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第61話 囚われの村人

 ポリステラに近い村までやってきた。この村には無人ではないようだ。炊事の煙からそれがわかる。


 とはいえ、安心はできない。この辺りはすでにハリム王国の勢力範囲になっている。ほぼ間違いなく敵の手に落ちているだろう。


 一つ手前の村もハリムの手が伸びて略奪にあっていた。襲ったのはおそらく傭兵たちだ。


 目を覆いたくなるような惨状だった。家屋は荒らされ、廃墟も同然の有様となっている。それだけならまだしも、住人らしき死体がいくつも転がっていた。生き残りは逃げたのか、連れ去られたのか。屍をそのままにしておくわけにはいかないので、簡単に弔ってから村をあとにしてきたのだ。


 隣村がそんな状況なのだから、目の前の村も敵の占領下にあると予想される。問題は村民の生き残りがいるかどうかだ。敵兵だけなら強引に攻め取ることもできるが、そうでないなら慎重にならなければならない。


「やはり占領されておりました。しかし、住人は無事です。少なくとも今すぐ命の危険はないでしょう」


 村の様子を探りに出ていたピエールが戻って、そう報告した。一緒に出ていたルイとイザベラも無事だ。子どもを戦場に出すのは……いや、やめよう。この二人は望んでついてきているし、大人顔負けの能力がある。保護者であるピエールが認めているのであれば、俺がともかく言うことではないな。


「傭兵にしては行儀がいいな。村を占拠してるのは正規兵か?」


 ファンガの問いにピエールが頷く。


「おそらく。ポリステラ攻めの補給基地として使っているようですね。住人たちを働かせてはいますが、命を奪うような無体はしていないようです」

「といっても、下っ端どもは威張って好き勝手してるけどね」

「敵の将官は住人に配慮しているようですが、統率が行き届いていないようですね」


 イザベラが吐き捨て、ルイがそれを補足する。


 報告では村を拡張する形で、補給物資の集積地としていたらしい。住人たちはそこで働く人夫として利用しているようだ。そのため、すぐにでも命を奪われるような状況ではない。とはいえ、扱いが良いわけではないので、解放すれば俺たちに協力してくれるに違いない。


 ただ、補給基地となれば警備も厳重だろうな。

 

「兵数はどのくらいなんだ?」

「私の見たところ二百名ほどですね」

「俺もそう思います。もっとも、食料を輸送する部隊が入ることもあるでしょう。一時的に兵数が膨らむことはあるかと」


 ピエールとルイが答える。


「二百か。思ったよりも少ないな」

「すぐ近くにポリステラを囲む八千がいるからな。それに、これより南はハリムに抑えられている。攻められるとは思っていないんだろうよ」


 ファンガが守備兵が少ない理由をそう推測した。傭兵たちが暴れまわっているせいで、エステラ南部はひどい状況だ。抵抗勢力が生まれる余裕すらないのだろうと。


「傭兵どもが略奪するに任せて住人は根絶やしか。ハリム王……非道な男のようだな。しかし、それでは攻め取ったあとの統治に苦労するだろうに」


 ハリムの異常な侵攻速度の裏には、大勢の傭兵を敵地に放つという戦術がある。それは侵攻には一定のメリットがあるが、のちの統治においては大きなデメリットになるのは明らかだ。人が減れば生産力が落ちる。生き残った民も、非道を許した統治者に素直に従うことはないのだ。なので、占領目的の場合、ここまで民を痛めつけることはないらしい。


 アブジンは、ハリム王の意図がわからず首を捻っている。それに対して、ファンガが顔を歪ませた。


「あの野郎のやることをまともに考えても無駄だぜ。庶民のことなんざ、勝手に生えてくる雑草程度にしか思ってないだろうさ」


 ファンガの言葉は自身の村が攻められたがゆえの恨み節だが、的を射ているのではないだろうか。ハリム王は“プレイヤー”らしい。クロニクル・オブ・ロードの定番戦術をなぞっていることから、ゲーム感覚で戦争をしているのではないか。兵数はただの数字。敵国の民がいくら死んでも気にしない。なぜならゲームでは、それによるペナルティがないから。


 この推測が事実なら本当にろくでもないヤツだ。フィクスが“プレイヤー”に世界をかき乱されたくないと考えるもわかるな。まぁ、全員がそんなヤツばかりではないとは思うが。


 まぁ、ハリム王の狂人っぷりを愚痴っていても仕方がない。それよりも補給基地だ。


「兵二百なら俺たちでも襲撃できるか?」

「何を目的とするかにもよります。村人を傷つけることなく全員解放するとなると少々難しいでしょうな」

「村の中では魔剣も使えないしな」


 ピエールの見解に、アブジンも同意を示す。


 そうか、あの威力でところ構わず攻撃していたら、住人にも被害が及ぶな。最大火力を封じられて、四倍以上の敵と戦うのは危険か。仮に優勢に戦えたとしても、住人を人質にされては困る。


「だったら、物資を焼くのは?」

「それならできるでしょうが、一度襲撃すれば守りは硬くなるでしょうな」


 ふむ。だったら、やる価値はあるな。


「守備兵が抽出するとしたらポリステラを包囲している兵だろ? だったら、狙い通りだ」

「たしかにな。それに兵糧不足ともなれば、一旦後方に退く可能性もあるぜ」

「補給基地が一箇所とは限らないが、やる価値はあるだろうな。どうせなら、南から来る輜重隊も襲えばいい。すぐに軍を維持できなくなるさ」


 ファンガ、アブジンからも同意があった。これで大まかな方針は決まりだ。


 敵の兵站に負担をかけ、大軍を維持できなくする。ハリムはこちらに兵を差し向けてくるだろうが、それこそ狙い通り。包囲の圧力が減れば、ポリステラも持ちこたえるはずだ。


 あと半月も耐えればいい。それで、おそらくハリムの軍は一度退くはずだ。これからますます寒くなる。行軍ができないほどの積雪はないらしいが、野営では凍死者が出る。士気が維持できないはずだ。


 懸念があるとすれば、村で働かされている人たちのことだな。敵方に余裕があるからこそ、ある程度丁寧に扱われているという面もあるだろう。追い込まれたとき、その苛立ちの矛先になるのは弱い立場の彼らだ。できれば、救助したいところだが……。

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