第24話 大中小の聖樹
勢力コマンドにアクセスできること自体は大したメリットじゃない。アクセスできるのは俺一人なので影響は限定的。そもそも妖精召喚しかできないので、あちこちでアクセスできたところであまり意味はない。
だが、スキルツリー……というか、ホームオブジェクトの恩恵はそれだけじゃない。一番ありがたいのが、魔物避けの効果だ。スキルツリーを接木によって増やせば、安全なエリアが増やせるメリットは計り知れない。
「まだ、魔物避けの恩恵まで引き継いでるとは限りませんけどね」
「そうだな。検証は必要か。アグリクも手伝ってください」
「検証とやらはよくわかりませんが、手伝いくらいならお安い御用ですよ」
慎重論を唱えるレンに頷いて、アグリクにも協力を呼びかける。まずはスキルツリーを増やす、そのうえで効果を判断しようとなった。
そして、数日。かなりの回数、接木したことで見えてきたことがある。
例えば、スキルツリーのランク。
一本のスキルツリーになるスキルの実はすべて同じ品質なので、これを便宜的にランクと呼ぶ。S品質の実をつける木がSランクというわけだ。
オリジナルのスキルツリーがランクS。その枝を接木してできたスキルツリーはランクAになる。ランクAの枝を接木した木もスキルツリーになるが、ランクBだ。と、このように接木を繰り返していくと、ランクが落ちていくようだ。ランクを維持するなら、オリジナルの枝を使う必要がある。
さらに、スキルツリーと呼べるのはランクBまで。ランクCになるともはやスキルツリーとは呼べない。なぜなら、実を鑑定したら、こんな結果が出た。
◆ただの木の実◆
品質:C
どこにでもありそうなただの木の実。特別な力はない
品質Bまではちゃんとスキルの実で、スキルの習得率にはあまり関係がなさそうだ。少なくとも鑑定のテキストで判断すれば。
ちなみに味は、品質の影響を受ける。品質AはSと遜色ないレベルだが、Bはオリジナルを知っていれば物足りなく感じる。Cまでいくとまぁ普通って感じだ。それでも全然食べれるが、品質A、Bの実がいくらでも増やせる状況では、あえて品質Cのものを食べたいとは思えないな。
ホームオブジェクトとしての性質だが、おそらくスキルツリーであるランクBまでは維持されている。少なくとも、勢力コマンドへのアクセスはできたし、木のそばでマナ回復の効率が上がることは確認済みだ。魔物避けに関してははっきりとした形で効果を確認できていない。だが、拠点近辺で危険生物の数が減ったとノアたちが言っているので、おそらく効果はある。
この結果を受けて、俺たちは方針会議を開くことにした。参加者は村長の俺、クロニクル・オブ・ロード有識者としてレン、獣人のリーダー役のファンガ、農業の専門家としてアグリク、ご意見番のノアだ。あとは傍聴者が多数。なにしろ、拠点のど真ん中でやってるので。興味を持った村人が次々集まってくる。まぁ、いいんだけど。
「さて、スキルツリーが増やせることがわかりました。経緯は……まぁ必要ありませんか」
俺の言葉に傍聴者のほとんどが頷く。
まぁ、実なしの木が次の日にはたわわに実をつける怪現象だ。小さな村だから噂はあっという間に広がる。
せっかく人が集まっているので、検証結果まで知らせておくか。カペタやその手伝いの数名が不在だが、ここにいる誰かがあとで伝えてくれるだろう。
「ははぁ、なるほど。つまり、小聖樹には新たな聖樹を生み出す力はないってことだな」
「今のところはそうだなぁ。これから成長したらどうかはわからないが」
ファンガとアグリクが中心になって、スキルツリーの情報をまとめていく。どうやら噛み砕いて話すことで、傍聴者の村人の理解を助けているようだ。その過程でランクSのオリジナルスキルツリーを大聖樹、Bを小聖樹と呼ぶ流れになった。まぁ、その辺は好きに呼んで欲しい。
「というわけで食料の心配はなくなりました。そのうえで、さらにスキルツリーを増やすというのが今日の議題です」
参加者の顔を見ながら会議の趣旨を説明する。最初に口を開いたのはレンだ。
「ガンガン増やしたほうがいいと思います! スキルツリーが増えるほど良スキルが手に入る可能性が高まるんですから!」
「にゃー」
「ノア、同じ!」
鼻息荒く主張するレンにノアが賛成する。ちなみに翻訳はピコだ。
この意見はわかりやすい。接木によってできたスキルツリーは取得できるスキルが固定化される。もし良スキルの実がなるスキルツリーを生み出すことができれば、生活が楽になること間違いなしだ。今のところ【早口言葉愛好家】とか【にんじん大好き】とかわけのわからないスキルばかりだが、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるわけで。とにかく試行回数を増やして良スキルをゲットしたいというのがレンとノアの主張だ。
それに対して慎重論を唱えるのがアグリク。
「聖樹のことはまだよくわかりませんからなぁ。無闇に増やさず、まずは様子見るのが良いと思いますよ」
増やしすぎれば弊害が起きる可能性がある。たとえば、肥料的な問題。不思議パワーで実をつけるスキルツリーだが、何もないところから生み出していると考えるのは早計だ。たとえば、大気中のマナを吸収している可能性もある。その場合、密集して植えると、マナが十分に行き渡らず、すべて枯れてしまうかもしれない。そんな懸念を伝えられれば、なるほどと唸らざるを得ない。
「俺も増やしすぎるのは反対だ。魔物の生息域が一気に減ると何が起こるかわからねぇ」
ファンガは少し違った角度から危険を説いた。
スキルツリーの魔物避けによって、生活圏を拡大する。それは一見、安全に寄与するように思えるが、一概にはそうとも言えない。住む場所を奪われた魔物がどんな行動に出るかわからないからだ。魔物避けはあくまで魔物避け。侵入を完全に拒んでくれる保証はない。これもまたもっともな意見だ。
「それにな。死招きの森はある意味で防壁なんだよ。外敵をある程度森が防いでくれるだろ」
ファンガがニヤッと笑った。単なる笑顔なのかもしれないが、何ともいえない凄みがある。
だが、その言葉には一理ある。この世界はウォーゲームの舞台だ。これから先、戦乱が加速する可能性は高い。それらから身を守る盾とするなら、“死招き”の異名が示す通り、危険な森であったままのほうが都合がいい。
他の獣人も深く頷いている。ハリム王国ではひどい目にあったらしいので、外とは関わりたくないという気持ちが強いのだろう。
「なるほどね。北にも厄介な国があるからなぁ。森が防波堤になってくれるなら、そのほうがいいね」
レンが納得したようにうんうんと頷くが、周囲の空気は微妙だ。まぁ、その反応も無理はない。その北の国というのが『ユークリッド聖樹国』というエルフの国なのだから。
そういえば、レンが何故ここにいるか、獣人たちにはちゃんと説明していなかったな。説明すればレンの態度にも納得するのだろうが……これほど舎弟感に溢れたやつが元女王だと言って信じてもらえるだろうか。
うん、話がややこしくなりそうだ。後日にしよう。
「アグリクやファンガの言う通り、無闇に増やすべきではなさそうですね」
俺がまとめると、参加者全員が頷く。ノアは少し不服げだったが、安全には代えられないと理解しているようだ。やはり賢い。
さらなる話し合いの結果、川や塩の柱がある場所に至る道を整備し、その途中に何箇所かスキルツリーを作ることになった。これは避難所的な意味合いで、魔物に襲われそうになったらそこに逃げ込むということを想定している。また、枝を奪われても問題ないように、ここに配置するスキルツリーは小聖樹とした。将来的に人が訪れる可能性は皆無ではない。その際、枝を奪われて、スキルツリーを他で作られないための措置だ。
あとは、拠点周辺から少し離れた場所でスキルツリーを増やす。これは実験場のようなもので、密集して増やす弊害を調べたり、スキルの固定化について調べることになっている。まぁ、こちらは急ぎではないのでぼちぼちやるつもりだ。
ともかく、接木でスキルツリーが増やせるとわかった。これによって、村の生活レベルと安全性は向上することだろう。できれば、このまま平和に暮らせればいいんだけどな。




