第31話 新勢力が誕生しました
村は喜びで溢れていた。それも当然だろう。奴隷狩りの傭兵たちを追い払い、新たな村人を迎えることができたんだから。
「ははは! 村長、あんた最高だよ!」
ご機嫌なファンガ、俺の背中をバシバシ叩く。本気じゃないだろうが、テンションが上がりすぎて手加減がうまくできていない。
「痛、痛いですって!」
「ははは、悪いな! というか、村長、いつまでそんな喋り方なんだよ! ピエールにはもっと砕けてるだろうがよ!」
うーん、絡まれとる。
まるで酔ってるみたいだが、これで酒は一滴も飲んでないはずなんだよなぁ。村ではまだ酒が手に入らないんだから。
「ピエールの場合、出会いが出会いだったんで……」
基本的に仕事仲間には丁寧語がデフォだ。これでもちゃんとした社会人だったからな。
「そういうなら、ファンガさんが口調を改めるべきじゃないですか? ケントさんは我らの偉大な村長様ですよ」
アグリクが冗談めかして言うと、ファンガがバツが悪そうな顔になる。
「あー……そうだよなぁ。俺ぁ、そういうのが苦手なんで、ついついおざなりにしちまうが」
「いやいや、いいって。アグリクも冗談で言ってるんだし。あの言葉使いは癖みたいなものでね。まぁ、これからは気をつけるよ」
丁寧語をあえて止めて、答えるとファンガは破顔して、また背中を叩く。
「おお、そうそう! それな感じでいいんだよ! あ、いや、いいですってよ?」
「なんか変だぞ。無理するな」
「マジか! くっそー」
悔しがるファンガを見て、みんなで笑う。
そうだな。このくらい軽い感じがちょうどいいのかもしれないな。この世界と地球とじゃ、人との付き合いかたも接し方も違う。バカ丁寧な話し方はかえって、距離を感じさせていたのかもしれない。
「今度はこっちの実!」
「ピコちゃん、危ないよ。私がとってあげるから」
「ありがとう、リコ!」
ピコは新たに加わった住人にスキルの実を配っているようだ。リコ、アム、ルオもそれに加わって、とても賑やかだ。最初は戸惑っていた新たな住人たちの顔にも次第に笑顔が浮かびはじめる。
歓迎会というほど大げさじゃないが、宴会みたいなものだ。食事の大半をスキルの実に頼っているので、料理のバリエーションも少ないが、それでもできる限りのごちそうが並んでいる。香草焼きなんかは俺から見てもうまそうだ。まぁ、それをがっついているのは主にノアやタイガなので、なんともはやと言った感じだが。
その光景を見て、作戦がうまくいってよかったと心から思う。ぶっつけ本番だったので、少々不安だったが、蓋を開けてみれば思った以上の成果だった。
傭兵たちにはしっかりと恐怖を刻みつけられたはずだ。あれなら、二度とこの森に入ろうとは思わないだろう。さらに、今回のことを人に話してくれればありがたい。死招きの森の化物の噂が広まれば、それだけこの村の安全性が上がる。場合によっては、積極的にこちらから噂を流すことも考えたほうがいいかもしれない。
「ケント、ご飯!」
「僕たち、いっぱい働いたよ!」
先々のことを考えていると、妖精たちがワイワイと飛んできた。今回の作戦のために増員したので全員いるなら二十人のはずだ。その彼らが口々に働いたアピールをする。実際、作戦の成功は彼らの頑張りがあってこそだ。
「わかってるよ。今日の成功は妖精君たちのおかげだよ。好きなだけ食べてくれ」
「いいの!」
「わーい!」
「いただきま~す」
普段は一食につきスキルの実三つまでという制限をつけているが、今日ばかりは自由に食べさせてやろう。まぁ、二十人もいれば、村中のスキルの実を食べ尽くされてしまいそうだが、明日になれば新しい実ができている……はずだ。
傭兵たちを脅すために用意した化物の正体。あれは巨大なハリボテだ。適当な骨組みに、俺が雑草加工術で作った大きな布を被せて、それを妖精たちが念動で動かしたのだ。近くでよく観察すれば見破られただろうけど、夕暮れ時の視界の悪さもあって、傭兵たちには正体が、見抜けなかったようだ。
演出にも気合を入れたからな。パニックになったあいつらに、化物をよく観察するような余裕はなかったのだろう。
まず、化物が歩いているかのように見せかけるためドシンドシンと音を出す。これは俺がSE魔法で対応した。このSE魔法、出せる効果音が複数用意されているようで、「てってれ〜」以外にも音が出せたのだ。あの足音もそうだし、ケケケという悪魔のような笑い声もそうだ。音だけのコケ威しだが、意外にも役に立ったな。
SE以外にも、化物の移動に合わせて、布の裏で整地魔法を使ったりもした。音と合わせると、木をなぎ倒して進んでいるように見えるってわけだ。
そのためには高速で呪文を唱える必要があったが、これは【早口言葉愛好家】で解決した。ネタスキルっぽい名前だが、これがかなり有用で、反復練習すれば呪文を異常な速さで詠唱できるようになる。これを使って、SEと整地を両立させたわけだ。
そして最後が痛風魔法。大した使い道もないと思っていた魔法が決め手となった。何の前触れもなく突然痛みが襲ってくるのだから、わりと怖い魔法なんだよな、実は。悪魔のような笑い声のあとに、謎の痛みに襲われれば呪いかなと思うよなぁ。
実際、それで心が折れた傭兵もいたようで、逃げもせずに頭を抱えてうずくまってしまった奴もいた。そういう奴がどうなったかは……語るまでもない。俺がどうこう言う前にファンガや他の男たちが始末してしまった。
戦意を失った者を殺す。現代地球の倫理観から言えば、決して褒められた行いではない。正直やりすぎじゃないかという思いもある。だが、これに関して、俺はどうこういうつもりはない。彼らの怒りは彼らにしかわからないのだから。
それに……やはり、必要なことだったのだと思う。逃げ損ねた奴らは、化物を近くで見ている。もしかしたら、何かの弾みにその正体に気づいたかもしれない。そうなれば、今回の作戦の効果が薄れてしまう。安全を確保するためには仕方がないことだったのだ。
よし、落ち込むのはやめだ!
ここは平和な日本じゃない。自分たちの安全は自分たちの力で確保しなきゃならないんだ。だから、戦った。それでいいじゃないか。
「せ、せんぱ〜い! 助けてくださいよー」
気持ちを切り替えて、賑やかな輪の中に飛び込もうかとしたところで、レンが助けを求めて駆け寄ってきた。それを追ってピエールもやってくる。両手にスキルの実を抱えて。
「おやおや、おかしなことを言いますね。私はただエルフの食事について詳しく聞きたいだけだというのに!」
「もう話したじゃないですか!」
ピエールは美食に目覚めたらしく、食に関する知識を収集することに余念がない。今日はレンに白羽の矢が立ったようだ。あまりのしつこさに辟易して、逃げてきたらしい。
「まぁ、その辺にしとけ、ピエール。どの道、今の村では手に入らないものばかりだぞ。聞くだけで、食べられないんだ。つらいぞ?」
「ぬ……それは、たしかに。では、村長。すぐにでも、交易をはじめましょう! まずはレン殿のツテでエルフたちと」
「いやいや。ユーリッドはやめといたほうがいいと思うよ」
めげないピエールからは交易を提案される。レンはエルフとの取引はありえないと考えているようだが、交易自体は悪くないのかもしれないな。
「あ、そういえば、先輩! 村に名前はつけないんですか?」
レンがいきなり、そんなことを言い出した。だが、そうだな。交易をするなら、名前はあったほうがいいかもしれない。
「おお、名前か、いいじゃねぇか!」
「名前! ピコ、考える!」
話を聞きつけたファンガとピコも寄ってくる。ピコはうーんと考えたあと、顔を輝かせて手をあげる。
「考えた! ケント凄い村!」
それは……村の名前なのか?
純粋に俺を褒めてくれてるんだと思うが、流石にそれは勘弁して欲しい。
「ははは! いい名前じゃないか!」
ファンガが悪ノリで同意してくる。
おい、やめろ。交易のたびに“ケント凄い村からの来ました”じゃ、俺が痛い奴だろうが。
「ピコには悪いが、ケントはなしの方向で頼む」
「うな!?」
ガーンとショックを受けた顔のピコには悪いが、そこは譲れない。
「それじゃあ、アラヤ村はどうです?」
次の提案はレンだ。名前は駄目だからって、苗字からとったな。まぁ、ケント凄い村よりはマシだが。
「アラヤ? どういう意味だ」
「意味というか、先輩の家名ですよ。村人は全員家族。だから、アラヤ一家のアラヤ村です」
ファンガに聞かれたレンが得意げに答える。
「家族か。へへ、そりゃいいな」
「家族! ピコも家族、いいと思う!」
「えへへ、そうでしょ。これで、僕もピコちゃんと家族だね」
「レンは子分!」
「なんで!?」
村人は全員家族。その言葉が多くの住人の琴線に触れたのか、反対意見を表明する暇もなく。村の名前は“アラヤ村”に決まってしまった。
アラヤ一家ねぇ。なんだかマフィアみたいな名前じゃないか? でも、家族みたいな関係性というのは、悪くないんじゃないかな。
うん、悪くない。
“『死招きの森』に新勢力『アラヤ一家』が誕生しました”
ここまで長いプロローグ?
ようやくゲームに参戦できます。
とはいえ、まだまだ戦える力はないので戦争は避ける方針で。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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