第33話 ハリム王国の動向
佐々木 裕太 17歳 = ハリム王国 国王ブリジステッド
ハリム王国の王ブリジステッドは政務の最中にあった。
(サインするだけとはいえ、正直ダルい。変なところまでリアルで困るぜ……いや、リアルなんだけどな)
国王ブリジステッドに宿ることになった裕太は書類仕事に嫌気がさしていた。憑依する形での転移だったため、政務に関する知識はある。能力も引き継いでいるので、適切に処理する能力もある。だが、意識はあくまで裕太の頃のままだ。ゲームになら発揮できる集中力も書類が相手ではいまいち振るわない。
とはいえ、やらねば諸々の影響が出る。せっかく理想的なスタートダッシュを切ったのに、政務に手を抜いて効率を落としてはもったいない。それがわかっているので、裕太は面倒だと思いながらも着実に書類の山を攻略していく。
(よし、兵数は十分。攻め切れるかどうかは微妙だけど、それなりに荒らせるっしょ。エステラは中盤以降の伸びがやべえから、比較的弱い序盤に叩いとかないとねぇ)
クロニクル・オブ・ロードの各勢力は固有の特性や技術ツリーがあり、文明の成長・発展の仕方がそれぞれ異なる。その特徴を生かした戦術をとるのが、勝利への鍵だ。特に、マルチプレイでは相手の強みを潰して、自分の強みを押し付けるのが非常に重要となる。
ハリム王国は傭兵雇用が安くなる特性があるため、序盤から戦力を揃えやすい。そして、裕太は傭兵を利用した速攻戦術を得意としていた。
(獣人を追放したから、単一民族による団結値ボーナスがもらえる。士気を十分だし、相手が“プレイヤー”だったとしてもいけるっしょ)
ふぅと息を吐いて、戦争準備には問題ないと結論づける。あとは攻めるだけだ。そこまでいけば、裕太も国王として軍を率いることになる。書類仕事ともおさらばだ。
転移当初は混乱した裕太であったが、今ではすっかりこの状況に適応していた。リアルなゲーム体験を楽しんでさえいる。
そんなときだった。その通知が届いたのは。
“『死招きの森』に新勢力『アラヤ一家』が誕生しました”
(は……? 何だって?)
突然の通知はいまだに慣れない。だが、それ以上に内容が意外すぎて、驚いてしまった。クロニクル・オブ・ロードには一部のイベント的な例外を除き、新勢力が登場するなんてことはなかったのだ。
「どうなさいました、陛下」
「何でもない……いや、少し考えたいことができた。玉座の間に行く、誰も入れぬように」
「はっ」
護衛の騎士に告げてから、玉座の間に向かう。騎士も慣れたもので、指示に従った。ここ数ヶ月で王にできた新たな習慣だと知っていたからだ。
玉座の間についた裕太は、すぐに玉座に腰掛ける。目的は先ほどのメッセージの確認だ。この玉座がハリム王国のホームオブジェクトだった。
(やっぱり、死招きの森だった……あそこに新勢力ってどういうことだ? ゲームじゃ、そんなイベントなかったよな)
クロニクル・オブ・ロードには多くのイベントが用意されていたが、プレイヤー数も多かったため、ほぼ全てのイベントが有志によってまとめられている。裕太はその手のデータを眺めるのが好きだったため、それらすべてを把握していた。だが、いくら思い出そうとしても、新勢力に関する記憶は出てこない。
(てことは、やっぱりゲームが現実化した影響かね。仕事が増えんのは面倒だけど、こういう新規イベントは大歓迎だぜ!)
裕太はクロニクル・オブ・ロードの沼にどっぷりはまった熟練プレイヤーだ。マルチプレイを好んでいたが、シングルプレイも勢力を変え何度もやった。その結果、ほとんどのイベントは経験済み。別に飽きていたわけでないが、それでも新鮮味は感じられなかった。
それがどうだ。ゲームが現実となったことで、自分の知らないイベントが起きるようになった。また新鮮な気持ちでゲームができるのだ。それがたまらなくうれしかった。
「誰ぞ」
「はっ!」
人は通すなと言ったが、当然ながら護衛の人員はいる。扉の前で直立不動の態勢を取っていた騎士を呼びつけ、裕太は問うた。
「死招きの森の状況はどうなっておる。何か変わりはあったという報告は?」
「はっ! 私の把握している限りにおいては変わりありません!」
「ふむ」
死招きの森では時折魔物が溢れ出てくることもあって、要所には監視塔が置いてある。これはゲームでは語られていなかった、現実での仕様だ。おかげで、大きな変化があれば事前に情報が得られるはずだった。
しかし、監視塔からの報告はなし。この時点では、傭兵団も逃げ帰ってきたばかりで、森の化物の噂も広がっていなかった。
(まぁ、そんなもんか。タイムラグもあるだろうし、新勢力といってもできたばかりじゃな。名前も国っぽくないし、盗賊団か何かかね?)
少なくとも現時点では脅威となる存在ではなかろうと裕太は結論づける。
「何か気になることがございましたか?」
「いや、そうではない。そうではないが、これからエステラとの戦が始まるのでな。後方に憂いがないことを確認しておきたかったのだ」
「なるほど」
裕太の言葉に納得したように騎士が控える。それを見届けることなく、裕太はまた思考の海に沈む。
(戦争前だから戦力を割く余裕はないけど、新イベントは気になるよなぁ。小規模な調査隊くらい派遣してみるか?)
ちらりと死招きの森の調査を検討するが、すぐにそれを否定する。
(いや、なしだな。変につつくとトリガーが発動して本格的に始まる可能性が高い。ここはエステラに集中しとくべきだ。あっちにも“プレイヤー”がいるなら序盤対策されてるかもしれないんだ。中途半端な戦力で挑みたくない)
盗賊と思しき一団と、自国と同程度の勢力を誇る敵国。警戒すべきは当然後者だ。さらに言えば、戦力はまとめてぶつけるのが定番の戦術であり、特に序盤の速攻戦術では途切れなく兵を出すのが極めて重要になる。
余計な敵を作るべきではない。そう判断した裕太は、新勢力については頭の片隅に置くだけにとどめ、まずはエステラとの戦いに集中する決断を下した。
(ま、せっかくのイベントを序盤で潰してしまうのももったいないしな。エステラとの戦争が終わる頃なら、わかりやすい変化もあるだろう。そうなってから突いてみるかもな)
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[tip]
勢力の民族構成によって、種々のボーナスが発生する場合があります。
〈単一民族ボーナス〉
勢力の大半を単一の民族が占める場合、団結値に大きなプラス補正が入ります。団結値が高ければ士気の上昇と維持がしやすくなり、“高揚”状態にも入りやすくなります。これにより軍団ユニットの攻撃力と継戦能力の面で有利となります。
〈多様性ボーナス〉
勢力の半数を占める種族がなく、かつ複数の種族から構成される場合、主に文化面でのプラス補正が入ります。また、補正はありませんが、様々な技術ツリーにアクセスできるため、柔軟な勢力強化が可能になるというメリットがあります。兵科のバリエーションも増えるため、柔軟な戦術がとれます。
総合的に言えば、序盤は単一民族ボーナスを狙うムーブが強く、中盤以降は多様性ボーナスのほうがメリットが大きいです。が、勢力の特性にもよりますので、一概には言えません。




