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第28話 あわがぷかぷか

 あのあと、子どもたちも無事【弱点克服(味覚)】を習得することができた。味覚が一変したことで、ピエールほどではないが、みんな感動していたようだ。懸念がなくなったことで、村で受け入れることも正式に決まった。子どもが多いが、リコと同じか、それより上だ。本人たちのやる気もあるので、農業や家づくりの手伝いとして働いてもらっている。


 で、ピエールはというと、彼らを村に迎えたことを大層感謝して俺に仕えると言い出した。今のところ断ってるんだが、しつこく申し出てくるので困っている。しかも、コイツ、飯時を狙ってやってくるんだよな。


「素晴らしい! 素晴らしいですな、このハーブというものは! 見事に肉の味を引き立てていますよ!」

「頼むから、もう少し声のトーンを抑えてくれ」

「これは失礼!!」


 いや、わかってないだろ。返事すらうるせぇ!


「にゃー」

「わかってる。おい、ピエール。今のところ、俺に直接仕えたって仕事がない。村を助けてやってくれ」


 ノアさんにどうにかしろと言われたので、遠回しに帰れと言ったら、いつの間にか完食していたピエールがナプキンようなもので口を拭ってから頷く。


「そういうことであれば仕方がありません。ですが、私はあきらめませんよ。またいずれ、昼時にやってきます!」

「来るな!」


 本当に飯時を狙ってやがるな!


 ちなみに、今のやり取りからわかる通り、ピエールは日中でも平気で動き回る。やはりヴァンパイアとは別物らしい。コウモリに変身したり、無限の再生能力があったりもしないようだ。


 ただ、身体能力はかなり高い。体格の良い獣人とすらっとしたピエールが腕力勝負で互角だったので驚きだ。見た目よりもずっと強いらしい。


「そういえば、ピエールのことで何か言ってなかったか。災厄の……なんだったか」


 ふと思い出して、話を振ってみると、レンは軽く笑って首を振った。


「災厄の復讐者ですよ。でも、もう必要ない気がします。もともと大した情報はなかったですから」


 まぁ、たしかに、今のピエールは復讐者って感じじゃない。先のことはわからないが……とりあえず飯を食わせておけば闇落ちはしないだろ、たぶん。


「ん? なんだ?」

「流石は先輩だなぁと思いまして!」


 何故かレンがニヤニヤしていたので聞いてみたら、そんな返答。


 なんだ、それは。褒められるようなことは何かしたか?


「えへへ、ケントはすごい!」

「ふふん、だ。そんなことは僕のほうが知ってるんだからね!」

「ピコ! ピコのほうが知ってる!」


 ピコも便乗して俺を褒めはじめて、よくわからない言い争いに発展しているが……まぁ、いつものことかと放っておく。別に仲が悪いわけではない。ちょっとしたじゃれ合いだしな。


「にぃ」

「お、フラン。どうしたんだ?」

「にぃ。に」


 珍しくフランが寄ってきた。そして、前脚で扉のほうを指すと、そのまま家の外へ。


「ついてこいってことか?」

「そう!」

「何でしょうね?」


 いつの間にか、じゃれ合いをやめていたピコとレンを連れてフランのあとを追う。ゴールはすぐそこで、フランはオリジナルのスキルツリーの前で俺たちを待っていた。


「にぃ」


 フランがスキルツリーを見上げる。


「あの実、見ろって」

「はぁ。見るって、鑑定のことか?」

「かんてい!」


 よくわからないが、ピコの通訳に従ってフランが見てる辺りのスキルの実を鑑定してみると……おっ!


「石鹸魔法だ」

「せっけん! あわだ!」


 石鹸と聞いてピコが万歳のポーズで飛び跳ねる。あいかわらず、ピコの中では泡遊びがブームみたいだ。


「フランが教えてくれようとしていたのは、これか。でも、どうやってわかったんだ?」

「にぃ」

「フラン、実、わかるようなったって!」

「マジか!」


 いつの間にか、フランは実の鑑定ができるようになっていたらしい。


 これは地味に助かるな。最近は人が増えて、やることも増えた。そのせいで、実の鑑定にまで手が回っていなかったのだ。


 鑑定にもマナは必要となる。あるかどうかわからない当たりスキルを探すよりも、整地や飲み水の確保のマナを使ったほうが優先順位は高いからな。


 しかし、フランが手伝ってくれるなら、もう少し有益スキルの発見率が高まるかもしれない。まぁ、結局はスキルツリーの気まぐれに左右されるので過度の期待はできないが。


 それにしても……猫が鑑定?


「フラン。お前、字が読めるのか?」

「にぃ?」


 この反応……どうやら、ピンときてないな。文字とは別の形で結果を把握してるのかもしれない。謎だ。


 まぁ、細かいことはいいか。フランにもスキルの実が鑑定できるようになった。その事実が重要だ。


「ケント、あわ! ピコ、あわ、使う! 約束!」

「ああ、そうだな」


 石鹸魔法の実があれば、ピコに渡すという約束をしていたんだよな。覚えていたみたいだ。


 欲しがってるし、すぐに渡してもいいんだが……石鹸魔法はできれば増やしたいんだよな。


 以前は三人だったこの拠点も今では四十人くらいが暮らしている。人が増えたことで心配なのが病気だ。石鹸での手洗いは、感染症のリスクを低減できるはず。できれば、住人全員が石鹸魔法を使えるようにしておきたい。


 となれば、まずはピコの説得が必要だ。まぁ、問題ない。ピコなら喜んで協力してくれるだろう。


「ピコ、泡はちょっとだけ待ってくれないか。石鹸魔法は増やしてみんなで使おう」

「みんな? リコも?」

「そうだ」

「アムとルオも?」

「そう、みんなだ。そのほうが楽しそうじゃないか?」

「たくさん、楽しい!」


 ニコニコ笑って、ピコが頷く。やっぱり、みんなで遊んだほうが楽しいよな。


 やることは簡単だ。【石鹸魔法】の実がついた枝をカットして、それを接木するだけ。接木でできたスキルツリーは実のスキルが固定化されるが、このとき実つきの枝を穂木とすると、固定化されるスキルをコントロールできるのだ。ちなみに、二つ以上残した場合、どちらかに固定される。なので、基本的には一つだけ残すのがいいみたいだ。


「これでよし。明日にはみんなで泡が使えるようになるぞ」

「うな! 楽しみ!」




 次の日。接木した木は無事にスキルツリーとなり、【石鹸魔法】の実をつけた。他の実で検証済みとはいえ、ピコとの約束を破らずにすんでホッとした。


 そのピコは、朝から村の子どもたちに声をかけて回ったらしく、古代種の子たちも含めた全員がこの場に揃っている。


「あわの実、食べていい?」

「ああ、いいぞ」

「うな! リコも食べる!」

「うん。じゃあ、いただきます!」


 さて、感染症対策は大事だが、子どもたちにとっては遊びも大事。とはいえ、村を泡だらけにされては困る。というわけで、ちょっとした遊び道具も用意してある。


「ほら、みんな石鹸魔法を使うと、こんなこともできるぞ」


 用意したのは、小さな桶と持ち手がついた木の輪っかだ。石鹸と水を桶に入れてシャボン液を作り、輪っかを液によくなじませる。そっと輪っかを吹くと……ふわりとシャボン玉が浮いた。


「わぁ!」

「あわがぷかぷか!」

「おもしろーい!」


 流石はシャボン玉、子どもたちの食いつきがいいな。


「ピコもやりたい!」

「いいぞ。道具はいくつかあるから、交代でやりな」

「うな!? 割れちゃった……」

「強く吹きすぎだ。もっと優しく吹くんだよ」


 最初はうまく作れなかった子どもたちも、だんだん慣れてきて、村にいくつものシャボン玉が浮かんだ。


 まだまだ足りないものだらけのこの村だけど、こんなふうに平和に暮らせるってだけで幸せなんだろうな。


 これから先、世界はきっと戦乱期に突入するはずだ。それでも、この村だけは戦争とは無縁に暮らしていけたらと切に願う。


 だが、同時に。きっとそうはいかないのだろうという予感が、胸中で渦巻いていた。

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