第44話 計画通り……!
さて、あとはルファさんに【病気耐性】の実を食べさせればミッション成功だ。
どうやって誘導するか……て、まぁ難しく考える必要はなさそうだな。
「これも何かの縁です。幸い、うちは食料を扱う商会なので、現物になりますがいくらか支援させてもらいますよ」
「ほ、本当ですか!」
おお、ルファさんの食いつきが凄い。まぁ、高価な薬よりは支援を受けやすいのかな。それに、薬じゃ腹は膨れないからな。子どもたちのことを思えば、そちらのほうがありがたいってことかもしれない。
「ええ。では、手始めにこちらをどうぞ」
そう言って、箱詰めしてあった実を取り出す。もちろん【病気耐性】の実だ。
「え、これを!?」
ルファさんがぎょっとする。
思ったよりも、反応が大きいな。スキルの実だってバレたのか? 鑑定能力でもなければ、それはないと思うんだが。
「どうしました?」
「どうしましたって……果物なんて貴重なもの、いただけませんよ!」
ああ、そうなのか。まぁ、地球ほど運送技術が発達しているようには見えないものな。果物類は生産地以外だと高価なのか。
「まぁまぁ。あまり気にしないでください。実は大量に安く仕入れているんですよ。あ、でも、秘密にしておいてくださいね。売り出すときはそこそこの値段をつけますので」
「そ、そうなんですか?」
何でもないことのように笑って受け流すと、ルファさんは戸惑いながらも実を受け取る。あとは、食べてもらうだけだ。
「子どもたちには別に用意しますので、それはルファさんが食べてくださいね。じゃないと、子どもたちがまた倒れるんじゃないかって心配しますよ。なぁ、みんな?」
「そうだよ。お母さん!」
「お母さん、いつもあんまり食べない……」
子どもたちに分け与えると言い出しかねないので、それは予め封じておく。子どもたちの援護射撃もあって、ルファさんも俺の言葉を突っぱねることができない。
「ピエール。すまないが、庭から子どもたちの分の果物をとってきてくれ」
「なるほど。かしこまりました」
駄目押しで、ピエールに子どもたちの果物をとりに走らせる。それでようやく観念したのか、ルファさんが「それではいただきます」と言って果物を口に含んだ。
「な、なにこれ。すごく甘いですよ! これ、本当は高いやつですよね!」
おっと。甘さで高級品だと当たりをつけられたか。実際には値段はあってないようなものなんだが、そう言ったところで納得するとは思えない。それよりも、甘いと聞いて子どもたちが興味を持ち始めたのが問題だ。このままだと子どもたちに分けると言いかねないぞ。
「もう、いいから食べてくださいって。実はそれが本当の薬なんですよ」
というわけで、ここでネタばらしだ。もうかじったので今さら食べないという選択肢はないはず。
「あなたの体は魔法で一時的に回復してますが、病気は治りきってません。それを食べ終えたら治療完了です」
「えぇ!?」
目を白黒させるルファさん。説明を聞けば子どもたちも果物を欲しがったりはせず、じっとルファさんを見て食べるように圧をかける。その視線に負けたのか、ルファさんは焦ったように実を口に運んだ。
「どう? お母さん?」
「病気、良くなった?」
完食してすぐに子どもたちに詰め寄られ、ルファさんが苦笑いを浮かべる。しかし、すぐにその表情が驚きに変わった。
「あ、あれ。本当に良くなってる? 頭痛も体のだるさもなくなっちゃった」
「本当!?」
「良かった! お母さん!」
無事、スキルの実は効果を発揮したらしい。あまりに劇的な効果に驚いていたルファさんも、子どもたちに飛びつかれて笑顔に変わった。
うん、良かったな。慈善事業……もっといえば、商会の名前を売るためにやったことだが、子どもたちの生活を守れたと思うと誇らしい気持ちになる。
同じような気持ちを抱いているのか、ピコがニコニコと笑った。
「えへん。ケントは、やっぱりすごい!」
「ピコちゃん。僕は? 僕も頑張ったでしょ?」
「うん、レンもよくやった! えらい!」
「そうでしょ、そうでしょ。えへへ」
俺が言い出したこととはいえ、ピコにとってレンはやはり子分ポジションのようだ。まぁ、レンも嬉しそうなので、これでいい……のか?
そうして、ルファさんが子どもたちにもみくちゃにされているのを微笑ましく見ていると、早くもピエールが戻ってきた。どこで用意したのか、木箱を抱えている。こんもりと積まれているのはもちろんスキルの実だ。
「早かったな」
「ええ。実はファンガに収穫を頼んでおいたのです」
なるほど。すでに収穫済みのものを運んできたわけか。
「良かったのか? 何か目的があって収穫しておいたんだろ?」
「いえいえ。問題ありません。私の計画を進めるうえでも悪くない展開です」
……計画?
何を言ってるんだ、こいつは。
でもまぁ、提供しても構わないというならそうさせてもらおう。
「よ〜し、お前たち。甘い果物が届いたぞ!」
「わぁ!」
「たくさんある!」
「食べていいの?」
「いいぞ。好きなだけ食べな」
ルファさんも元気になった。安心したらお腹がすいたのだろう。子どもたちが群がるように木箱に寄ってきた。
「あのね! この実はね、すごくおいしいよ!」
ピコが販売員みたいに木の実をアピールしながら、ひとつずつ手渡している。受け取った子どもたちは、すぐにかじりつき、甘い、おいしいと嬉しそうだ。
「本当にありがとうございます」
ルファさんはベッドから起き上がると、俺たちに深々と頭を下げた。少しふらついているようだが、顔色はかなりよくなった。ちゃんと食事をとれば、体調は戻りそうだ。
「いえ。先ほども言いましたが、私も孤児院出身なので。それに、商品の宣伝にもなりますからね」
孤児院に手を差し伸べたという美談で商会の名は上がり、病気の快癒に一役買った木の実は話題になるはず。そう説明をしたのだが、ルファさんは納得しない。
「その程度ではとても恩を返せません。何か、私にできることがあればいいんですが……」
感謝の気持ちは嬉しいが、流石にそれは無理だろう。この孤児院、現状でもギリギリ……というか、経営が傾きはじめているように見える。商会への恩返しの前に、孤児院を建て直すのが先だ。
あ、いや、待てよ。助けを借りるという形で仕事を与えるのはどうだろうか。子どもたちにもできる作業なら、全員に報酬が支払える。それなら経営も楽になるだろう。
問題は仕事の内容だ。子どもたちにもできる作業が望ましいが……すぐには思いつかないな。みんなにも相談してみるか。
孤児院への支援のために子どもたちに仕事を与えたいと言うと、ピコもレンも笑顔で賛成してくれた。しかし、意見はなし。まぁ、いきなりだから仕方がないよな。
で、流れでピエールにも意見を聞いてみた。あまり期待していなかったが、意外にもアイデアがあるらしい。
「どうやら、私の計画を発表するときが来たようですね! 彼らには肉を焼いてもらいましょう!」
両手を掲げ、宣言するピエール。何か壮大なことを言ってる風だが……肉を焼く? 何を言ってるんだ、いったい。




