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第45話 屋台の成功と黒髭親父

 ピエールの提案は多分に私的欲求が含まれていたが、要は串焼きなんかを提供する屋台を出してみればどうかというものだった。


 肉を焼いてもらうと聞いたときには何を言い出すのかと思ったが、よくよく考えてみれば悪くない提案だ。子どもたちに仕事を与えるという目的を果たしつつ、ピエールは監督兼味見役という形で肉にありつける。俺……というか、アラヤ商会としては、庶民に近い場所で商売することで名前を売れるのも悪くない。三方良しということで、ひとまずはやらせてみることにした。


 すると、これが大当たり。アラヤ商会の串焼き屋台には行列ができるほどになった。


「串焼きどうですか〜! アラヤ商会の串焼き、美味しいですよ〜!」

「タレ焼き三本頼む!」

「タレ焼き三本ですね! すぐに用意します!」


 店をはじめて一週間ほどなのに、すでにすごい行列だ。値段は他の屋台より少し高めに設定してあるにもかかわらず、飛ぶように売れている。


「いや、すごい客だな」

「大人気店ですね! 屋台王になれますよ!」

「みんな、美味しいって言ってる!」


 俺とレンとピコは三人並んで少し離れた場所から、屋台が繁盛する様子を眺めていた。ついでに昼食でもと思ったが、この様子だとすぐにでも売り切れそうだ。素直に拠点に戻ったほうがいいかもしれない。


「ケント様。視察ですか」


 いつの間にか、背後にピエールがいた。俺たちに気づいて、わざわざ声をかけてきたらしい。


「視察って大げさなもんじゃないけどな。ちょっと様子を見よかと思って」

「ご覧の通り、盛況ですよ。スキルの効果は偉大ですな」

 

 ピエールは満面の笑みだ。毎日、試食と称して肉を食べてるからな。しかし、それに対して文句は言えない。なぜなら、屋台で提供しているのは死招きの森でピエールが狩ったトカゲの肉なので。運搬役はもちろん俺だ。まぁ、材料費がタダになると思えば、大した労働ではないが。


「そんなに役に立ってるのか?」

「はい。焼くだけのスキルではありませんな。肉に合うタレまで作れるのですから素晴らしい!」


 ほほう、そうなのか。【焼肉奉行】なんてふざけたスキルが、まさかの大活躍だ。焼肉奉行って、本来は焼肉を仕切る人のことをいうのであって、タレ作りには何の関係もないと思うのだが……まぁ、スキルツリーはフィクスが生み出したものだからな。そんな効果があっても不思議ではないか。


「ちゃんと儲けは出てるのか?」

「それはもちろんですな。材料はほとんどが我らの持ち出しですので。とはいえ、稼ぎはボチボチといったところですが」

「まぁ、屋台だからなぁ」


 串焼き一本は銅貨五枚という価格設定だ。銅貨は基本的に自由都市同盟が発行しているものでやり取りしている。だいたい、100枚で聖神銀貨一枚くらいの価値らしい。聖神金貨換算だと一枚で銅貨2500枚である。【病気耐性】の実は金貨三枚なので、串焼き1500本分の価格だ。それと比較すれば“ボチボチ”という表現にもなる。


「どうせなら、タダの実も売ってもらったらどうです?」


 レンの言うタダの実とは、小聖樹の枝を接木した木からとれる実のことだ。スキルは習得できないただの木の実なので、タダの実。まぁ、そのままだな。スキルは習得できずとも、毎日実をつける特性はそのままなので売るほどある。これも屋台で売ろうという話だ。


「だけど、果物ってそれだけで高級品なんだろ? 屋台で売っても誰か買うか?」


 もちろん、安く売れば買うだろうが、価格破壊は同業者の恨みを買いかねない。身請けの資金はイセオが稼いでくれているので、恨みを買ってまで儲けに走る必要はないのだ。


「そうは言いますけど、先輩。売る売ると言って、結局手が回ってないじゃないですか」

「そ、それはそうだな」


 ルファさんの他にも、慈善事業として“アラヤの仙桃”の提供は続けている。そちらに手を取られているので、タダの実の販売は白紙の状態だ。消費しきれない実は無駄になるので有効活用したいのは事実である。


「とりあえず、カットしたものを試供品名目で安く販売してはどうですか? 食べて興味を持った人に、正規の値段で卸せばいいですし」

「そうするか」


 余れば子どもたちに食べてもらえばいいしな。


 ともかく、商売関係は順調だ。この分なら、獣人の身請けは遠くないうちに実現するはず。余裕があれば、村に足りない物を買いたいところだ。特に鉄製品は村じゃ作れないからなぁ。


 問題は同盟のためのコネ作りだ。今のところ、まったく見通しが立っていない。イセオは有力者を中心に取引をしているので、そちらからのアクションを待つべきか? ハリムとエステラの戦争がどのくらい続くかわからないから、早いうちに接触しておきたいんだが……。


「やぁ、君たち」


 頭を悩ませていると、そんな風に声をかけられた。視線を向けると、すごいヒゲのオッサンがいた。もじゃもじゃ生えたヒゲはサンタクロースに匹敵するほど。ヒゲは真っ黒なのでイメージはだいぶ違うけどな。


 柔らかな笑顔を浮かべていて人当たりが良さそうだが、どことなく威厳を感じる。もっともそれは着ている服のせいかもしれない。素材とかデザインの良し悪しはわからないが、単純に質が良さそうだ。


「はい、なんでしょう」


 隣でレンが驚く気配を感じたが、とりあえず無難に対応する。


「いや、少し話が聞こえてね。君たちは、あの屋台の関係者なのかな?」

「はい、そうですよ」

「おお、そうか。それは――」


 黒髭親父がさらに笑顔を深めたところで、その言葉を遮るようにレンが前に出た。


「おや、君は?」

()? あら、あなたならご存知かと思ったのだけれど」


 レンがいつもとは違った口調で黒髭親父に答える。同時にフードを外して素顔を晒した。


「リ、リーレン!?」


 おっと、こいつは……?

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