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第64話 包囲部隊の撤収

 補給基地にとらわれていた村人は全員無事に救出できた。それどころか、ファンガのほうも物資を焼くという副次目標を達成したらしい。


 これに関しては喜んでいいものか。計画では、ある程度の時間が稼げたら余裕をもって逃げるはずだったんだがなぁ。仇敵を前に歯止めがきかなかったようだ。補給基地の異変に気づいたポリステラの部隊が駆けつけてあわや挟み撃ちってところで戻ってきたらしい。


 まぁ、結果としてみんな生きて戻ってきたんだ。よしとしよう。


 ひとまず補給基地の村人はアラヤ村で保護している。ベンゼル村も人が増えているので、食料とか居住地とか色々足りていないからな。食料に関してはアラヤ村から運んでもいいが、そこまでしてベンゼルに人を集めるに必要もないし。


 正直言うと、運ぶのが面倒だ。ベンゼル村への転移は俺しかできないからな。一人でやると何往復もしなくてはならない。折を見て少しずつ希望者を送るくらいの気持ちでいればいいだろう。


 補給基地の襲撃によって、ポリステラを包囲していた部隊にも動きがあった。推定二千ほどの兵が後方の都市に下がったようだ。


 俺たちが襲った補給基地は放棄された。代わりに南部地域の都市アルテヒルトのそばに新たな物資の集積地を置いたようだ。ポリステラから下げた二千の兵で守っている。襲撃で物資を失ったことに懲りたのか、警備はかなり厳重だ。


 こうなると新たに物資を焼くのは簡単ではない。まぁ、問題はないけどな。俺たちの目標は、ポリステラを包囲する部隊の数を減らすこと。輜重隊に兵を回した時点で、俺たちの目的は達せられている。


 その甲斐あって……かどうかわからないが、ポリステラはまだ落ちていない。六千の兵が囲んでいるので油断はできないが。


 というわけで、引き続き、ハリムに対する嫌がらせをやっていく。補給基地を直接狙うのは厳しくなったので、狙うのは輜重隊だ。


 ポリステラ・アルテヒルト間は平原地帯。視界が通るので奇襲には不向きだ。が、そこはまぁ、やりようがある。


「ケント、たくさんの人があの道を通ってるよ!」


 俺たちが拠点にしている廃村に妖精が飛び込んできた。最近では開き直ってあちこちに小聖樹を作っているので、妖精の活動範囲はかなり広がっている。小柄な妖精は敵に見つかりにくいので、索敵役にはぴったりだ。採取をしながら輜重隊の動きを探ってもらっていたのだが、見事その役目を果たしてくれたようだ。


「ありがとう。どのくらいいた?」

「ええとね、いっぱい!」

「そっかぁ」


 まぁ、報告が少々頼りない面はあるけどな。


「というわけで、アブジン。出番だぞ」

「はぁ、ケントは人使いが荒い。こんな寒い中で働けとは、鬼だな」


 暖炉に張り付いているアブジンに声をかけると、明らかに乗り気ではない様子で立ち上がる。最近は打ち解けてきたのか、軽口を叩くようになったんだよな。それは俺もだけど。


「それは仕方ないだろ。この作戦はお前の力ありきなんだから」

「はぁ……優秀なのも考えものだな」

「優秀なのは魔剣だけどな」

「だったら、その優秀さを寒さに対しても発揮して欲しかった」


 嘆きつつも、やるとなれば切り替えは早い。準備を整えたアブジンの顔つきは、すっかり戦士のそれになっていた。多少着ぶくれはしているが。


 今回の作戦は、単純な嫌がらせだ。遠くから魔剣の力をぶっ放し、輜重隊を襲う。壊滅までは狙わず、輸送の妨害とあわよくば敵戦力を削ることが目的だ。敵が反撃してきたら速やかに撤退する。なので、人数はいらない。俺とアブジンだけで決行する。


 輜重隊が移動する街道は、敵軍の哨戒が行われている。なので、迂闊には近寄れないし、その付近には拠点も置けない。この廃村も、街道からはそれなりに離れている。今から走ったところで、件の輜重隊は通りすぎたあとだろう。


 しかし、俺には帰還魔法がある。街道から少し離れた場所に設置してあるスキルツリーに転移すれば先回りできるというわけだ。本当に便利な力だよな。


 アブジンを連れて目標のスキルツリーに転移。辺りは薄っすらと雪に覆われている。これは都合が良い。用意していた白布を被れば、少しはカモフラージュになるはずだ。


「お、ジャストタイミングだ」


 少し歩いて街道が見える位置まで移動すると、遠くに大勢の人影が見えた。良いタイミングだったようだ。


 ここからでは人数がわからないな。それに流石に遠い。少し距離を詰めよう。


 寒いとぼやくアブジンを宥めつつ、雪の平原に身を伏せる。ついに輜重隊がやってきた。向こうの護衛には騎兵もいるようだ。ある程度距離は離れているとはいえ、襲うタイミングには気をつけないとまずいな。


 しばらくは身を伏せたまま、兵たちが通り過ぎるのを見送る。敵は……ざっと見積もって五百はいそうだ。


「そろそろか?」


 目つき鋭く、アブジンが馬車を睨みつける。


 すでに何台か見送って、目の前を通り過ぎるのは隊列の中央辺りだ。騎兵の護衛もいるが、ここまで満遍なく配置されていたので、これ以上待っても仕方がないだろう。


「そうだな。任せた」

「ああ。任せておけ!」


 アブジンは立ち上がると、流れるような動作で剣を振るった。虚空から生じた暗黒の刃が空を切り裂いて飛翔していく。


「て、敵襲!?」

「馬車を守れ!」

「む、無理に決まってるだろ!」


 俺たちに気づいた敵兵たちが騒ぎ出すが、どうにもならない。刃は馬車に命中して、容易く切り裂いた。巻き込まれた兵たちも命を落としたことだろう。


「襲撃だ! 物資を守れ!」

「敵は少数だ! 騎兵で」


 意外に敵の立て直しが早い。もう少し混乱するかと思ったんだが、護衛の騎兵数騎で突撃してくるようだ。だが、それは悪手だぞ。


「ふん!」

「なっ!?」


 アブジンが迫る騎兵に向けて、再び剣を振るった。黒い刃が、馬ごと騎兵を両断する。かろうじて、端の一騎は逃れたが、それ以外は全滅だ。


 やっぱりアブジンの魔剣は反則なんだよなぁ。ほぼノーコストで、凶悪な攻撃が放てるってどんなチートだよ。しかも、クールタイムもほとんどないし。


「くっ……! まとまっていては危険だ! 分散して、多方向から襲いかかれ!」


 状況判断が早いな。生き残った騎兵が、歩兵に指示して、俺たちを囲い込むように動いた。ぼんやりとしていたら、前後からも騎兵がくるはずだ。ここらが引き時だな。


「アブジン、戻るぞ」

「おう!」


 最後にアブジンが魔剣をもう一振り。攻め寄せてくる兵の一角を吹き飛ばしたのを見届けたあと、俺が帰還魔法を発動する。もちろん、アブジンも連れてだ。


 一瞬にして、拠点の廃村に到着。アブジンがどうのと言ったが、俺も結構チートだよな。戦闘力はないけど。


 今頃、敵兵は俺たちを血眼になって探し回っているだろう。確実に仕留めなければ、またどこから襲われるかわからないからな。しかし、この場所は襲撃地点から離れている。俺たちは見つかることなく、奴らの行動は無駄に終わるってわけだ。


 我ながら完璧な作戦である。まぁ、能力頼みのゴリ押しで、戦術もなにもあったものではないけどな。しかし、それだけに対応は難しいだろう。


 適当に攻撃して逃げるだけなので、大きな被害を与えるものではない。だが、確実に敵戦力と物資を削れる。度重なる襲撃はストレスになるし、重度の警戒態勢を維持すれば疲労も溜まるだろう。そうして補給が滞れば、ポリステラの包囲にも影響が出るはずだ。


 輜重隊が出るたびに、同じことを繰り返す。そうこうしているうちに十日が過ぎて、大雪が降った。流石に包囲を維持するのが難しくなったらしい。ハリム軍はいくつかの隊に分かれて東と南に引き上げていった。

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