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第52話 穴の中の王族

 妖精からの報告を受けて、人を集めた。ファンガとカペタを含めた獣人の男たちが十五人、古代人はピエールの他に年長の少年が二人、声のかけられる範囲にいた妖精たちが五人、あとは俺とレンだ。


 ノアたちは村に残す。猫たちは人との戦いは乗り気ではないようなので、無理に連れて行かないことにした。どの道、村にも防衛力を残しておく必要があるので、そちらを彼らに任す。



 全員で二十五人。軍隊を追い払うには少なすぎる人数だ。とはいえ、こちらに来ているのはエステラの王族とその追手。妖精は“たくさんいる”と言ったが、詳しく聞いてみれば数十名程度だ。罠を利用すれば撃退は可能だろう。


 ひとまず、ハリムの兵を軍へと帰さないことを目標とする。村の情報を持ち帰らせないのが最優先だ。今はまだ、ろくな情報を掴んではないだろうが、もしもという可能性はある。


 エステラの王族については可能な限り助けるつもりだ。


 考えてみたのだが、やはりハリム王国に対抗するには戦力が足りない。ここはエステラも仲間に引き入れたいところだ。命を救えばその交渉もやりやすいだろう。領土の半分を失ったとはいえ、エステラはまだ滅んではいない。俺たちが援助すれば多少は持ちこたえるのではないかと……まぁ、そんな淡い期待をしているわけだ。


「準備はいいか?」

「おう! まずは、俺たちを運んでくれ!」


 エステラの王族が目撃された落とし穴地帯はかなり遠い。今から普通に向かったところで、救出は間に合わない。なので、俺が帰還魔法を使って運ぶ。スキルツリーは緊急避難場所として森の各地に点在させてあるので、目標地点に一番近い場所に転移してから移動することになる。


 帰還魔法で一度に運べるのは五、六人。何度か往復する必要はあるが、瞬間的に移動できるのは便利だ。まずはファンガたち、獣人の精兵を送る。


「よし。俺は一度戻るぞ」

「あ、旦那。次は妖精たちを連れてきてくれ」

「わかった」


 妖精たちは飛べるし、小柄なので木々に潜めば見つかりにくい。索敵役には最適だ。まずは、状況を探らせるらしい。


 数度往復して、全員を運び終える。そんなタイミングで斥候に出ていた妖精が戻ってきた。


「いたよ! 逃げる人、少なくなってる」


 ギリギリ間に合ったか?

 いや、まだわからないな。


「急ごう。案内してくれ」

「わかった! こっちだよ!」


 妖精の先導で、森を駆け抜けていく。獣人も古代人も身体能力が優れているし、レンもエルフだからか森歩きに慣れているようだ。この中では俺が一番足手まといである。そう長く走るわけではないので、必死についていく。


 しばらく走っていると、わぁわぁと騒ぐ声が聞こえてきた。直に木々の切れ間から兵士の姿が見えてくる。


「どういう状況だ」


 足を止め、茂みに身を潜めて様子を覗う。見える範囲で王族らしき姿はない。おそらくはハリムの兵だと思うが。


 隣で屈んでいるファンガの耳がピクリと動く。


「落とし穴に警戒しているみたいだな。誰か落ちたか」

「エステラの王族は?」

「さて、見えないが」


 妖精の報告では、ほぼ護衛を全滅しており、追いつかれるのも間近と言った状況だったはずだ。間に合わなかったかと思ったが、兵たちに撤退する様子はない。ということは、まだ捕まっていないのだろう。


 まぁ、いい。いずれにせよ、やることは変わらない。


 まずは整地魔法で手頃な木を引っこ抜いて、と。


「妖精君、この木を振り回してあいつらの注意を引いてくれ」

「わかった!」

「俺たちは回り込むぞ。カペタ、先導してくれ」

「任せとけ!」


 さて、作戦開始だ。と言っても、難しい話ではない。妖精を陽動役として、側面から襲いかかるだけだ。落とし穴の位置を把握しているカペタを先頭に、ハリム兵の側面に回り込む。


「た、隊長!」

「なんだ!」

「木がひとりでに!?」


 妖精が動きはじめたみたいだな。兵たちがパニックになっている。さて、兵たちはどうする?


「どうなってるんだよ!」

「やっぱり森には悪魔が!?」

「任務完了は間近だぞ! ここで逃げるわけにはいかん! 落ち着いて、敵の正体を見極めよ!」


 隊長らしき人物が、兵たちを鼓舞している。踏みとどまるようだな。この様子だと、やはりエステラの王族は捕まってない。どこかに身を潜めているのか。


「ファンガ。頼むぞ」

「ああ、旦那。あんな奴ら蹴散らしてやるぜ!」


 カペタを除く獣人とピエールで敵兵に突っ込む。残りは俺と待機だ。


 さて、直接戦闘はできないが、俺にもできることはある。早口で読み上げるのは痛風魔法の呪文だ。


「痛、体が……! あ!?」

「どうした、大丈夫か!」


 対象とした兵士が激痛で苦しみだした。周囲も原因がわからず、混乱が広がる。


 痛風魔法は対象を視認さえできればかなり遠くから発動できる。発動時は音もなく、痛みだけが発生するので、どこから攻撃されているのかわかりにくい。名前は微妙だが、かなり便利な魔法だ。


「森の悪魔だ! 悪魔の呪いだ!」

「まさか……!」


 今回は、木を振り回しながら近づく妖精というわかりやすい存在がいたおかげで、そちらの仕業だと勘違いしてくれたらしい。森の化物に続いて、森の悪魔の誕生である。もっとも彼らを逃すつもりはないので、悪魔の噂が広まることはないだろうが。


 ともかく、痛風魔法によって、兵たちの注意はますます陽動役の妖精に向けられることになった。そこにファンガたちが襲いかかる。


「くたばれ!」

「なにぃ!」

「じゅ、獣人が!」

「おらおら!」


 敵兵の数は二十くらい。数としては襲撃側が少ないが、不意をついたおかげで一方的な展開になった。特にファンガとピエールの活躍は大きい。この二人の戦闘力は飛び抜けているようだ。


「終わり、ましたね」


 レンが真っ青な顔で呟く。もっとも俺も似たようなものかもしれない。兵たちは全滅。辺りには血だまりができている。直接手をくだしたわけではないが、人の死にかかわった事実は消えない。傭兵たちの撃退に続いて二度目だが、まだ慣れない。


 とはいえ、村を守るために自分で選んだ道だ。目を逸らすつもりはない。


 それよりも、まずはやるべきことをやらなくては。


「みんな! 近くにエステラの王族がいるかもしれない。見つけたら保護してくれ」

「数人で組んで動くようにしましょう。残兵がいないとも限りません」


 俺の指示をピエールが補足する。


 ここでも活躍したのは妖精たちだった。


「こっちこっち! こっちに誰かいるよ!」


 呼ばれて向かったのは落とし穴だ。暗がりの中で二人の人物が身を寄せ合っているのが見える。動きやすくはあるが質の高そうな衣服は、明らかに兵とは違う。彼らがエステラの王族で間違いなさそうだ。


 しかし……二人ともまだ子どもじゃないか。


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