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第63話 補給基地襲撃

 お、火の手が上がったな。ファンガたちが動きはじめたらしい。気づいた守備兵たちが騒いでいる。


 俺は今、補給基地となった村のそばに潜んでいる。一緒にいるのは、ピエールとルイ、イザベラだ。他のみんなはすでに侵入済み。補給物資を焼いて、嫌がらせしつつ、守備兵を引きつけてくれている。


「そろそろ参りましょう」

「わかった」


 ピエールの先導で、補給基地を囲う柵まで走る。ファンガたちのほうに兵が集中しているので、狙い通り、外への監視は緩んでいるようだ。何事もなく、柵に取り付けた。


「先行します」


 ピエールとルイがジャンプで、2m近くある柵を越える。当たり前だが、俺にはそんなこと無理だ。中からロープを投げてもらって、それを使って柵をよじ登る。柵の先端は尖っているので非常に危ない。それでも、時間をかければなんとか登りきれた。


 それを見届けたイザベラも壁を越えてくる。もちろんロープなしで。やっぱり、古代種はとんでもないな。


 俺たちの目的は村人の解放だ。昨日のうちにルイが接触して話をつけている。彼らは兵たちに家をとられて、倉庫に閉じ込められているらしい。生活環境としてはよくないが、逃亡計画を立てるには都合が良い。

 

「誰だ! ぐ……」


 おっと危ない。流石に監視役はこの場にとどまっていたようだ。俺たちに気づいて声を上げたが、すぐにピエールに絞め落とされた。一瞬なので、他の兵たちには気づかれていないだろう。物資の集積地(あっち)はかなりの騒ぎになっているからな。


「ケント様、こちらです」

「おお。ありがとう」


 ルイに言われて気がついたが、すぐ近くにスキルツリーがあった。


 なぜ、ハリムに占拠された村にスキルツリーがあるのか。もちろん、昨日のうちに村に忍び込んだルイが仕込んでくれたからだ。今回の作戦ではこのスキルツリーが肝になる。忘れずにアクセスしておこう。


 勢力コマンドのメニューは……よし、出るな。これで大丈夫だ。あとは、ハリム兵が戻ってくるまでに住人を連れて撤収すれば良い。


「皆さん、助けにきましたよ!」


 倉庫に踏み入り、ルイが声をかける。


「おお、君は昨日の」

「本当に来たのか」

「私たち、助かるの……?」


 中には思った以上の人がいた。すし詰め状態で、五十人くらいだ。みな疲れた様子でよろよろと顔を上げる。


「周り中、敵だらけだ。逃げられるわけがない」

「もし見つかったらもっとひどい目に……」


 昨日に伝えられ、今日決行だ。まだ覚悟が決まっていない人もいる……というか、そういう人のほうが多そうだ。だが、彼らを説得している場合ではない。悠長にしていると、兵たちが戻ってくる可能性がある。


 多少強引に連れ出すしかないかと思ったところで、若い女性が声を上げた。


「私は行くわよ! こんなところにいたら、今度は本当に……それくらいなら危険を冒してでも自由を勝ち取るわ!」


 同じように二人の女性が逃亡を表明した。一部の人が、それに反発する。誰かが逃げれば、連帯責任で罰せられるかもしれない。それを恐れているようだ。


 普通に逃げれば捕まる可能性がある。そうなれば厳しい罰が課されるのは確かだろう。場合によっては殺される恐れもある。反対する人たちの気持ちもわからないではない。


 まぁ、実際にはそんなリスク、ほとんどないんだけどな。


「ルイ、イザベラ。先に彼女たちを運んでしまおう」

「わかりました」

「はいはい」


 逃亡を選んだ女性たちと一部の人たちの間で口論になっているが、その結論を待たずにルイとイザベラに指示を出す。


「え?」

「な、何を」

「じっとしていてください。すぐに移動しますので」

「暴れないで。面倒だから」


 ルイとイザベラが女性たちの肩に手をおいた。そして、その女性ごと姿を消す。帰還魔法でアラヤ村に戻ったのだ。


「は……?」

「な、なにが、起きたんだ……?」


 これには口論していた人たちも目を丸くした。


 ま、いきなり人が消えればそういう反応にもなるな。驚きで静かになったので都合がいい。この隙にと、軽く事情を説明する。


「今から、皆さんを魔法で俺たちの村へと運びます。一瞬で着くので安心してください。全員をいっぺんには運べないので、数人ずつになりますが、すぐに戻るので安心してください」

「ケント様、私はこちらで待機しております」

「わかった」


 いつこちらに兵が戻ってくるかわからないので、ここの守りも必要か。ピエールなら安心だ。


「じゃ、いきますよ」

「え?」


 順番とかで揉めると面倒なので、近くにいた少年とその母親らしい人の腕をとって有無を言わさず転移した。転移先はオジリナルスキルツリーだ。


「こ、ここは?」

「俺たちの村です。詳しい説明はあとで。他の人を迎えにいかないと行けませんから」

「は、はぁ」


 戸惑う母親を置いて、ルイとイザベラと合流する。これから、二人を連れてさっきの村に戻るのだ。


 実際にやってみせたのが良かったようで、その後はスムーズに転移が進んだ。結局、兵士たちは戻ってこなかったな。ファンガたちがうまくやったようだ。



補給基地 ファンガ


「侵入者だ! 絶対に逃すな!」

「馬鹿、その前に火を消せ! このままじゃ全部燃えちまう!」

「ぎぃや!?」

「くそ! よくも!」


 おうおう。慌ててる、慌ててる。数は多いが烏合の衆だな、こりゃ。


 俺たちは陽動。ケントの旦那がここの住人を逃すまで兵の注意を引きつけておくのが主な任務だ。


 まぁ、目的はほぼ達成したようなものだろう。これだけの騒ぎになればほとんどの兵が駆けつけてくるはず。なにせ、八千もの兵を支えるための食料だからな。これがなくなればえらいことだ。


 とはいえ、旦那が村人を避難させるまでもうしばらく時間が必要だ。どうせなら陽動で終わらず、物資をすべて焼き払ってやるか。この程度の練度なら、できなくはないだろう。


「慌てるな、役割を分けろ! 半数は敵への対処を、残りは消火にあたれ!」


 おっと指揮官らしきヤツが出てきたみたいだな。兵たちの動きが変わった。なかなかの統率力だ。


「弓を持ってるやつはそのまま食料を狙え! 他のやつは迎撃だ!」


 弓持ちは五人。火矢で糧秣の天幕を狙う。他は迎撃だ。


 今回の夜襲部隊は俺たち獣人が主役だ。獣人は普人より夜目が利く。暗闇の中を動き回れば、ヤツらは俺たちを見失うだろう。うまく立ち回れば人数差も覆せる。


 さらに、だ。俺たちの士気は非常に高い。


 敵はハリムの正規兵。ついに復讐のときだ。ここの部隊が俺たちの村を攻めたわけではないだろうが、そんなことは関係ない。ヤツらが俺たちを獣人というだけで滅ぼそうとしたように、俺たちにとってはハリム兵というだけで命を奪う理由になる。


「うおおお!!」


 おっと。威勢のいいのが来たな。でっぷりとした体型のわりに素早い。それにこの怪力。武器を打ち合うだけで腕が痺れそうだ。ハリム兵の癖になかなかやる。


「我が名はダストン! この基地を指揮しているの私だ! アムレスの亡霊たちよ、この首が欲しいか!」


 お、こいつが隊長なのか。わざわざ名乗りを上げたのは……なるほど、自分が囮になろうっていうのか。そういうのは嫌いじゃないぜ。付き合ってはやらねぇがな。


「こいつは俺がやる! 早いもの勝ちだ!」

「ずりぃぜ!」

「うっせい!」


 不平の声は上がるが、他の奴らもこっちに群がってきたりはしていないな。まぁ、獲物はいくらでもいるんだ。隊長格にこだわる必要はない。これはただの復讐。俺たちは武勲を立てたいわけじゃねぇんだ。目論見は外れたな。


「おらよ!」

「なんの!」


 それにしてもやりやがる。ダストンとか言ったか。スピードはこちらが上だが、力では負けている。技は互角ってところか。いい腕してるのに、なんで補給隊の隊長なんかしてやがるんだ?


 そのとき、ブオンと音を立てて黒い刃が通り過ぎた。


「物資は焼けたそろそろ撤収だ!」


 この声はアブジンだな。ってことはさっきのは魔剣か。


 危ねえな! 知らせるにももっと穏便な方法があるだろが!


「まだまだやれるぜ!」

「どうせなら全滅させようぜ!」


 暴れる回っている奴らから撤収を渋る声が上がる。俺も不満だ。このダストンとやらとのケリがついていない。


 だが――――


「おら、撤収だ! 旦那との約束だろうが!」


 旦那との約束は破れねぇ。それは他の奴らも同じだ。全員が戦いを切り上げて撤収の準備に入る。


「待て!」


 後方からダストンの声がする。それを振り切って走った。


 俺たちは亡霊じゃねぇ。アラヤ村の一員なんだ。ボスの言葉は守らなきゃな。


 ま、これで終わりじゃねぇんだ。また相まみえることもあるだろうさ。それまで、その首、預けておくぜ。

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