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第23話 木なので増えますが何か?

 流石に何の知識もなしに接木はできない。まずは、知識があるであろう人物を当たってみることにした。


「お父さん」

「どうした、リコ。おや、村長さんも」


 その人物こそ、アグリク。リコの父親だ。


 アグリクはファンガ以上の巨体で、隻眼のため眼帯もしている。そのせいで、歴戦の傭兵か盗賊の親玉かという風体なのだが、これで実は単なる農民なのだ。左目を失ったのも農作業中の事故で、戦いはからっきしらしい。もっとも自己申告なので真偽の程は不明だ。それはともかく、村の農業的指導者なので接木のことを詳しく知っているとしたら彼しかいない。


「――というわけで、スキルツリーを接木で増やせないか試してみたいんですよ」

「聖樹をですか。それは畏れ多いというか……そんなことをしてバチが当たりませんかねぇ?」


 ううむ。子どもと違って、信仰心めいたものがあるためか、抵抗があるようだ。話を聞いたアグリクは難色を示した。


 まぁ、本当に女神から授かったものなら、俺もここまで思い切れなかったかもしれないな。しかし、実際はフィクスがよこしたものだ。特殊な力はあるが、神聖なものではない。


 ここは強引に押し切ることにしよう。


「大丈夫ですよ。人々のためになるのなら、この木を授けてくださった方もお許しになると思います」


 知らんけど。まぁ、フィクスなら気にしなさそうではある。そうじゃなきゃ、候補者を人違いで選定したり、そのまま強行したりしないだろう。


「まぁ、村長さんがそういうなら構いませんがね。ただ、接木をするには少し時期が遅いと思いますよ」

「そうなんですか?」

「ええ。まぁ、普通は春頃にやりますなぁ」


 春か。それなら確かに時期外れだ。でも、次の春じゃ遅いんだよなぁ。


「スキルツリーは特殊な木ですから、何とかならないですかね。有り余る生命力とかでうまい具合に」


 ボンヤリとした理由で説得にかかる。ただ、生命力に関しては根拠がない話ではない。毎日数十の実をつけるなんて普通ではないし、そばでじっとしていれば傷の治りが早いのも溢れる生命力を取り込んでいるのだと言えばそれっぽく聞こえる。そんな感じで丸め込めば、アグリクも何となくできそうな気がしてきたのか、「ではやってみましょう」と納得してくれた。


「台木はどうしましょうかね。一から育てるなら、若木がいいんですが」

「それだと成長するまで時間がかかりますよね?」

「そりゃもちろん。成木に継いだほうが、実は早くつきますね」

「じゃあ、今回はそれで」

「わかりました」


 何だかよくわからないが、いろいろやり方があるみたいだ。流石は農業の専門家だ。頼りになるぜ!


「では、穂木――増やす木の枝を用意します。聖樹から枝をとることになりますが、本当にいいんですね?」

「はい、大丈夫です」


 アグリクはまだ少し抵抗があるみたいだな。こういうときは曖昧な態度を見せず、きっぱりと言い切るのが大事だ。自信満々にしていれば、指示に従う側も無闇に不安にならずにすむ。


「芽をつけた若い枝がいいんですが」

「この辺りですかね?」

「ああ、そうですね。良さそうです」


 こうしてじっと見て初めて気がついたが、スキルツリーにも新芽が生えていた。実をつけるだけじゃなく、成長もしているようだ。


「この枝を接ぎます。台木は……あの辺りにしましょうか」

「そうですね」


 スキルツリー周辺は整地済みなので、他に木は生えていない。なので、森との境界にある木に枝を接ぐことにした。枝をスコーンと切って、その断面に切り口を入れる。そして、この切り口にスキルツリーの枝を突っ込むらしい。うまくいけば枝が馴染んで、実をつけるようになるとのこと。


 アグリクの指導のもと、俺も作業を手伝った。一応、俺には【農家の心得】というスキルがあるので、多少は成功率が上がるのではと期待している。まぁ、気休め程度だろうが。


「これで、実がなる?」

「さぁ、どうかねぇ。儂も聖樹のことはよくわかりませんわ」


 ワクワクと尋ねるピコに、わははと笑いながら返すアグリク。まぁ、実際のところ、うまくいけば儲けものってくらいの試みだ。これくらいの軽さのほうが、頼んだこちらとしても気が楽ではある。


「実がつくといいね」

「たくさんなったら、たくさん食べられる?」

「もっとたくさん食べたい!」

「おいおい。お前たちは十分にもらってるだろう? すみませんね、村長さん」

「いやいや。子どもたちが思う存分食べられるようになればいいですね」


 接木した枝を見て、みんなでまだできていないスキルの実に思いを馳せる。さて、うまく育ってくれればいいんだけど。


 と、その日は、和やかに終わったのだが――


「そ、村長さん! 村長さん大変です!」


 大声と扉を叩く音で目が覚めた。隣でレンも跳ね起きる。ピコはいない。先に起きて出かけているらしい。


「な、何事ですか!?」

「わからん!」


 答えると同時に、扉が開いた。開けたのはピコだ。遅れて、大声の主と思しきアグリクも飛び込んできた。


 アグリクはかなり動揺しているようだが、ピコはニコニコしている。対照的な二人に首を傾げていると、ピコが万歳のポーズでぴょんぴょん跳ねた。


「ケント、凄い! うまい実、増えたよ!」

「スキルの実のことか? 昨日の今日で流石にそれは……」

「それが本当なんですよ! とにかく来てください!」


 ピコはともかく、アグリクがぐいぐい迫ってくるとかなりの圧迫感がある。強面もあいまって脅されているような気分だ。


「わ、わかった。すぐ行くよ」


 落ち着かせるためにも素直に従うことにした。レンと顔を見合わせて、家を出る。


「は、え?」

「なんでスキルツリーが増えてるんです!?」


 そして、二人で驚くことになった。だって、スキルツリーが増えてるんだから、仕方がない。確認のために拠点の中心部に視線をやると、そこにもちゃんとスキルツリーが生えていた。やはり、増えている。


「これ、昨日の木ですか?」

「間違いないです。昨日の段階ではまだ普通の木だったんですが、朝起きたらこの有様で」


 アグリクに確認するが、昨日接木した木に間違いないらしい。けれど、今となってはその面影はない。試験的な意味合いもあって、接木した枝は数本だったにもかかわらず、木全体にスキルの実がなっているのだ。完全にスキルツリーに乗っ取られている。


「先輩! 実はどうなってるんです?」

「あ、そうだな。鑑定してみよう」


◆スキルの実◆

品質:A

スキル【弱点克服(味覚)】を習得できる特殊な木の実


「お、おお。品質が少し落ちてるが、間違いなくスキルの実だ」

「それって、とんでもないことでは!」

「だ、だよなぁ」


 そりゃ増やせればいいなぁとは思った。しかし、翌日に、元のスキルツリーと変わらないレベルで実をつけるなんて予想できるわけない。


 食料問題なんてこれで一気に片付くぞ。一本で足りなければ、もう一本増やせばいいんだから。


「あれ?」

「どうしたんです?」

「いや、スキルの実がどれも同じだ」


 鑑定を続けて気づいたんだが、新たなスキルツリーから得られるスキルがすべて【弱点克服(味覚)】だった。どうやら、接木した場合、得られるスキルが固定化されるらしい。


「微妙だなぁ……」

「でも、うまくいけば、有用なスキルが量産できるってことですよ!」


 レンの言う通りではある。しかし、運良く有用なスキルが当たる可能性はどの程度あるだろうか。外れ率の高さから言って、とんでもない試行回数が必要な気がする。


 まぁ、それでも、懸案だった食料問題が解決したのは朗報だ。腹を満たすだけなら、スキルが外れでも関係ないからな。


 実際、ピコやリコが木の周りできゃっきゃと喜んでいる。こういう姿を見ると嬉しくなるな。


「先輩。まだ確認すべきことがありますよ」


 レンが神妙な顔を作って言う。


「何の話だ?」

「ホームオブジェクトですよ! この木がその性質を引き継いでるか気になりませんか?」

「流石に、それはないんじゃないか?」

「まぁまぁ。試すだけならタダですから」

「そりゃそうだ」


 言う通りなので、駄目元で試してみる。木に触れて勢力コマンドの呼び出しを念じると――――当たり前のように透過スクリーンが目の前に現れた。


 え、マジ?

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