第48話 災厄の魔剣
「どういうことですか?」
俺が何か言うよりも早く、レンが問いただす。それに対して、バナンザは苦笑を浮かべて答える。
「そのままの意味だ。ひとまずは、ノルスル単独との同盟で納得してくれ」
ううむ。ひとまずは、か。
「その意図は?」
「意図、ではないな。ここはゲームではなく現実だという話だ」
なんのこっちゃと思いつつ、バナンザの説明を聞く。
「私は自由都市同盟の盟主だ。しかし、絶対的な権力を握っているわけではない」
ゲームでは自由都市同盟というくくりでひとつの勢力だった。“プレイヤー”の選択ひとつで自由都市同盟全体の方針が決まり、意見の対立などは起きない。
しかし、現実となった今、都市同盟という政体が勢力の意思決定に大きな障害となっているようだ。各都市は独立して運営されている以上、それぞれに思惑がある。盟主といえども、他都市の長に命令権はない。できるのはあくまで提案だけらしい。
「提案はしてみるが、受け入れられるかどうかは別だ。なにせ、無名の勢力だからな」
それを言われてはどうしようもない。
「もっと名前を売るべきか?」
「それも手ではある。ただ、他の都市で同じように影響力を高めるとなると、時間がかかるぞ。しかも、おそらく他都市に“プレイヤー”はいない。スキルの実についてもどれだけの者が信じるか」
「たしかに……」
バナンザがスキルの実の効果を信じたのはシステム通知によるところが大きいはずだ。非“プレイヤー”の有力者との交渉がこれほどすんなり行くとは限らない、か。
「なので、ここは私に任せて欲しい。これを機に権力掌握に動くつもりだ」
にこやかな笑みを捨て、バナンザがその顔に野心を覗かせた。
どうやら、俺たちとのツテを使って自由都市同盟盟主の権限強化を図るつもりらしい。病気を癒し、兵たちを強化する力。それを提供する見返りに協力を呼びかける。ハリムによる侵攻が現実味を帯びる今なら、権力を一本化させ即応力を高めるという建前もあるので、タイミングも良い。
「つまり、俺たちに他の都市で商売をするなと?」
「商売は構わないが、スキルの実に関しては私を通して欲しい。私が権力を握っているほうが、君たちにも都合がいいだろう?」
まぁ、それはそうだな。バナンザもさっき言っていたが、各都市の有力者と個別に交渉を持つのは時間がかかり過ぎる。それなら、同じ“プレイヤー”で価値観を共有できるバナンザにまとめ役になってもらったほうが面倒がない。
気がかりなのは交渉窓口が限られてしまう点だ。バナンザが裏切ったり、無理な要求をしてきたときに対応が難しくなる。まぁ、俺たちの背後にユーリッド聖樹国がいると勘違いしている節があるから、そこまでのことはしてこないと思うが。
総合的に判断すれば、バナンザの提案を飲んだほうが益が大きそうだ。確認のために視線をやると、レンは小さく頷いて賛意を示す。
なら、決まりだ。
「わかった。それでいい」
「助かるよ」
それから細かいやり取りについて話を詰める。スキルの実は、バナンザ傘下の商会との取引という形での提供が決まった。“アラヤの仙桃”も含めてだ。これについては、後々イセオに伝えておかなければならない。
ある程度話がまとまり、ときおり雑談がまじりはじめたころ、バナンザは興味深そうに俺たちの後方へと視線を向けた。
「ところで、どのようにしてピエール殿を味方に引き入れたか聞いてもいいかね?」
雑談という体を装っているが、かなり関心があるように見える。ピエールはクロニクル・オブ・ロードでは厄介な敵だったという話だし、現実との差異に興味を示すのはわからないでもない。
「どうする?」
「先輩に任せます」
「ケント様の良きように」
レンとピエールに尋ねると、俺に任せるということなので、少しぼかして説明することにする。
「別に大した話ではないんだが」
ピエールの一族は魔物の血肉しか受け付けない体質で、それゆえ死招きの森で暮らしていた。その体質を改善するスキルの実がたまたま手に入ったので、提供することで、こうして森を出ることができるようになったのだ。今は村の一員として、働いていてくれている。とまぁ、そんな筋書きにした。
「体質改善か。そのスキルというのは?」
「……味覚の弱点を克服するスキルだ」
「味覚か。むぅ……」
話を聞き終えたバナンザが残念そうに唸る。大した話でなくてがっかりしたのだろうか。どうも、そんな感じではないよな。
「どうしたんだ?」
「いや、実はな。今、自由都市同盟には災厄の魔剣がある」
「災厄の魔剣!? マジですか?」
「マジでだ」
レンが仰天し、バナンザが真顔で“マジ”なんて言ってる。よほどのことなのだと思うが、俺にはピンとこない。
「災厄の魔剣ってなんだ?」
「ああ、先輩は知りませんよね。説明します」
レンの説明によれば、災厄の魔剣はクロニクル・オブ・ロードに登場する非常に強力な武器らしい。装備すれば戦闘能力が飛躍的に向上し、強力な必殺技まで使えるのだとか。その反面、不吉な名前が示すように、強力なデメリットがある。
「魔剣は所有しているだけで、所有者の魂を削るんです。メタいことを言うと、能力が減少していきます」
能力が既定値以上奪われた所有者は死ぬが、魔剣は同勢力の別の所有者に引き継がれる。要は、一時的に強い力を得る代わりに長期的にはがっつりと戦力を削られるわけだ。
「対ハリムにおいては切り札になるが、先のことを考えると頭が痛くてな。もし、災厄への対抗手段があるなら知恵を借りたかったのだが……」
「それは……ちなみに誰が所有者なんです?」
「アブジンだ」
「自由都市同盟の最高戦力じゃないですか!」
バナンザとレンの表情が暗い。よくわからんが、アブジンというのは有能な人材らしい。
「それは惜しいですね……」
「しかし、味覚の弱点克服では……」
二人して頭を悩ませているが……そんなに難しい話か? いやまぁ、何とかできる保証はないが、無策で諦めるよりはまず試してみるべきだろう。
「能力が減少するって、それはスキルも含まれるのか?」
「はい。むしろ、スキルは優先的に……ってあれ?」
俺の問いに答える途中で、レンが首を傾げる。
そうだよな。魔剣が能力を削り取っていくのなら、それを上回るペースで能力を与え続ければどうなるのか。試してみる価値はあると思う。
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〈災厄の魔剣〉
クロニクル・オブ・ロードのシングルプレイかつハードモードで発生する災厄イベントの一つ。
発生時期はランダム。特徴としてはメリットとデメリットの両方があり、発生時に所有しないという選択もできる。災厄イベントの癒し枠。
最初の所有者は選べるが、一度与えると取り上げることはない。毎月の内政フェイズで所有者の能力が大きく削られ、能力が一定値を下回ると死に至る。所有者が死んだ場合、魔剣は同勢力内の元首を除く他の英雄に引き継がれるため、最終的には人材が枯渇してしまう。しかし、戦場で謀殺すれば、魔剣の引き継ぎは行われないため、ゲームでは能力が低い英雄に魔剣を与えて、使い捨てるという戦術がとられることも。




