第116話 貴重な情報源
ゾルに続いて、ピエールとルーマも敵兵を縛り上げて戻ってきた。狙撃部隊は、狙撃手一人に護衛の銃兵が十人という構成だったらしい。そのうち、生き残ったのは狙撃手を含む九人だ。
「ほとんどルーマ殿が倒されたので、私の出る幕はありませんでしたな」
「僕も!」
「活躍を奪って、すまない。思ったよりも脆かったのでな……」
「全然大丈夫だよ!」
「私も手間が省けて助かったくらいです」
ルーマが申し訳なさげに頭を下げる。が、戦うこと自体にそこまで興味がないゾルとピエールは軽く受け流した。
「終わったんですか?」
セルヴァンの様子を見ていたレンもこちらにやってきた。先程よりも顔色はいい。あちらも深刻な状況ではなさそうだな。
「たぶんな。セルヴァンの傷はどうだ?」
「もう大丈夫だと思います。本人も魔法は必要ないと言っているので、このまま経過を見ることにしようかと」
「そうか」
頷きながら、セルヴァンに視線を向ける。たしかに、意識はしっかりしていそうだ。取り巻きたちに緊迫した様子もないので、本当に心配はいらなそうだ。
こうして見ると、スキルツリーの回復効果も大概だな。スキルツリーで囲んだ陣地で戦えば、不死身の軍団ができるかもしれない。まぁ、効果範囲は狭めだし、即死だと助からないから、無敵とはいかないんだろうが。
「それなら尋問に付き合ってくれ」
「わかりました」
すでに先日捕らえたドラクハイム兵からは聞き取りを行ったが、ろくな情報はなかった。彼らの口から出るのは王を称える言葉ばかりで、銃につながる情報どころか“プレイヤー”だという確証すら得られていない。口を割らないというよりは、おそらく本当に知らないのだろう。下っ端兵には情報が渡されていないのだと思う。隊長格なら別かもしれないが、運が悪いことに生き残りの中にはいなかった。
というわけで、今回捕まえた兵たちには期待している。特に、狙撃手は精鋭だ。何か知っているかもしれない。
「うぐぐ……!」
「ケント、大丈夫?」
「大丈夫だ!」
自分の背丈ほどある塹壕なので、這い出すだけで一苦労だ。まぁ、俺以上はレンも含めて、余裕で飛び出して行くんだけどな。身体能力の差が如実に現れている。これでも地球にいた頃よりは鍛えられてるはずなんだが。
捕虜たちは、すぐそばの地面に転がされていた。ほとんどはロープで縛られているだけだが、一人だけ地面に埋まっている。おそらくピエールあたりが、種蒔魔法を使ったのだろうが。
「ああ、あれですか。他の兵と違って手強かったので、逃げ出せないようにしています」
目が合ったピエールから解説が入る。なんでも、他の兵はルーマが一撃で沈めていったが、唯一あの兵だけはそれなりに抵抗したらしい。もっとも、すぐにゾルとピエールが合流したので、長くは持たなかったが。
「うむ。手傷を負いながらそれだからな。万全の状態ならもっと苦労したかもしれない」
ルーマも敵兵の強さを称える。どうやら、あの兵は狙撃手らしい。ウェルの矢で傷を受けた状態で戦ったようだ。狙撃の専門家というわけではなく、近接戦闘もかなりのものだという。まぁ、当然か。ゲームには銃なんてなかったらしいから、開発されたのはここ最近だ。それまでは別の兵科だったのだろう。
「お前は、リーレン!」
そのとき、レンの存在に気づいた狙撃手が声を上げる。
「くそ、あの者さえ邪魔しなければ今頃は仕留められていたものを!」
どうやら、狙撃手はレンのことを知っているようだ。最初に狙ったのも偶然ではないだろう。
「“プレイヤー”か?」
「いえ……少なくともドラクハイムの元首ではないですね。グドヴァインはもっとひげもじゃです……」
こっそりと尋ねると、レンは微かに首を振る。そのあと、じっと狙撃手を見つめて、「あっ」と声を漏らした。
「たぶん、あれはボルヴァスですね」
ボルヴァスはドラクハイムの第一王子で、本来は戦斧を振り回して戦う英雄キャラなのだとか。そういうことなら、手負いの状態でルーマと渡り合ったのも納得である。
まぁ、こうなってしまえば戦闘能力は関係ない。それよりも重要なのは、その立場だ。王子なら、重要な情報も把握しているだろう。できれば、穏便に聞き出したいところだが、さて。
「やぁ、ボルヴァス王子。調子はどうかな?」
ひとまず、お前のことは知っているぞという意味を込めて、名前を呼んでみる。ボルヴァスは一瞬黙り込んだあと不敵に笑った。
「ほう、私のことを知っているのか。ならば、このような扱いは控えよ。無礼であるぞ」
「それはそちらの出方次第だな。今すぐ兵を引き上げるというなら、丁重にもてなしても構わないが」
「どうやら現実が見えていないようだな。ユーリッドはすでに陥落寸前だ。こちらの被害を抑えるため、まずは邪魔者を排除しようと動いたが、そんなことをせずとも力攻めで落とせるのだ。貴様らを見たであろう、我らの新兵器を!」
ニヤリと笑って、ドラクハイムの優位を説くボルヴァス。自らの命より勝利を重んじているのか、その声には微塵の動揺もない。
実際、ボルヴァスが人質として機能しないなら、その通りの結末を迎える可能性が高い。だが、そんなことを素直に認めてしまっては交渉にならないので、ハッタリで乗り切る。
「新兵器とはあの銃のことか? あれは大した威力ではないだろ。整備性も悪そうだ。あの程度なら、こちらの脅威にはならないな」
「……なぜ、その名を知っている?」
銃など脅威ではないと告げると、ボルヴァスは初めて警戒するようにこちらに問うてきた。しかし、注目したのは内容とは別のところだ。
名前を知っているからと言って何だというのか。あ、いや、そうか。銃は今までにない新兵器、これまでは名前すらなかったわけだ。なので、新兵器の名を「銃」と呼んだ俺を警戒しているらしい。




