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第29話 俺に考えがあります

 塩の柱までの道も整備して、ようやく開拓作業はひと段落。次は、冬に向けての備えを本格化させようかと考えていると、いつかのように妖精が慌てた様子で飛んできた。


「ケント、また、たくさん人を見つけたよ」


 以前、同じような報告を受けたのはこちらも慌てたものだが、今回は心当たりがある。なので慌てることなく、妖精から話を聞き出していく。


「その中に知ってる人はいた?」

「いた! ホーンがいたよ!」


 よしよし。それなら、問題ないな。


 ホーンは村の住人で、最初に難民としてやってきた獣人の男性だ。彼は、離散した集落の生き残りを探すために村を離れていた。その彼が戻ってきたからには、無事生き残りに出会えたのだろう。


「村長、ホーンのやつが帰ってくるのか!」


 村の広場――オリジナルのスキルツリーの近くで報告を受けていたので、話を聞きつけたファンガが話に入ってくる。そのデカい声がさらに他の村人の耳に入り、続々と人が集まっていく。


 まぁ、隠すような情報じゃないし、ちょうどいいか。


「らしいですよ。妖精君、他の人たちはどんな人? ピコと同じ耳?」

「そうだよ! ピコとかファンガと同じ!」


 妖精の言葉に「おお!」という歓声が上がった。集落の生き残りがいたのだと思ったのだろう。住人たちの顔に笑顔が浮かぶ。


「村に、また、人増える?」


 ピコにとってもそれは喜ばしいことのようだ。ワクワクした顔で尋ねてきた。


「たぶんな」


 頭を撫でながら答えると、ピコは目を細めて耳をピコピコ揺らした。


「それなら迎えを出したほうがいいですね」

「ああ、そうだな。村長、いいか?」

「もちろんですよ」


 レンの指摘を受けて、ファンガが聞いてくる。もちろん断る理由はない。


 ホーンは体格もよくて、村人の中では戦えるほうらしいが、一人で森を踏破できるほどじゃない。難民に戦える人がいたとしても全員ではないだろう。非戦闘員を守りながら森を進むのは無謀だ。


 ファンガたちは村の近くまで来ていたが、あれは運が良かったか……あまり考えたくはないが女神の加護なのかもしれない。ともかく、今回も幸運が続くとは限らないので、できる対応はすべきだ。


「あ、待って! まだだよ。えっと、ね。連絡があるんだよ!」


 早速、出迎えの人員を手配しようとするファンガの先に回りこむ形で妖精が止める。その必死さにファンガもすぐに止めた。


「連絡?」

「そう! ホーンが言ってたよ。尾行がいるから、合流は諦めるって!」


 お祝いムードが一気に緊迫したものへと変わった。住人たちの顔色は青ざめ、ファンガも表情を険しくする。


「尾行……ハリム王国のやつらか!」

「妖精君。尾行してる人間を見たか?」

「見てないよ。でも、ホーンは傭兵だろうって」


 傭兵か。正規兵ではないようだが、それでも今の雇い主はハリム王国なんだろうな。


「どういう状況だと思いますか?」


 俺の問いに、ファンガは吐き捨てるように言った。


「おおかた、小遣い稼ぎの奴隷狩りだろうよ! くそったれが!」


 ハリム王国はファンガたちアルムス部族を襲撃するとともに、獣人に人権を認めないという布告を出したらしい。これはつまり奴隷として売り払っても咎めをうけないことだ。


 おそらく、ホーンが接触した一団はどこかの傭兵団に目をつけられていたのだろう。捕まえて、奴隷と売り払うために。


「では、尾行されているのは?」

「たぶん、この村に誘っているところを偶然聞きつけたんだろう。それで、欲を出したんだ」


 ホーンたちをつけて、この村にたどり着けば、得られる奴隷が増える。そのために今は泳がせておこうということか。ホーンもそう判断したからこそ、合流を断念したのだろう。


「でも、それじゃあ、その人たちは……」


 レンがうつむく。


 そうだな。合流をとりやめたところで、傭兵たちが奴隷狩りを諦めるわけではない。痺れを切らした傭兵たちに捕まるか、それとも森の魔物に襲われるか。いずれにせよ、明るい未来はないだろう。


「村長、すまん。あんたに仕える気でいたが、ホーンたちを放っておけねぇ。他のやつらのことを頼む」

「ファンガ! 俺も行くぜ!」

「ああ! ハリムのやつらに好きにさせてたまるか!」


 ファンガの言葉に、数名の男たちが気勢を上げた。仲間の危機が迫っているのだ。放っておけない気持ちは俺にもわかる。


 追われている獣人たちにも子どもがいることだろう。それが、ピコなら。そんな想像をしただけで胸が痛い。


 それにホーンは村の一員だ。名ばかりの村長とはいえ、そんな彼を見捨てることはできない。


 争いは嫌いだ。戦争なんて、できればやりたくはない。しかし、降りかかる火の粉は払わなければならないというのもまた事実。でなければ、蹂躙されるだけだ。そんなことは――決して許容できない。


「ファンガ、傭兵なんですよね。だったら、数もそう多くないはず。みなで戦えば勝てませんか」

「そうだぜ、ファンガ!」

「やってやろうぜ!」

「お、俺もやるぞ」


 俺が戦いを口にしたことで、他の住人も勢いづいた。威勢の良いことを言うのは主に男だが、女たちの目にも決意が宿る。


「ふふふ、私もおりますよ。我々を受け入れてくださった方々のためにも微力を尽くしましょう」

「ぼ、僕もやりますよ! 戦争は嫌いですけど……それでも村を守るためなら!」


 ピエールに続き、レンまでもが参戦を表明する。


 流れは戦いに傾いた。しかし、その熱狂をファンガがきっぱりと切って捨てる。


「駄目だ。戦いにはしない。俺はホーンたちと一緒に捕まるつもりだ」

「ファンガ!?」


 悲鳴のようなどよめきが上がる。俺もその意図を図りかねていた。ファンガのことだから、傭兵たちと戦うために村を離れるといい出したのかと思ったんだが。


「どういうことですか?」

「戦ったところで、未来はないってことだ。ハリム王国は近々、隣国に仕掛けるつもりらしい。貴重な戦力が消えれば、その原因は調べるはずだ。傭兵とはいえな」


 俺は傭兵なら行方をくらましたところで気にしないのではないかと思ったが、ファンガはそうならないと見ているようだ。たしかに、ハリム王国がさらなる戦争をしかけるつもりなら、そうなるかもしれない。足元の不安要素はできるだけ排除しておきたいだろうからな。


 傭兵を撃退すれば、それがきっかけでハリムの正規兵が出てくるかもしれない。ファンガはそれを危惧しているようだ。


「いいか、よく聞け。この村は俺たちの希望だ。やつらに知られるわけにはいかねぇ。だから、俺だけで行く。これでもちっとは知られた名だ。俺を捕らえたなら、奴らもきっと満足するだろうさ」


 捕まるまえにひと暴れくらいはするつもりだろう。それでも、この村を守るため、ファンガはあえて奴隷狩りに捕まる気でいるのだ。


 話を聞いた獣人たちは意気消沈してしまった。戦って勝っても未来はない。希望は潰えてしまうと説かれてしまったのだから無理はない。


 だが――本当にそれでいいのか。


 たしかに俺は先々の見通しが甘かった。ファンガの危惧はもっともだ。しかし、未来を守るためにファンガたちが犠牲になる。そのことが正しいとは思えない。


 いや、たとえ正しかったとしても俺が認められない。


 村が賑やかになって、ピコも毎日笑顔で楽しそうだ。だが、そんなことになればピコの笑顔は曇ってしまうだろう。かけがえのない平和……それを乱す敵を許しておけるはずがない。


 だが、俺たちに平和を守るための力がないのは事実だ。戦力が違いすぎる。ハリム王国と戦いになれば、たちどころに敗れてしまうだろう。


 だが、それでも。

 諦めるわけにはいかない。


 緊迫した雰囲気が怖いのか、ピコが俺の足にすがりついていた。その頭にポンと手を置いて撫でてやる。


「大丈夫だよ、ピコ」

「ケント?」

「大丈夫。また、みんなで、笑顔で暮らせるから」

 

 特に根拠もない言葉だが、ピコはそれを聞いてわずかに笑顔を浮かべた。しかし、普段の笑顔にはまだ足りない。やはり、この件をなんとかしなくてはな。ピコにはピカピカの笑顔がよく似合うから。


「俺に考えがあります」


 さて、うまくいけばいいんだが。


---

妖精 種族:働き妖精

支援ユニットとして、主に内政の補助を担うお助けキャラ。スキルの実を一日十個消費する大食らい。でも、実はこれでも食料消費はマシなほう。その他の食料なら大人20〜30人分はペロリと平らげる。食べるアイテムのレア度や品質をエネルギーに変換している妖精にとって、スキルの実は効率の良い高栄養食なのである。エネルギーに変換している関係上、実を食べてもスキルを得られない。(基本的には)

ユニット性能はこんな感じ。


戦闘: 0 統率:10

知略:10 工作:80

話術:10 商才:10

儀礼:10 食欲:100


支援ユニットという制約上、戦闘はできない。が、現実となった今は「あっちの方向に丸太を投げて」などの指示で強引に戦わせることができる。とはいえ、融通は利かず、逐一指示する必要があるので、将兵というよりは兵器のような運用になる。

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