第58話 兵力と防衛力の強化
夜が明けて戦場跡を眺めると惨憺たる有様だった。おびただしい死体の山は、直接数えたわけではないが八十くらいはあったらしい。傭兵団としてはそこそこの規模で、それなりに名のあるところだった可能性が高いそうだ。
おそらくは中堅どころの傭兵団。それを奇襲とはいえ一方的に壊滅させてしまうのだから、アラヤ一家の戦力もなかなかのものだ。とはいえ、今回に関しては、アブジンの魔剣がチートだっただけな気もするが。
死体の山は一箇所に集めて火を放つ。放置すれば疫病の原因になるので、手は抜けない。あまり気乗りしないが、俺も作業を手伝った。
戦場の死体は酷いものだ。俺たちが潜んでいた草むら近くの死体が特に酷い。アブジンの魔剣による攻撃のせいだ。体のパーツがバラバラになったものが多く、見ていて気分が悪くなる。それでも、不思議と胃の中の物を戻したりはしなかった。自分でも意外なほどに、淡々と死体の処理を進めている。
いつの間に耐性がついたのだろうか。心当たりは……まぁスキルの実だろうな。食べる前に鑑定するようにはしているが、整地作業などでマナを使ったあとにはマナ切れを警戒してそのまま食べることも多い。きっと、そのタイミングで精神耐性的なスキルを獲得していたのだろう。
精神性が変化するのは怖くもある。が、素のメンタルでは使いものにならなくなっていたはずだ。スキルがあって良かったと思おう。
俺たちが死体の処理をしている間に、エリト王子には村長と交渉してもらった。その結果、村の男が十名ほど、エリト王子の指揮下に入ったようだ。彼らの多くは戦闘の素人で即戦力とはいかない。しかし、これがエステラ奪還の第一歩である。故郷を守る戦いなので、彼らの士気は高い。引き続き俺たちも協力するので、まぁ何とかなるだろう。
死体の処理と村との交渉が一段落したところで、今後の方針を立てる。村長の家を借りて、俺、ピエール、ファンガ、アブジン、エリト王子、ロウ爺さんが集まった。村の事情を聞くために村長も同席してもらっている。
最終目標はエステラからハリム兵を叩き出すこと。しかし、今の戦力でそれは難しい。まずはこの村を起点に、エリト王子の勢力を伸ばそうということになった。周辺の村々を巡って、傭兵たちの襲撃を撃退しつつ、協力者を増やす予定だ。
「とはいえ、この村の防衛も考えなければなりません。他の村々を巡っている間に襲われては困ります」
「人が足りねぇ。まずはそこからだな」
「後方の村から義勇兵を募るのが良いでしょう」
エリト王子の言葉に、ファンガとピエールが意見を述べる。エリト王子も頷いて同意を示す。
「そうですね。その役割は私が担うべきでしょう。その間、皆さんで村を守っていただければ助かります」
エステラ国内で人を集めるなら、エリト王子ほど適任はいない。防衛戦力を残すので、少数で村を巡ることになるが、北側にはまだ傭兵団が浸透していないはずなので危険はないはずだ。
「それなら、王都への連絡もしておくべきだな。兵を回してもらうことは難しいかもしれないが、連携のためにも連絡はとっておくべきだ」
アブジンが王都への連絡についても言及する。これもまた然りだ。それにエリト王子とヒルエ王女の無事も伝えておいたほうが良いだろう。
とはいえ、あちらにはハリム正規軍が迫っている。確実に連絡がとれるかどうかはわからないので、エリト王子が村々を巡りながら状況を見て、可能ならばという話になった。
「あのー」
ここで村長が申し訳なさそうに口を開いた。
「どうしました?」
「村を守っていただけるのは大変ありがたいのですが、食料の備蓄が心もとなく……」
「ああ、なるほど」
冬が間近に迫るこの季節、新たに食料を確保するのは簡単じゃない。辺鄙な田舎村では特にだ。秋までに食料を蓄えて、どうにか冬をやり過ごすという生活スタイルらしい。余剰食料なんてほとんどない。そこに俺たちのような予定外の人員が留まればどうなるか。当然食料不足に陥るわけだ。
そもそも、この村の住人は百人程度だからな。それがいきなり五割増になれば対応できないのが当然だ。
「大丈夫です。とりあえず、食料に関してはあてがありますので」
「そうですか!」
村長の顔がぱっと明るくなった。よほど心配だったようだ。食料の徴発なんてされたら、せっかく助かっても先がないからな。
俺のあてというのはもちろんスキルの実のことだ。あるいは、タダの実でもいい。問題はどこから採ってくるか、だな。
この村は死招きの森の外縁部に近いが、それでも歩けば一時間近くはかかる。そこから運んでくるのは手間だ。できれば、この村に設置したいな。
うーん、どうするか。
あまり森の外に増やしたくはないが、移動効率を考えると帰還魔法のアクセスポイントは増やしておきたい。実つきの枝を接木して、微妙なスキルに固定化しておけばいいだろう。それなら、もし奪われてもデメリットは小さい。
アブジンの呪いの件もある。一日一つ、確実にスキルの実を提供するなら、近場で採れるようにしておいたほうが無難だ。
エステラにはいろいろバレてしまうが、これだけ恩を売ればそう簡単には裏切ったりしないだろう。不要になったら切り倒してしまえばいいし、ここはスキルツリーにしておこう。
そうと決まれば、早速動くことにしよう。
ピエールを連れて、帰還魔法でアラヤ村に戻る。ピコと少しだけ過ごして、実験農場へと移動した。エステラの村のスキルツリーは小聖樹にするつもりなので、オリジナルのツリーではなくてAランクツリーの枝が必要だ。スキルは……うーん、【盛り上げ上手】ね。まぁ、これでいいか。
「これでいいか」
「ケント様。スキルツリー化するのは翌日なのでは? 今日の分の食料が必要ですぞ」
「おっと、そうだな」
ピエールに指摘されてはっとする。危うく、二度手間になるところだった。
タダの実も含めれば、食料は売るほどある。量を確保するのは簡単だが、それを運ぶとなるとまた別の話だ。さすがに、二人で全部は持てない。
「もっと連れてくれば良かったか」
「では、ルイとイザベラも連れていきましょう」
ルイとイザベラはピエールが庇護する古代種の子どもの年長組だ。古代種は身体能力に優れているので、成人間近の二人なら大人顔負けの働きをしてくれる。たしかに運搬役としては悪くない。
とはいえ――
「戦場に子どもを連れていきたくはないなぁ」
いや、たぶん俺よりは強いんだけどね。それでも、せめて大人になるまでは安全な村の中で暮らして欲しいという気持ちがある。
「ふふ、ありがとうございます。ですが、あの程度の傭兵なら大した危険はありますまい」
ピエールが朗らかに笑う。
いや、武器を持って襲ってくる傭兵を大したことがないと言える人間はまずいないと思うが。え、ルイとイザベラもそのレベルってことか?
「荷運びが終われば、魔法で帰れますしな」
「あ、ああ。まぁ、そうか」
帰還魔法は量産化してあるから、ルイとイザベラも習得済みだ。二人はオリジナルスキルツリーにしか転移できないが、戻るだけならそれで十分か。
「よしわかった。じゃあ、二人に頼むとしよう」
「村の防衛強化が必要ならカペタも連れていけばいいのではないですか?」
「それは、あっちの村にスキルツリーができてからでいいだろう。資材を運ぶ必要もあるしな」
「なるほど。では、ルイたちを呼んでまいりましょう」
ルイ、イザベラの協力で、食料は無事エステラの村まで運べた。接木も無事成功。次の日には大量の実をつけているのを確認できた。人が増えるなら、スキルツリーも増やさなければならないが……まぁ、それはおいおいでいいだろう。まずは村の防衛力強化を進めないとな。




