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第40話 森に隠遁する大魔法使い(めい推理)

イセオ視点


 三年前、貴族のごたごたに巻き込まれて、家は莫大な借金を背負った。支払いの見込みはない。私は借金返済のために当時から親交のあったニルス会長のもとへと売られた。


 今思えば、あれは私を守るためのことだったのだろう。その後、両親も返済期限までに借金を返せず、奴隷へと身を落とした。借金奴隷だ。額が額だけに扱いは悪いと予想される。返済の見込みがないことも考えれば、鉱山などで過酷な労働を強いられる可能性が高い。


 一方で、私は知識奴隷だ。それもよそに売られることもなく、ニルス会長のもとで商会の補佐を申し付けられた。おかげで、奴隷ではあるが以前と変わらない生活ができている。


 両親と会長との間にどんな約束が結ばれたのかはわからない。しかし、両親が奴隷落ちしたあとも、私の扱いは変わらなかった。それもこれもニルス会長のおかげだ。本当に頭が上がらない。


 そんな会長から、思わぬ申し出を受けたのは昨日のことだった。私をとある人物に売りたいと言うのだ。


 会長は無理にとは言わなかった。私が拒絶すれば、他の奴隷が売られることになっていただろう。しかし、わざわざ私を指名したのだ。何かあるのだろうと予測はつく。


 これも会長から受けた恩を返すためだ。それに、言葉にこそしないが、会長はその人物を大きく評価しているように見えた。会長の人を見る目は確かだ。いったい、どんな大物なのか。気になった私は、その人物――ケント・アラヤ様の奴隷になることを承諾した。


 実際に対面してみると、拍子抜けしたというかなんというか。見た目はどこにでもいそうな……いや、そうではないな。かなりふわふわした……いや、危機感が足り……まぁ、とにかく少々変わっているが、会長が気にかけるほどの人物には見えなかった。


 ただ、そんなはずがないと、すぐに理解する。ケント様には二人の男が仕えていたが、そのどちらもが普通ではない。


 まず、獣人族のファンガ。戦いのことなどまるでわからない私から見ても、屈強な戦士であることがわかる。実際、術力者揃いの警備の者たちが、ファンガと戦いにならなかったことにほっと息を吐いたというのだから相当なものだろう。


 さらに異常なのが、ピエールという普人だ。一廉(ひとかど)の人物であろうと思わせる風格はあるが、ほっそりとした体つきで強者の雰囲気はない。だが、実際にはファンガよりも強いというのだから驚きだ。


 二人とも武人としては上澄みも上澄み。その彼らが、ケント様に従っているのだ。主従の関係にしては気安いが、ケント様に対して強い敬意を抱いているのは間違いない。彼らにそう思わせるだけの何かがケント様にはあるのだ。


 そして、今日、早速その一端を知ることになった。何の変哲もない庭木を、美味なる果実を実らせる聖樹へと変える奇跡だ。普通なら眉唾と切って捨てるような信じがたい話だが、実際にこの目で見たからには受け入れざるを得ない。


 同時に納得もした。奴隷の予約料金として一人につき聖神金貨一枚を支払うという取り決めはどう考えても無謀だと思っていた。しかし、ケント様の御業があればそれも可能なのだろう。


 そして、さらなる驚きが私を襲った。本拠地に戻ると言ったケント様が、私の肩に手を置くと聞き慣れない呪文を唱えだしたではないか。何事かと思った瞬間、視界を覆う色が変わった。はっとして周囲を見回せば、そこは見覚えのない森の中ではないか。


「こ、ここは……?」


 かすれた声で尋ねると、ケント様は悪戯を成功させた子供のように笑う。


「言っただろう。本拠地に戻るって」


 確かに聞いた。聞いたが、そういうことではない。ノルスルの近くに大きな森はなかったはず。


 私の様子を見て、さらなる説明が必要だと思ったのか、ケント様がさらに続けた。


「場所という意味なら、死招きの森の中だな」

「なっ!?」


 立ち入れば命はないという死招きの森の中に村があると言う。


「き、危険はないんですか!?」

「危険は普通にあるぞ。なので、村の外には出ないようにな」


 それは気軽に告げることではないのでは!?

 あと、外はともかく中はどうなのです。まずは、そっちを保証していただきたい!


 奴隷という立場を忘れて食ってかかろうとしたが、それは子供の乱入によって防がれた。


「ケント! おかえり!」

「ああ、ピコ。ただいま!」


 ピコと呼ばれたのは獣人の子供のようだ。その子供に続いて、他にも数人の獣人が顔を見せる。中にはマーシャの知り合いもいるようで、再会を喜ぶ姿が見られた。


 彼らの話を聞いていると、なんとなく村の成り立ちが見えてきた。ここにはもともとケント様が拾い子のピコと一緒に住んでいたようだ。そこにハリム王国から逃れた獣人たちが合流した。そういう経緯もあって、彼らはケント様に恩義を感じているようだ。獣人以外にも数人の普人が暮らしていて、そちらはピエールの縁者らしい。彼らもまたケント様の計らいで村で過ごすことを許されているようだ。


 いったい、ケント様は何者なのか。ますますわからなくなってしまったが、ひとつだけ確かなことがある。それはニルス様の人を見る目はやはり確かだったということだ。


 一瞬にして長距離を移動する、あの魔法。あれだけでも、ケント様が卓越した魔法使いであることがわかる。これまで森でひっそりと生きておられたのも、下手に世に出ると影響が大きいと思っておられたのかもしれない。しかし、村人となった者たちから獣人の状況を知り、慈悲深いケント様は彼らを救い出すべく動き出された。そういうことなのだろう。


 しかし、森での隠遁生活が長いケント様は人の悪意に疎い。だからこそ、ニルス様は私をつけられたのだろう。ケント様の手助けするために。


「ピコ、――の実をとってきてくれないか?」

「わかった!」


 ケント様に何か言いつけられた娘がタタタと走っていく。しばらくして、戻ってきた彼女が手に抱えているのは、ノルスルの拠点でも見た、美味なる果実だった。しかも、心なしか色つやが良いように見える。


「ケント様、それは?」

「これか。これはイセオに売ってもらおうと思っている実だよ。さっき食べたのよりも上等で、ちょっとした効果がある」


 ケント様はそう言うと、その実をマーシャに差し出した。


「これを食べてみてくれないか」

「私が?」

「そう。うまくいけば、商品アピールにもなるから……まぁ、気軽に食べてみてくれ」

「食べるのは構わないけど」


 差し出された木の実をかじったマーシャの顔がほころぶ。


「わぁ! さっき食べた実よりも甘いよ」


 なんと。さきほどの実も、今まで食べたことがないような甘さだったのに、それより上なのか!


「ケント様! 私にも食べさせてください!」

「わかったよ。でも、あとでな」


 自らの舌で商品を確認したいと願い出るが、ケント様に軽く受け流されてしまった。残念に思うが、あとで確認できるなら不服はない。ケント様がそういうからには何があるのだろう。


「マーシャ。味もいいだろうけど、体の調子はどうだ。呼吸がしやすくなってないか?」

「え……?」


 ケント様から問われたマーシャは戸惑ったように目を瞬かせる。が、すぐに、その顔に理解の色が広がり、喜びを爆発させた。


「すごい! 息が苦しくないよ!」

「おお、マーシャ! 病気がよくなったのか! 旦那ありがとう!」


 マーシャとファンガが飛び上がらん勢いで……というか、マーシャは実際に何度も跳ねているが、体全体で喜びを表現している。そのそばで、ピコという娘が誇らしげに、頷いていた。


「うな! ケントすごい!」


 実際に、凄い。いや、凄いという言葉では不足するくらいだ。肺の病を一瞬で癒す木の実とは……。


「ケント様、これはいったい?」

「ああ。さっきの実は病気耐性……病気に対する抵抗力をつけさせる実なんだ。すでに発症している病気に対して有効かどうかわからなかったけど、マーシャの様子を見る限り、あとから食べても有効みたいだな」


 びょ、病気耐性?


 ケント様は軽い調子で言っているが、これはとんでもないものではないだろうか。軽い抵抗力と言っていたが、マーシャの様子を見る限り効果は十分に高いように思える。しかも、治療ではなく耐性。それはつまり、その後も病気にかからないということでは? 


「どうだ、イセオ。売れそうか?」


 ケント様が心配そうに問いかけてくる。


 しかし、こんなもの売れないわけがない。どうやったって売れる。


 はじめは眉唾だと思われるかもしれないが、ケント様が今やったように実演してみせれば、それなりに信じる者はいるはずだ。そして、食べれば実際に効果を発揮するのだから、買った者から噂は広がるだろう。


 なるほど、そういうことか!


 普通に売れば、購入希望者が押しかけてくるのは間違いない。しかし、その中のどれほどが本当に病気に困っている者だろうか。


 病を癒す仙桃。その効果が本物だとすれば、どれほどの金を積んでも手に入れたいと望む者は少なくないはずだ。そして金になるとわかれば、卑しくすり寄ってくる者がいるのもまた事実。そんな者らが仙桃を買い占め、価格をつり上げるようになったら、本当に欲する者たちのもとに届かなくなる。ケント様はそれを危惧していらっしゃるのだ。


「任せてください! 万事、私におまかせを!」

「おお、頼もしいな。じゃあ、頼んだよ」


 ふふふ。燃えてきたぞ。こんな感情は久しく忘れていた。やはり、ケント様は素晴らしい方だ。その慈悲をあまねく広めるのが私の使命。いいでしょう。この大任、見事やりとげてみせますとも!


---

イセオ 種族:普人

英雄キャラではない、ごく普通の一般通過奴隷。しかし、使命に目覚めたことで能力が微増。戦闘は苦手だが、商才には恵まれているため、内政要員としてはそこそこ優秀。能力はこんな感じ。


戦闘:17 統率:34

知略:39 工作:32

話術:56 商才:79

儀礼:65 使命:74


ゲームでは終盤になると80超の英雄が主力になるので、そちらと比べると若干物足りない性能。しかし、大陸中の実力者が集まってそれなので、70後半の能力は普通に考えればかなり上澄み。意外と英雄でなくとも英雄級の人材は眠っているのかもしれない。

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