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第47話 スキルの実で釣る

「先輩……?」


 バナンザの視線が俺に向いた。予想していなかった展開に、呆然としているようだ。落ち着くまで待つかと思ったが、何か話せと目で言うので、仕方なく口を開く。


「あー……よろしく。俺は新谷賢人と言う。こっちでは、ケント・アラヤと言ったほうがいいかな?」

「アラヤ……アラヤか!」


 それでピンと来たらしい。バナンザの目が大きく見開かれる。そのタイミングで、レンが言葉を重ねる。


「そうなんです。先輩は特殊な形で転移してきたので、既存の勢力にとらわれていないんですよ。それで空白地帯の“死招きの森”に勢力を築いたんです。こちらのピエールを仲間に引き入れたのも先輩の手腕です」


 レンの紹介に合わせて、ピエールがお辞儀してみせた。雰囲気に飲まれてかバナンザが「なるほど」と呟いている。


 しかし、手腕ね。実際には、食べ物につられて居着いているだけのように思うが、ここで口を挟まないようがいいんだろうな。


 心配なのはピコだったが、これに関してはうんうんと頷くだけで文句をつけるつもりはないみたいだ。一時はバナンザに傾きかけた主導権は、再びレンが握り直した。


「先輩というのは?」

「たまたまですが、以前からの知り合いで。その縁もあって、“アラヤ一家”に身を寄せているんです」

「縁ね。なるほど……そういう裏があっての元首交代か」


 バナンザが納得したように頷く。


 いや、そういう裏ってどういう裏なんだよ。絶対、何か誤解がある……というか、レンがそういう風に誘導したんだろうな。今も、バナンザの呟きを否定せずに微笑むだけだし。


 まぁ、普通は女王をクビになったなんて考えないよな。何か意図があっての行動と思うはず。アラヤ一家にはユーリッド聖樹国の元首の座よりも魅力的な何かがある、もしくは自らが身を寄せて縁をつなぐ理由があるとか考えてそうだ。


 ああ、もしかして、レンはユーリッドとの同盟も匂わせているのか? 正式な同盟を結んだらシステム通知が発信されそうだが、その前交渉段階だと思い込ませる意図があるのかもしれない。


 いずれにせよ、バナンザは“アラヤ一家”の価値を高く見積もっていることだろう。実際にはただの村なのだが、交渉事にハッタリはつきものだ。実情を偽って同盟締結したところで、普通ならすぐに破棄されてしまうだろうが、そこはスキルの実による貢献でカバーできる。レンとしては、こちらの優位を維持したまま、話をまとめたいのだろう。



 それにしても、レンがとんでもなく有能だが? 会社ではむしろ交渉事を苦手としていた感じなのに。


 能ある鷹は爪を隠す……ではないよな。これは、憑依元になったキャラの能力を引き継いだ結果か。大技すぎて普段遣いできないとはいえ魔法も使えるし、かなり有能だよな。スキルツリーも便利だが、他の“プレイヤー”もやはりチート級らしい。


 ただまぁ、性別が変わったり、今までの自分とはまったく別の体になるのは違和感が凄そうだ。俺は、そのままの体で転移できて良かったかな。


 おっと、考え事をしている間にもレンとバナンザの交渉は進んでいるようだ。


「では、バナンザさんも?」

「そうだな。エステラはともかく、ハリムのほうは間違いなく“プレイヤー”だろう。マルチ用の速攻戦術としてよく見る形だ」


 マルチ……マルチプレイか。クロニクル・オブ・ロードは基本的にシングルプレイ用のゲームだが、ネットワーク経由での多人数プレイにも対応しているらしい。ハリム王国の方針が、マルチプレイ用の鉄板戦術をなぞる形なのだとか。獣人の権利剥奪が一般的な戦術って、どんな世界だよと思うが……あくまでゲームだしな。問題は、現実となった世界でそれをやる“プレイヤー”がハリムにいるってことだ。


「バナンザさん。わかっているとは思いますが」

「ああ、そうだな。ハリムの王が“プレイヤー”なら次に狙うのは間違いなく自由都市同盟だ」


 バナンザも危機感を抱いているようだな。これなら同盟の交渉もうまく進みそうだ。


「アラヤの名前を出して、大々的に商売をはじめたのは、そちらも同盟相手を探していたということで構わないか?」

「そうですね。僕と先輩も自由都市同盟との同盟を考えています。システム通知がなければ、もう少し秘密裏に勢力拡大を進めるつもりだったんですが」

「なるほど。しかし、我々が同盟を結ぶほどのメリットを提示できるのか? 新興勢力の報せには驚いたが、現時点でそこまで力を持っているとは考えにくいが」


 まぁ、そこは気にするよな。どちらにも恩恵がなければ、同盟を組む意味などないのだし。


「確かに、兵力という意味では貢献できませんね。ですが」


 と、ここでレンが目配せしてきた。頷いて、説明を引き継ぐ。


「詳しい説明は省くが、俺には“スキルの実”を生産する能力がある。“アラヤの仙桃”の噂は聞いているか?」


 相手はお偉いさんらしいが、ここでは“プレイヤー”として対等のつもりで話す。一応、二勢力のトップ同士ではあるしな。


「噂には聞いているが、あれは事実なのか? あちらではそのようなアイテム、なかったと思うが」

「事実だ。実は仙桃も“スキルの実”なんだよ。効果は食べた者に【病気耐性】のスキルを授ける」

「……なに? 【病気耐性】だと?」


 バナンザの表情が変わった。驚いたような、しかし疑いは捨てきれないといった表情だ。


 まぁ、当然だろうな。クロニクル・オブ・ロードには存在しないスキルだ。ゲームで登場するのは基本的には戦闘用か内政用らしい。


「それを証明することはできるか?」

「普通はできないんだが、“プレイヤー”なら話は別だ。スキル習得時にシステム通知が聞こえる」

「……ほう」


 さて、百聞は一見に如かず、だ。いや、この場合は、どちらも“聞く”になるのか? なんにせよ、体験してみるのが一番わかりやすい。


「これを」


 慈善活動として貧しい人の病気を治して回っているので、【病気耐性】の実は常に持ち歩いている。ちょうど三つあったので、それをすべてテーブルの上に置いた。


「これがその実か?」

「そうだ。全部提供するから、毒見が必要ならどうぞ」

「ふむ」

「バナンザ様!?」


 バナンザがスキルの実をひとつ手にとって口に運んだ。護衛が止めるのも無視して、かじる。


「甘いな!」

「スキルは完食したときに習得するから、そのまま食べてくれ。護衛の人もどうぞ」


 勧めてみたが、護衛はどうしたものかと戸惑っている。まぁ、毒見なら先に食べなきゃ意味ないしな。偉い人に振り回されて大変だ。


「む!」

「聞こえたか?」

「ああ、確かに! なるほど……兵力はなくとも我らにもメリットはあるということか」


 完食したバナンザはしっかりとシステム通知を聞くことができたようだ。これで俺たちの言葉が嘘ではないとわかっただろう。


「他にも付与できるスキルはあるのか?」

「今のところ、多くはない。あと使えそうなのは【肉体強化(弱)】くらいだな」


 クズスキルでよければいくらでも増やせるが、ここで話しても意味はないしな。他には【石鹸魔法】や【帰還魔法】なんかは有用だと思うが、早々に手札をすべて見せてしまう必要はない。先々、交渉が必要になったときのためにとっておくことにしよう。


 ただまぁ、【肉体強化(弱)】だけでも魅力的だったようだ。バナンザは少しの間考える仕草を見せたあと、重々しく頷いた。


「いいだろう。我々、自由都市ノルスルは“アラヤ一家”と同盟を結ぶ」


 おお、すんなり交渉がまとまったか。


 ……いや、今、“自由都市ノルスルは”と言ったか。自由都市同盟ではなく?


---

クロニクル・オブ・ロードのマルチモードにおいて、プレイヤーは好きな勢力を選べます。他の勢力はAIが担当。大陸の形状、勢力の配置はプレイごとにランダムに決定されます。いくつもの勢力の行動をリアルタイムで決定して、各プレイヤーに同期する必要があるので、ゲームとして実装するのは難しい気もしますが、その辺りは考えない方向で。

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