だが、自分も巻き込まれるので対策は必要だ。


 あとは、そうだな。感覚的に手から出す煙をコントロールできそうだ。うまくやれば他の用途にも使えるな。


 試しに、煙の勢いを弱めて香りをつけるように意識してみた。今度はうっすらと白い煙が右手から湧き出る。


「あ、今度は甘い匂いだね」


 気づいたマーシャが楽しげに声を上げる。


「ホントだ! クンクン……うなっ!?」

「ピコ、離れて嗅ぐぐらいがちょうどいいぞ」

「うぅ……」


 ピコが涙目でこくこく頷く。流石に至近距離で嗅ぐと辛いようだ。


「これなら燻製ができそうだな。いや、維持しておくのが難しいか」


 一瞬燻製作りに使えないかと思ったが、それは難しそうだ。燻製を作るなら長時間燻し続けなければならないが、そのために魔法を維持するのは現実的ではないからな。


「ケント様、燻製とは?」

「肉とか魚とかを煙で燻して保存性を高めるんだよ。やり方によっては、旨味が凝縮されて味もよくなる……のかな? よく知らないが」

「そんなものが……」

「へぇ」


 燻製に興味を持ったのか、ルイとイザベラの目がキラリと光った。コイツらもピエールと同じ食道楽になりそうな気配がするな。ま、これまで満足に食事もとれなかったようだから、反動でそうなるのも仕方がないか。


 最後に試すのは雑草加工術。と言っても、俺はすでに使えるので、他のメンバーに習得して、雑草加工術+との違いを検証することにする。


 あ、ちなみにスキル習得の法則についてはフィクスから少し情報を聞いている。たとえば、同じスキルの実を食べ続けたらスキルが強化されるなんてことはないらしい。上位・下位があるスキルに関しては、上位スキルが優先されるので、俺が【雑草加工術】を習得しても意味はないそうだ。


「うーん。村長さんみたいにはできないねー」


 検証役に立候補してくれたマーシャがへにょりと眉を下げる。当然といえば当然だが、無印スキルは+付きの上位スキルと比較すると性能が劣るようだ。


 加工限界が早いと言うべきか。元の雑草から大きく形を変えると、加工の対象ではなくなるらしい。


 例えば、服作り。俺は、いくつか段階を踏むことで雑草から服を作り上げることができる。しかし、マーシャの雑草加工術でできるのは糸づくりまでだった。


「なるほど。それじゃあ、紙は作れるか?」

「紙? んー、どうかな?」


 適当な材料から植物紙を作って見せると、マーシャも真似してスキルを発動してそれらしいものができあがる。


「おお。少し荒いけど、十分に使えそうだな」

「紙って売れるんだよね?」

「そうだな。羊皮紙より安価に設定したら売れるんじゃないかな」

「やった。それじゃあ、冬はこれを作るよ」


 なるほど。冬の間の手仕事にしようってことか。材料が確保できるなら悪くないな。今はスキルの実を売ることで金を稼いでいるが、完全にそれに依存するのは怖い。新たな収入源は歓迎だ。


「ピコも作れる?」

「魔法みたいなものだし、スキルを習得したら作れるんじゃないかな」

「じゃあ、作る!」


 子どもたちもヤル気だ。マナさえあれば、子どもでもできるのは大きいな。


 よしよし、新たな収入源もできた。これでますます村も発展するぞ。

 

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