第117話 得体の知れない連中
誤魔化すのは難しくない。こちらには先日の戦いでとった捕虜がいる。彼らから得た情報と主張すれば、不審には思うまい。
だが、ここは警戒を解くよりも、探りにいくべきだろう。
「お前たちのボスだって知っているんだ。俺が知っていてもおかしくはないだろう?」
露骨に“プレイヤー”だとは言わないが、暗にボスと同じ立場だと仄めかす。ボルヴァスにどこまで情報共有されているかわからないが、何か知っていれば何らかの反応があるだろう。その反応を見逃さないようにしなければ。
だが、ボルヴァスの反応は予想と違っていた。最初は訝しげな表情をしていたが、突如弾かれたように顔を上げ、睨みつけてくる。
「そういうことか! さては、お前は奴らの仲間だな!」
「ふふふ」
とりあえず、含み笑いで誤魔化したが……奴らって誰だ?
まったく心当たりはない。レンに意見を聞きたいが、この場でそんなことをすれば、相手に情報を与えてしまう。どうにか誤魔化しつつ、情報を引き出さなければ。
「さて、何のことかな?」
「はぐらかしても無駄だ。そもそも、他種族を嫌うエルフがお前たちを受け入れていることがまずおかしい。つまり、それを認めさせるほどの貢献があったということだろう?」
なるほど。事実とはまるで違うが、おかしな推論ではないな。
「……それで?」
「それで、ではない! どういうつもりだ! 貴様らはドラクハイムに勝利をもたらす策があると言って近づいてきた。だが、現実はどうだ? こうしてユーリッドにも手を伸ばしている! 何が狙いだ!」
ボルヴァスは怒気を隠すことなく、俺を糾弾する。どうやら、俺たちをドラクハイムに接触する何者かの仲間だと思い込んでいるようだ。思わせぶりな言動でそうなるように誘導したが、それにしてもここまでうまくいくとはな。
ボルヴァスは銃の知識に関して過敏に反応している。これまでの言動から考えると、銃は王ではなく“奴ら”からもたらされたのだろう。だからこそ、同じ知識を持つ俺をその仲間と判断したというわけだ。
そうなると、接触した謎の組織のリーダーは“プレイヤー”である可能性が高いな。逆にドラクハイム王はどうだろうか。非“プレイヤー”の元首が“プレイヤー”に操られているのか、それとも“プレイヤー”同士で手を組んだのか。いずれにしても厄介だな。
できれば、ボルヴァスの言う“奴ら”の正体が知りたいところだ。しかし、正面から尋ねるのはおかしいよな。俺たちが“奴ら”の仲間だと思っているからこそぺらぺら喋ってくれているのだ。勘違いしたままでいてくれたほうが都合がいい。
レンに視線を送ると、微かに首を揺らした。さて、意図は伝わったな?
「何か誤解があるようだな」
「誤解だと!? ふざけるな!」
「もういい。まともに喋る気がないなら——」
「待ちなさい!」
尋問を打ち切ろうとしたところで、レンが割って入った。よしよし、ちゃんと狙いは伝わっているようだ。
「何でしょうか」
「先程の話を詳しく聞いておくべきでしょう」
「あのような戯言に耳を貸す必要は——」
「それを判断するのは私です。あなたを疑うわけではありませんが、敵側の思考を読むために主張を知っておくことは悪いことではないでしょう?」
「……わかりました」
渋々といった体で引き下がる。ここからはレンにバトンタッチだ。
俺の意見が退けられるのを見て、ボルヴァスはニヤリと笑った。
「賢明な判断だな」
「あなたの意見を鵜呑みにするわけでもありませんよ」
「それは勝手にすれば良い。俺は真実を語るまでだ」
ボルヴァスは誘導されていることに気づいていないようだ。これなら、うまく情報を引き出せるだろう。
「先程の口振りから、あの銃という兵器はドラクハイムで開発されたものではないようですね」
「それは違う。設計思想は奴らがもたらしたが、それを武器として実現させたのは我らの技術があってこそだ」
「そうですか。ですが、それは今、どうでもいいことです。ともかく、外部からの協力があったわけですね」
「そうだ。奴らは自らをアムフェリクスと名乗っている」
ボルヴァスが窺うように俺に視線を向ける。だが、当然ながら俺に心当たりはない。動揺することなく見返すと、ボルヴァスは忌々しげに舌打ちをした。だが、すぐにニタリと笑う。
「ククク……大した胆力だが、部下も同じようにはいかないようだな?」
何の話だと思いながらも、奴の視線を追うと、そちらには顔色を変えたローニーたちがいた。正確にはルーマを除く三人だ。顔に浮かぶのは驚きと戸惑い。図星を突かれたというよりは、困惑しているように見える。しかし、“アムフェリクス”について何かは知っていそうな雰囲気だ。あとで問い質す必要はあるな。
「……何の話だ?」
「ほぅ。部下を切り捨てるか」
愉快そうに笑うボルヴァスに、レンが冷たく言い放つ。
「それよりも、続きを」
「クク……そうだな、話の途中だった」
笑みを引っ込めて、真顔でボルヴァスが続ける。
「我々も得体の知れぬ者を軽々しく信用することはない。だが、奴らの知識はあまりに有用だったのだ」
国内の問題の解決策。さらには他国の情報。特にユーリッド聖樹国の情報は詳細に伝えられた。女王リーレンの不在と森の中の拠点の位置。その重要性は言うまでもなく、丁寧な調査で、いくつかについては事実であると裏が取れた。結果として、ドラクハイム王はアムフェリクスを重用するようになったらしい。
そして、戦争がはじまる。エルフの軍を軽々と撃退したことで、アムフェリクスがもたらした情報と武器の有用性は証明された。その勢いに乗って、ここユーリッドまで攻め上がってきたということらしい。
話を聞く感じ、ドラクハイムは非“プレイヤー”で、踊らされているだけに思えるな。問題はアムフェリクスのリーダーだ。いったい、何が目的でドラクハイムをけしかけてきたのか。




