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第26話 石室で眠る人々

 簡易の梯子をかけて、穴を慎重に下りていく。床についてから、上から落としてもらった松明に火をつける。


「ニャ!」

「うぉ!? 居たのか」

「にゃー」


 どうやら、タイガとノアも近くにいたらしい。大きな声を出してしまったせいで、ノアが呆れたように俺を見ている。居るのはわかってただろってことだろうが、それでもいきなりはビックリするんだよ。


「わ、なんですか、ここ。やっぱり、お墓?」


 遅れて下りてきたレンが驚きの声を上げた。俺も周囲を見回して、同じ感想を持った。


 石室は想像していたほど広くはなかった。松明の明かりで、部屋の端をギリギリ照らせるくらいの広さだ。


 俺たちが下りてきた梯子付近は、石室の端だったらしく、何もない。だが、逆側、石室の奥にはいくつかの石の箱のようなものがあった。さらに、その周辺には雑多にいろいろなものが置いてある。金属製のものもあるようで、剣や鎧などが松明の明かりを反射してきらめいていた。他にも装飾品の類があるようだ。


 石室に、意味ありげな石の箱。その周りには副葬品のような品々。どう見ても有力者の墓だろ、こんなの。


「にゃー」


 怖気づく俺たちを急かすようにノアが鳴く。


「……行くか」

「そ、そうですね」


 覚悟を決めて、奥へと進む。そして、恐る恐る石室を覗くとそこには――


「これは……!」

「な、何ですか! ミイラですか! ひぃ!」


 あ、レンのやつ、目を閉じてやがる!


「そうじゃない。人だ。ちゃんと見てみろ」

「なんだ、驚かさないでくださいよ……」

「ニャア?」


 レンが馬鹿やったせいで、タイガにまで呆れられたじゃないか。いや、あれは初めから人だって言ってるだろうってことか?


 石の箱に横たわっているのは、言ってしまえばオッサンだった。しかし、とんでもなく美形の。やたらごてごてとした装飾の服を着ているので身分は高そうだ。ただし、ピクリとも動かない。


「い、生きてるんですか?」

「にゃー」

「みたいだぞ」


 ノアさんがそう言ってる……気がする。


 とりあえず、イケオジは放置して、他の箱を覗いていく。


「こっちも人か……」


 全部の箱に人が横たわっていて、イケオジを含めて七人が石室に眠っていた。イケオジなのは一人であとは、少年少女といった年頃だ。


「これ……あれじゃないですよね? 偉い人を埋葬するときに召使いとかも一緒に埋めるとかの」

「にゃー!」

「わ、わかってます! 生きてるんですよね!」


 レンが余計なことを言って、ノアに怒られている。実は俺も同じことを思ったんだが、黙っておこう。


「しかし……どういう状況なんだ、これ」


 土の下で眠るイケオジと少年少女。しかも、これだけ騒がしくしても目覚めもしない。普通じゃないのは明らかだ。


「あれ? よく見ると、この人、どこかで見たような……」


 レンがオッサンの顔をまじまじと見て呟く。俺も改めて見てみるが……少なくとも俺は知らないな。


「どこで見たんだ」

「たぶん、クロニクル・オブ・ロードだとは思います。でも、うーん?」


 レンが唸る。しかし、なかなか思い出せないようだ。しばらくして駄目だと首を振った。


「あと少し、ここまで出かかってるんですけど」

「クロニクル・オブ・ロードで見たってことは英雄キャラか?」

「ですかねぇ」


 レンはまだ首を捻っている。まぁ、土の中で眠っていたなんて素性の英雄がいれば、記憶に残っていそうだものな。


「にゃー」


 で、どうするんだといいたげに、ノアが鳴く。どうするったって……どうしたものかな。


 流石に放置はできない。が、自力で動いてもらわなければ、運び出すのも困難だ。出入り口は狭いし、梯子での昇り降りもあるからな。


「とりあえず、起こしてみるか。ノアとタイガは警戒しておいてくれ」

「にゃ」

「ニャア!」


 二匹の返事を待って、石の箱に眠るイケオジの肩をトントンと叩く。しかし、いくらやっても反応はなし。


「……本当に生きてるんだよな?」

「にゃ」

「いやまぁ、たしかに」


 よく見れば、微かに胸が上下している。呼吸はしているようだ。しかし、これだけ揺すっても起きないのは異常だぞ。


 レンと手分けして、他の子たちを揺すってみたが結果は同じ。誰もが深い眠りに囚われているようだ。


「仕方がない。おーい、妖精君!」

「な〜に?」


 穴の下まで戻って呼びかけると、すぐに妖精がふよふよ下りてきた。


「村長、大丈夫なのか!」


 ついでにファンガの声がする。おっと、まずは報告すべきだったな。


「危険はないです。ノアの言った通り、人がいるんですけど、眠ったまま目を覚ましません。なので妖精に運んでもらおうかと」

「おお、そうか! わかった!」


 これで、上での対応はファンガがやってくれるだろう。


「人を運ぶの?」

「そう。石の箱に寝ている人たちだよ。壁にぶつけないように慎重にね」

「わかった!」


 念動で運べば抱える必要はない。狭い出入り口でもどうにか通せるだろう。実際、少年少女は問題なく通せた。イケオジだけは無理やり通した感はあるが、それでも寝たままだから、問題はないはずだ。たぶん。


「これは、どうするんですか?」


 レンが指摘したのは副葬品……ではなくて、石の箱に置いてあった品々だ。たぶん、イケオジたちの所持品なんだと思うが。


「あとで妖精に運んでもらおう。別に急ぐ必要はないし」

「それもそうですね」


 盗みを働くような人間もいないからな。ひとまず放置することにしよう。まずは人優先だ。


 続いて、俺とレンも石室から脱出する。


「先輩、上を見たら駄目ですからね」

「わかってるよ。なんだったら俺が先に登るぞ」

「それはそれで怖いからいやです」


 なんて、わがままなやつなんだ。しかし、レンを相手にこんな会話をすることになるなんて思わなかったな。


 レンが登り終えた次は俺の番だ。


「にゃ」

「ニャー」

「お、重い……!」


 梯子に手をかけようとしたら、ノアとタイガが俺の肩に飛び乗った。梯子の使えないから、仕方がないんだが、重い。


「にゃあにゃ」

「ニャニャ」


 鍛え方が足りないって、言いたげだな。運んでもらっているくせに、文句が多いぞ。


 地上に戻ると、石の箱に寝ていた人たちが地面に寝かされていた。それを見下していたファンガがこちらを見て、感心とも呆れともつかない口調で言う。


「本当に寝たままなんだな」

「やっぱりですか」

「あと妙に色白だ。普人なんだよな?」


 普人というのは種族名で、地球でいうところの亜人ではない普通の人のことをそう呼んでいるらしい。


 たしかに、身体的特徴は普人に近い。だが、どうだろう。暗い石室、しかも松明で照らしていたのでわからなかったが、病的なほどに白い肌をしている。


「レンはどう思う?」


 少しだけ。ほんの少しだけ嫌な予感がして、レンに話を振ってみたのだが――


「そうなんじゃないですかね?」


 レンは特に何も感じなかったらしく、キョトンとしてる。


 うーん。石室で眠る白い肌のイケオジ。俺はどうしてもヴァンパイアをイメージするんだが、レンは違ったようだ。


 でも、そうだな。クロニクル・オブ・ロードについてはレンのほうが詳しい。そのレンが普人というのなら、きっとそうなんだろう。


 それに、ヴァンパイアなら太陽が弱点のはず。こうして太陽の下で寝かされて無事でいるとは思えない。やはり、ただの思い過ごしだろう。


 石室に眠っていた理由はよくわからない。だが、このままにしてはおけないということで、妖精の助けを借りて、眠ったままの七人を村へと運んだ。


 そして、その夜――――事件は起きた。

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