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第36話 この先生きのこるには

 死招きの森は大陸中央部に位置しており、小国なら数カ国すっぽり入るほどに広い。そのため、森全体を俺たちの勢力圏だと考えると、隣接している国は結構ある。それはつまり、それだけこちらに直接侵攻可能な勢力が多いということだ。


 とはいえ、実際にはそこまで困った状況にない。と言うのも、俺たちの拠点があるのは森の中央ではなく南東部だからだ。そのため、西や北からの侵攻は基本的に考えなくていい。十中八九、拠点に近づく前に森の魔物に襲われて壊滅するので。


 そんなわけで、現状、注意を払うべき勢力は四つに絞られる。


 まずは、東のハリム王国とエステラ魔法国だ。どちらもそこそこの国力があって、うちのような吹けば飛ぶような弱小勢力ではまともに対抗できない。しかし、この二国には近々戦争をはじめそうな気配がある。仕掛けるのはハリム王国だが、防衛側のエステラもこちらを気にする余裕はないはず。というわけで、しばらくはこちらへの侵攻はないと考えてもいいだろう。


 もちろん、戦争が早期に終わって、こちらに手出ししてくる可能性は否定できない。なので、この猶予期間を利用して、拠点東部に防備を固めるつもりだ。普通なら砦みたいな防衛拠点を作るんだろうが、村の人数的にそんなものがあっても持て余す。そこで、落とし穴などの罠をしかけることにした。妖精がいれば作業はかなりのスピードで進むので、本格的に雪が降る前にそこそこの数を用意できるはずだ。


 この備えが無駄になるのがベストなんだがな。森の化物の噂が広まってくれれば、警戒して攻め込んでこないと期待したいが……まぁ、だからと言って無防備でいるわけにもいかない。しっかり備えはしておくつもりだ。


 残る勢力のうち、一つは北のユーリッド聖樹国だ。北は警戒しなくていいと言ったばかりだが、ユーリッドだけはちょっと事情が異なる。この国が死招きの森に食い込む形で存在しているせいだ。俺たち拠点からも意外と近いらしい。


 そんなわけで、直接侵攻を受けかねない距離関係ではある。しかし、実際にその可能性は低いはずだ。なぜなら、ユーリッドには“プレイヤー”がいないから。“プレイヤー”だった元女王が俺たちのところに転がりこんでいるので、今の元首は非“プレイヤー”のはず。システム通知がなければ、死招きの森に新勢力が誕生したことなんて気づかないだろう。そうなると、あえて危険を冒して死招きの森に侵攻してくる理由がないのだ。


 従って、ユーリッドからの侵攻もまずありえない。なので、防衛優先度も低めだ。東の防備が整ってから、ということになるだろうな。


「で、残る一つは南か」

「はい。自由都市同盟ですね」


 レンがメガネを直すような仕草をしつつ、解説を入れる。ちなみに、レンはメガネをしていないのでエアメガネだ。転移前もメガネはしてなかったから、癖とかでもない。おそらく、解説役に舞い上がっているだけだと思われる。

 

 現在は俺の家で方針会議中。参加者はレンと俺の他に、ピコ、ファンガとピエールに猫四匹だ。まぁ、会議と言ったが、実際は世間話の延長みたいなものだな。


「それは国なのか?」

「正確に言うと違うでしょうけど、勢力としては小国規模と考えても問題ないと思いますよ」


 レンによれば、自由都市同盟は独立都市の連合体みたいな性格の勢力らしい。各都市では市長が独自に運営をしているが、外からの脅威に関しては団結して戦うのだとか。傾向としては経済活動が活発な商業偏重の勢力らしい。都市防衛力が高く、防戦は得意。その反面、攻め手になると連係が取れないのか、十分に実力を発揮できないそうだ。


「ほう、良く知っているもんだな」

「ふふふ。これでも参謀ですからね!」


 ファンガに褒められたレンがドヤ顔でふんぞり返る。だがまぁ、この情報にはそれだけの価値がある。他国の特徴を事前に知れるというのはかなりの強みだ。“プレイヤー”なら常識なのかも知れないが、俺はまったくだからな。正直、助かってる。


 ちなみに、参謀というのは自称ではなく、“アラヤ一家”の正式な役職だ。人が増え、システム音声さんからも正式に勢力と認められたおかげか、ホームオブジェクトから設定できるようになった。と言っても、設定できるのはまだ三つ。参謀をレン、隊長をファンガ、工兵長をカペタに任命してある。


 役職を指定した場合、ゲームでは対応する能力値に補正がつくらしいのだが、現実ではどうなるのか不明だ。少なくとも、今のところ、レンに参謀らしさは感じられない。まぁ、本人が満足ならそれでよしとしよう。


「だったら、当面、東からの侵攻に備えれば良さそうだな」

「いや、ここは積極的に同盟を結ぶべきではないでしょうか」


 レンが真面目な顔で言う。今のはちょっと参謀っぽかったな。


「同盟か。たしかに必要だろうが……」


 こっちは誕生したばかりの弱小勢力。規模としては村でしかない。独力で国家を相手取るのは明らかに力不足だ。そこで同盟をって話なんだろうが、うちのような弱小勢力と手を組んでくれるところがあるのか?


 俺の懸念はレンも理解しているはずだ。しかし、それでもレンは可能性があると考えているようだ。


「自由都市同盟はそういう意味でちょうどいい相手なんです」


 と説明を続ける。


 自由都市同盟は軍事的には他勢力に劣る反面、資金力は高い。資金援助を餌に同盟を組み、同盟国の力を背景に勢力を伸ばす動きをするのが鉄板戦術らしい。なので、わりと他国との同盟には前向きな勢力なのだ。加えて、ハリムとエステラの戦争も追い風になる。情勢次第では、近隣国の自由都市同盟も危うい。なので、あちらも同盟相手を模索しているところだろうというのがレンの見解だ。


「それでも、こっちは村だぞ」

「そうですね。でも、普通の村じゃないですから。たとえば、【肉体強化(微)】の実を提供するだけで、それなりの貢献はできますよ」

「なるほど……」


 どうした、レン。本当に参謀みたいじゃないか。役職の補正とやらはそこそこ大きいのかも知れないな。


【肉体強化(微)】の実は、最近になってフランが見つけてくれた。すでに接木して、いくらでも採取できる状況だ。強化の程度は大したことはないが、それでも兵士全員がスキルを取得すれば部隊としての戦闘力は大きく向上するはず。そんなことができるのはうちくらいなので、うまく話を持っていけば同盟を組む価値を認めさせることはできそうだ。


 問題はどうやって交渉に持ち込むか、だよな。


 俺たちがそこそこ大きな国からの使者なら、向こうでも丁重に扱ってもらえるはずだ。同盟の提案も無下にはされないだろう。


 けれど、実際は無名の村に過ぎないのだ。使者を出したところで、上層部に取り次いでもらえるとも思えない。もし、“プレイヤー”がいれば“アラヤ一家”の名前を出すことで興味を持ってもらえるかもしれないが……。


「まぁ、実際に行ってみるしかないな。商売でもしながら、コネを作れないか考えてみるとしよう」


 この村では手に入らないものが多すぎる。交易をはじめようと考えていたので、ちょうどいいと言えばちょうどいい。


「せっかくなので、先輩の転移ポイントも増やしておきたいですしね」

「そうだな」


 レンの言う転移ポイントとは俺がアクセスできるホームオブジェクトのことだ。つまりは、接木スキルツリーだな。


 実は、俺が新たに習得した【帰還魔法】は、とんでもない性能だった。本来の効果はおそらく『拠点に転移する』なのだが、俺の場合、一度アクセスしたことがあるホームオブジェクトも転移先に選べるのだ。つまり、移動先にスキルツリーを作れば、拠点と移動先を一瞬で行き来することができる。この利便性については多くを語るまでもない。持ち運べるくらいの荷物なら一緒に転移できるので、交易も捗ること間違いなしだ。


 残念なのは、複数地点を選べるのが俺だけという点だな。接木によって【帰還魔法】も増やしたんだが、俺以外が使った場合、転移先はオリジナルスキルツリーの前になる。まぁ、それでも十分に破格の性能なんだが。


 ちなみに、ハリム王国にはあえて転移ポイントとなるスキルツリーを残さなかった。スキルの実は俺たちの最大の武器だからな。敵対勢力に知られたり、奪われたりするのは避けたい。十中八九、敵に回りそうなところには残せないというわけだ。自由都市同盟でもどこの木をスキルツリーにするかは慎重に考えなければならないだろうな。

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