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第60話 冬の到来

 ベンゼル村の要塞化が進み、村人だけでも傭兵の侵攻を跳ね除けることができるようになったので、他の都市への救援も進めることにした。派遣する部隊は当初の数からエリト王子らを除いた四十数名だ。


 ベンゼル村はエステラ西部でも西の端に位置する。死招きの森に隣接するような、言うならば辺境の村だ。


 ハリム王国との国境は南にあり、エステラ南部はすでにハリム王国の占領下だ。とはいえ、あくまでシステム通知によればそうだというだけで、実際には抵抗している街や村があるかもしれない。というか、たぶんあるだろう。ハリムの主攻は東部から中央に向けられているようで、西側は質の良くない傭兵たちが攻めるに任せているような状況らしい。


 王都があるのは、エステラ中央の北寄り。ベンゼル村から見え、北東の位置にある。王都から南に伸びる主要街道には大きな都市がいくつかあって、ハリム兵はそれらを下しながら北上しているようだ。もちろん、エステラ側も奮戦しているが、開戦すぐに南部地域で大敗した影響が大きく、兵の再編に手間取っているようだ。救援が遅れて、すでに三つの都市が陥落らしい。この情報も東から逃れてきた避難民に聞いた話なので、さらにいくつかの都市がとられていても不思議ではない。





 進路は村の東側にとった。


 ベンゼル村より南はすでに敵の手に落ちている。それを思えば、救助を差し伸べたいところだが、現実的ではないと諭された。周囲が完全に敵地となっているので、少人数では維持が難しいらしい。


 それに、ハリムの正規軍が王都に迫っている。今はエステラ中央に位置する街ポリステラを取り囲んでいるらしい。ポリステラは城壁に守られた強固な都市だが、先の決戦で多くの将兵が失われたため、守備兵が減っている。このまま手をこまねいていれば陥落してしまいかねない。


 つまり、俺たちの目的はポリステラへの救援だ。


 ハリム正規軍は八千くらい。五十人にも満たない俺たちではまともに戦えば蹴散らされてしまうだろう。しかし、それならまともに戦わなければいいだけの話だ。


 後方に拠点を築く。その動きを見せるだけで、敵はこちらを無視できない。放置すれば後方を遮断され、挟撃の恐れもある。おそらく、包囲の兵をいくらか先、こちらに差し向けてくるだろう。少数の兵なら返り討ちにして、多数の兵なら拠点を放棄して逃げる。いずれにせよ、敵兵を引きつけることができるはずだ。


 ま、その辺はすべてファンガからの受け売りだけどな。


 当然ながら、ポリステラが落ちないことが前提の策だ。なので時間との勝負である。


 獣人やノルスルの歴戦兵たちは体力オバケだ。身一つとはいえ、信じられない速さで駆けていく。常人の俺がついていけるわけもないので、俺は馬に乗せてもらった。乗馬スキルなんてないので、ルイが操る馬に相乗りさせてもらう形だ。子どもたちを戦争に巻き込むつもりはなかったんだが、結局、連れていくことになってしまって、本当に申し訳ない気持ちだ。


 ちなみに、もう一人、イザベラも救援部隊についてきている。普通に走って。ルイが馬を使っているのも、あくまで俺のため。走ろうと思えば、普通についていけるらしい。いったい、どういう体力してるんだ。紛争地域を連れ歩くというのに、ピエールがあまり心配しないはずだよ。


 ベンゼル村を出て、いくつかの村に立ち寄ったがすべて無人だった。ハリムに荒らされたわけではなく、ベンゼル村に避難しているからだ。わざわざ立ち寄ったのは、傭兵たちに占領されていないか確認するためである。


 あと、ついでに適当な木を選んで、スキルツリー化しておく。敵方にスキルの実を奪われる可能性はあるが、転移ポイントの設置と妖精の移動範囲が広がるメリットが大きい。固定化するスキルを選べばリスクは最小限にできるので、利便性をとった形だ。


 初日は無人の村を借りて宿にする。俺とピエール、ファンガ、アブジンは他と比べて少し立派な家に入った。おそらくは村長宅だろう。


「寒くなってきたな。火を入れよう」


 申し訳ないが、薪を拝借して暖炉に火を入れさせてもらう。着火魔法で火をつけると、寒さでこわばった体もほっと緩む。


「正直、戦いよりも寒さが厳しいな」


 苦笑いでアブジンが暖炉に寄ってくる。どうやら寒さに弱いらしい。まぁ、それも当然かもしれない。なぜなら、エステラはノルスルに比べると結構寒い。


 不思議なことに、この大陸では南北の気候差はあまりないらしい。もちろん、地形の影響を受けるので全く無いわけではないが、南は暖かく北は寒い、みたいな傾向はないようだ。代わりに、東西では気候差が顕著だ。一般に東が熱帯で、西に行くほど寒くなるらしい。


 理由は不明だ。レンも知らなかった。フィクスに聞けばわかるかもしれないが、わざわざそのために呼び出すのも面倒だ。呼び出し方もわからないしな。なので、そういうものだと受け入れている。


「ボチボチ雪が降る頃だしな。明日あたり降るかもしれんな」


 ファンガも干し肉を片手に暖炉に寄ってきた。どうやら炙って食べるつもりらしい。


「この辺りは結構降るのか?」

「たぶんな。少なくとも、以前の村では結構降ってたぞ。あまり変わらんだろう」


 以前の村というのは、ハリム王国にあったというアムレス部族の村のことだろう。経度……と言っていいのかわからないが、東西の位置関係はこの村とほぼ変わらないらしい。つまり、さきほどの法則で言えば、気温も変わらない。同じように雪が降る可能性があるということだ。


「やれやれ憂鬱だね」


 アブジンは肩をすくめつつ、ファンガと同じように炙りはじめる。ピエールもそこに加わったので、俺も真似した。四人で暖炉に集まり、肉を炙る。


「おお、うめえな。これ、どうしたんだ?」

「孤児院の子どもたちが用意してくれたものですよ」


 一足先に食べはじめたファンガが干し肉の味に顔を綻ばせる。それに対して、ピエールがドヤ顔で答えた。あてがあるというので仕入れを任せたが、うちで屋台をやってる子どもたちが作ったものだったらしい。串焼きだけじゃなくて干し肉まで作っていたのか。


「おお、あの串焼きの。それはいいな」


 アブジンも屋台のことを知っているようだ。【焼肉奉行】の効果もあって、あの屋台はかなりの人気店になっているからな。


 もしかして、干し肉にも焼肉奉行の効果が乗るのか? いや、今、炙っているのが“焼いてる”判定なんだろうか。ノルスルの拠点の実はここにいる全員が食べているので、なんとも言えない。まぁ、どうでもいいな。


 わざわざ干し肉を用意したのは移動を優先するためだ。いくらでも手に入るとはいえ、スキルの実は持ち運ぶには少し重いし嵩張るからな。接木してもすぐにはスキルツリー化しないので、その場ですぐに確保するというわけにはいかない。なので、昼と夜はこうして干し肉をかじるのだ。


 飲み水については、アラヤ一家の面々なら魔法で出せる。ノルスル兵たちに分けるくらいなら、それほど負担はない。


 朝には接木した木がスキルツリー化する。転移で行き来ができるようになるので、俺がノルスルに転移して、その日の食料を仕入れてくる予定である。荷物は一日分の干し肉だけなので、移動がかなり楽だ。この部隊が走って移動できるカラクリである。いやまぁ、俺には無理だけども。


 そのまま、夜を明かして朝が来た。


「ファンガの言う通りだったか」


 白い息を吐きながら外に出ると、ちらちらと雪が降っている。本格的な冬の到来である。

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