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第66話 そんなつもりはなかったなどと供述しており……

 エリト王子の要請に従い、エステラ魔法国の残された領土のあちこちでスキルツリーを設置している中、その通知はもたらされた。



“アラヤ一家がエリンシア地方西部を占領しました”


“アラヤ一家がエリンシア地方中央部を占領しました”


“エステラ魔法国は滅亡しました”



 はぁ!???

 いや、待って、何それ。初耳なんですけど!


 え、いつ?

 いつ、占領したの!?


 他にもいくつか通知が来ていたが、それどころではない。まったく頭に入ってこなかった。


「先輩、いったい、何をしたんですか!」


 慌ててアラヤ村に戻ると、同じように慌てたレンがすっ飛んできて詰問された。まるで俺が諸悪の根源のような物言いはやめてもらいたい。


「し、知らない! 俺は何もしてないぞ!」


 言い返すも、レンがジト目を向けてくる。気まずさを覚えて視線を外すと、レンはずずいと回り込んで俺の顔を覗き込んできた。


「本当ですか? 本当に何も心当たりはないと?」

「う……」


 そんなものはないと言えたらどんなに良かったか。しかし、実を言えば、うっすらと心当たりはあるのだ。


「……ひょっとしたらスキルツリーが関係しているかもしれないなぁ、とは思ってる」


 スキルツリーはアラヤ一家のホームオブジェクトだ。接木によって増やしても、その性質は受け継がれるらしい。勢力コマンドにアクセスできるし、帰還魔法で転移先に指定できるのがその証拠だ。システム的にはホームオブジェクトのある場所はホーム……つまり、自拠点と扱われるのではないだろうか。


 しかも、だ。スキルツリーを設置することで妖精たちがその近辺で活動可能になる。本来ならば自勢力の領土でしか活動できない支援ユニットがスキルツリー周辺でも活動できることを考えれば、スキルツリーの周辺一帯がアラヤ一家の勢力圏に塗り替えられたのではないかと予想が立つ。


「って、絶対それじゃないですか!」

「……やっぱりか?」

「それ以外に考えられないですよ!」


 妖精が召喚できると知ったとき、その可能性が頭を過ったんだよな。でも、土地所有者の強制上書きなんて流石に理不尽すぎる、そんなわけがないと目をそらしてしまったのだ。


「ヒルエ王女に影響は?」

「通知が来たとき一緒にいましたが、特に変わった様子はありませんでしたよ。通知を見た僕が思わずむせてしまって、逆に気遣われてしまいました」

「そ、そうか」


 気遣い云々はともかく、ヒルエ王女に変わりはないようだ。システム上エステラ魔法国が消えてしまったが、そこに所属していた人ごと消えてしまうということはないらしい。ゲームとは違うとはわかっていても、もしやという不安が消えなかったのでほっとした。


「滅亡の予兆はなかったんですか?」

「ないない。昨日もポリステラをのぞいてみたが、ハリムを追い返したことで活気づいてたぞ」


 システム通知からは支配地域がなくなったせいで滅んだように読める。しかし、ハリムに占領された東部と南部はともかく、アラヤ一家が占領したことになってる地域は、接木でスキルツリーを設置しただけだ。住人に国が滅んだという認識はないだろう。実際の統治はエステラの王家が続けているわけだし。システム通知と実際の状況に乖離していると言わざるを得ない。


 これはあれか。スキルツリーという本来なかった要素を組み込んだことによって発生したバグなのでは。


「フィクスに聞いてみるしかないな」

「連絡がとれるんですか?」

「わからん」


 こちらから呼びかけたことはないからな。


 だが、流石にこの状況がヤツの狙い通りということはないはずだ。接木してるだけで領土を奪えるのは、ウォーゲーム的にはまずいだろう。なので、何らかのアクションがあるのではないかと思う。ひとまずはそれを待つしかない。


 さて、問題はバグとはいえ通知が流れてしまったことだ。これによって“プレイヤー”がどんな動きをするかわからない。


「エステラの王が“プレイヤー”だったらまずいよなぁ」


 システム上のこととはいえ、勢力を潰されてしまったのだから穏やかではいられないだろう。いや、システム的には滅んでいるんだから、勢力コマンドが使えなくなっている可能性がある。それは“プレイヤー”としては大きな損失だ。意図したことではないとはいえ、敵対行為とみられてもおかしくはない。


「ヒルエ王女から話を聞く限り、“プレイヤー”ではなさそうですけどね」


 レンはヒルエ王女から情報を聞き取ってくれていたらしい。それによると、ウォーゲーム開始前後で、エステラ王の行動や政治方針に大きな変化はないらしい。巧妙に隠している可能性は否定できないが、それで国が滅んでは意味がない。ハリムにいいように荒らされている現状を考えると、おそらく“プレイヤー”ではないだろうと判断したようだ。


「そうか。それは不幸中の幸いだな」


 元首が“プレイヤー”でないなら、エステラ魔法国への影響はほとんどないはずだ。少しほっとした。


「となると、問題はハリムか」


 ハリム王の立場からすると狙っていた獲物を横から奪われた形だ。不愉快だろうし、不審にも思うはず。こうなってはもう放置されることはないだろう。森に探りを入れてくるか、それとも残りの領土の制圧を優先するか。いずれにせよ、“アラヤ一家”が敵視されるのは間違いない。これまで以上の警戒が必要だ。


 しかし、レンは違う意見らしい。


「ハリムに警戒が必要なのはこれまで通りです。それよりも急ぎ必要なのは自由都市同盟……というより、バナンザさんへの釈明ですよ」

「ああっ!」


 エステラ支援のためにという名目でアブジンを借りているのだ。それが蓋を開けれみれば、そのエステラの領土を占領し、挙句の果てに勢力消滅である。裏切られたと判断されてもおかしくはない。


「それは、まずいぞ!」

「そうですよ。すぐに説明に行かないと!」

「そ、そうだな!」


 ぐずぐずしている暇はない。急いでノルスルの拠点に転移すると、ちょうどそこにバナンザからの使いがやってきたところだ。そのまま、いつかの宿で会談する。


 こちらのメンバーはレン、ピエール。あとは、アブジンもエステラでのことを説明するために連れてきている。


「――なるほど。では、エステラ魔法国の消滅は故意ではないと」

「その通りです。そもそも、エステラは消滅していないですよ。そうですよね、先輩」

「ああ。アブジンと一緒にさっきまで各地を巡っていたから、それは間違いない」

「どうなんだ、アブジン」

「ええ。なぜ、そのような話になっているのかよくわからないですが、北西部に勢力を保っているのは事実です」


 護衛のピエールを除く三人で状況を説明したことで、ようやくバナンザも納得したようだ。おそらくバグだろうと説明すると、難しい顔で頷く。


「話はわかった。それで、ここノルスルにも小聖樹とやらは設置してあるのか?」

「転移用に一本だけな。それ以上広げなければ影響は出ないと思う」

「そうか……ううむ」


 迅速に情報共有したおかげで、同盟破棄の危機は回避できたようだ。しかし、バナンザは何事か考え込んでいるようだった。

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