第25話 謎の石室
会議の方針に従って、森を開拓していく。川があるのは拠点の西側。まずはそちらに向かって道を伸ばす。
開拓とは本来なら地道な作業だ。木を切り倒して、根を取り除く。この根を抜く作業が重労働で時間がかかる……らしい。
だが、俺の場合、整地魔法で一発だ。効果的に使えば、数本の木が一気に抜ける。抜けた木は妖精に頼めば村まで運んでもらえるので、木材も手に入って一石二鳥だ。
作業途中でうれしい発見もあった。なんと、使用できる魔法の回数が増えている。魔法の効果は変化しないが、マナの効率はよくなっていくらしい。あるいは、俺自身のマナが増えたか。いずれにせよ、以前に比べると体調不良となるまでに使える回数は倍近くになっている。これによって作業効率がかなりあがった。
だいたい三十回くらい整地魔法を使って休憩。これを十回くらい繰り返したところで、手近な木を接木でスキルツリーにする。これを延々と繰り返すこと八日、ようやく川についた。
というわけで、お次は塩の柱方面の開拓だ。塩の柱があるのは村の北側なので、そちらに向かって同じ作業を繰り返す。
単調な作業に変化が訪れたのは七日目のことだ。
「これでよし。それじゃ、妖精君、頼むよ」
「村に運ぶんだよね! わかった!」
何度も頼んでいるので妖精も慣れたものだ。念動の力でひょいっと木を持ち上げ、それを村まで運んでいく。
食料の不安がなくなったので、妖精は十人まで増やしている。おかげで、代わる代わるやってきては木材を運んでくれるので、作業が止まることはない。
「草はピコの仕事!」
「ああ、ありがとうな」
「どーいたしまして!」
妖精に負けじと、ピコが抜けた草を拾い集める。他にもリコ、アム、ルオが楽しそうに笑いながら、拾った草を袋に詰めていく。袋は俺が雑草加工術で作ったものだ。
この開拓隊には他にレン、ファンガ、ノアたち猫四匹がいる。レンはアドバイザー、他は護衛役だ。
「あれ? 先輩、なんか穴がありますよ」
さて、次のエリアの整地をはじめようかというところで、レンが俺を呼んだ。穴ってなんだと思いながら、そちらを見ると、たしかにぽっかりと穴が開いている。ちょうど木の影にあったのが、整地魔法によって露わになったようだ。
中は思ったよりも広い。入口から差し込む光だけでは全貌がわからなかった。
「穴だな」
そうとしか言いようがない。護衛としてついてきていたファンガが同じように穴を覗き込む。
「こりゃ広いな。この先まで広がってるとなると、危ないかもしれん」
「あー。そうかもしれませんね。整地で木の根がなくなりますから」
ファンガの危惧にレンが同調する。
今は木の根が支えになっている。整地魔法によってその支えがなくなると崩落の危険があるのでは、ということらしい。
「安全を考えるなら埋めるべきか?」
うっかり踏み抜いて奈落に真っ逆さまとなるのは勘弁願いたい。事前に埋めておけば、その心配はなくなるはずだ。
「だったら、その前に中を探検してみましょうよ!」
「探検! ピコもやる!」
レンが楽しげに提案すると、ピコも目をキラキラさせて同意した。ルオもそわそわしている。一方で、リコとアムはあまり興味がなさそうだな。
ううむ、探検か。安全第一に、とは思うが探検という響きにはロマンがある。俺自身、少し気になるからな。
「ファンガはどう思います?」
「潰すにしろ、まずは簡単に調査したほうがいいだろうな。場合によっては迂回したほうがいいかもしれん」
なるほど、そりゃそうだ。
まずは、ここから内部の様子を探ってみよう。穴の周辺の土を崩していくと、人がギリギリ通れるぐらいには広がった。だが、角度の問題で太陽の光があまり届かない。内部の様子を探るには明かりが不十分だった。
「うなー、まっくら」
「俺の目でも、よく見えねぇな」
獣人は比較的夜目が利くらしいのだが、ピコやファンガでも中の様子がわからない。そこで、即席の松明を作ることにした。
「では、今回は松明を作っていきます」
「ます!」
「では、助手のピコさん。雑草の袋を持ってきてください」
「うな!」
「いったい何がはじまったんだよ……」
戸惑うファンガはスルーだが、答えるなら茶番だろうか。まぁ、そんなに長くはかからないのでお付き合いください。
さて、材料は木の枝と雑草。以上です。
まずは雑草加工術で布を作ります。それをその辺の木の枝にぐるりと巻き付けましょう。準備が終わったら油を確保します。これも雑草加工術があればOK。ある種の雑草は油を含んでいるので、雑草加工術でしぼり取りましょう。しぼった油は布に染み込ませます。十分に油が染みたら準備完了ですね。
「かんせー!」
「はい、ありがとう」
あとは、着火魔法で火をつければよし。即席なので質はよくないが、短い間なら役目を果たしてくれるだろう。
「これは……石室か?」
松明に照らされた壁面はゴツゴツしていて、思ったよりも頑丈そうだ。壁面は平らで明らかに人の手が入っている。天然の洞窟ではなさそうだ。
明かりの届く範囲に目立ったものはない。そして、やはりそこそこの広さはありそうだ。
「ニャア!」
「あっ、おい!」
一旦、俺が顔を引き上げたタイミングで入れ替わるようにタイガが穴に飛び込んだ。続いてノアも。人にはギリギリの大きさでも、猫ならスルリと通り抜けられるようだ。
「何をやってるんだ! 危ないぞ!」
「にゃー! にゃ!」
穴に向かって呼びかけると、ノアから返事があった。少し慌てた様子だ。
「ピコ」
「中に人いる、て!」
「えぇ?」
ピコの翻訳を聞いて、思わずレンやファンガと顔を見合わせる。
「こんな森の中で、人?」
「村人じゃないですよね」
「危険なのは子どもでもわかってる。勝手に出歩くとは思えねぇよ」
俺を含めて誰も、何故穴の中に人がいるのか推測が立てられない。そもそもいつからいるのか。果たして、本当にそれは人なのか。ノアを疑うわけではないが、猫なので俺たちとは判断基準が異なる可能性がある。
謎だらけだが、とりあえず正体不明ながら中に人がいると考えて行動することにした。人が出入りするには、穴が小さすぎるので、もう少し広げなくてはならないだろう。
「あ、妖精君。村からスコップを持ってきてくれないかな」
ちょうど良いところに妖精が戻ってきたので、お使いを頼む。さらに、ファンガが言葉を重ねた。
「ついでにカペタと何人かにこっちに来るように言ってくれ。さっさとやっちまおう」
「わかった!」
村まではそこそこ距離があるが、整地によって歩きやすくなっているので、それほど待つことなくカペタたちがやってきた。全員で協力して……と言っても実働はほとんど妖精が念動の力でガシガシ土を掘っていく。カペタは指示役だな。
「こりゃ駄目だ。これ以上掘れねぇな」
しばらく掘っていると、カペタが音を上げた。それも無理はない話で、周囲一帯が石室に覆われているらしい。何らかの拍子でその石壁にズレが生じ、そこだけぽっかり穴が空いているようだ。
「村長どうするんだ? これじゃ俺は入れねぇぞ」
ファンガが困ったように言う。
多少穴は広がったが、体格の良い獣人男性が潜れるほどではない。レンなら通れるだろうが、俺はギリギリってところだろう。
「にゃ! にゃー!」
「ノア、危険がないって。さっさと来い、言ってるよ。ピコ、行こうか?」
いかん。ノアさんがご立腹だ。そして、ピコがそわそわして、中に入りたそうな気配を滲ませている。ここは覚悟を決めるべきか。
「いや、俺が行くよ。レンもついてきてくれ」
「は、はい! あの……幽霊とか出ませんよね?」
探索には前向きだったはずだが、穴掘りの間に意見が変わったらしい。レンは少し怖気づいているようだ。
まぁ、何となく気持ちはわかる。明らかに、人工物だが、最近の出入りはおそらくない。それが、墓をイメージさせるんだよな。ピラミッドとか古墳とか、そんな感じだ。
とはいえ、ノアならミイラと人の区別はつくだろう。やはり行って確認するしかない。




