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第115話 ケントの気づき

 射撃間隔から判断すれば、狙撃手は一人だ。しかし、おそらく護衛はいるだろう。そいつらが銃を持っている可能性を考えると、迂闊に近づくのは危険だ。


 やはり、ここはピエールに出張ってもらうのが無難か? だが、正確な位置が特定できていないんだよな。この状況での単独行動は危険だ。


 しかし、ゾルならどうだ? 銃弾を受けたが普通にピンピンしていた。囮になってもらえれば、敵の位置をあぶりだすことはできそうだが。


 反撃の策を考えていると、すすすとウェルが寄ってきた。


「ん? どうした?」

「困ってるなら私が倒そうか」

「え?」


 囁くような声で提案されたが……これって狙撃手を倒すって意味でいいのか?


 聞き返しても反応はない。ただ表情に乏しい顔で俺を見返してくるだけだ。どうしろと。


「はいはい。通訳するわよ」


 ローニーが間に入ってくれたことで、ようやくスムーズに意思疎通が図れるようになった。先程の言葉は『狙撃手を倒せる』という意味で間違いではなかったらしい。


「どうやって、倒すつもりだ?」

「弓で」

「弓? だが、敵の姿も見えないような距離だぞ。そもそも敵の潜伏ポイントもわからないだろ?」

「そんなことはない。動いていなければ、当てられる」

「ウェルは目がいいのよ」


 レンが狙撃された瞬間に、ウェルはおおむね狙撃手の場所を特定したらしい。そして、俺が撃たれた二射目でほぼ正確に居場所を掴んだ。反撃しなかったのは、直後に俺が煙幕を焚いたからとのこと。戦闘を避ける動きだったので、攻撃を控えたらしい。まぁ、命じていないことを勝手にされると困ることもあるだろうから、それは良いのだが。


「だが、届くのか?」

「問題ない」

「ウェルの腕前は保証するわ。腕前を過剰に誇るような子じゃないから、できると言ったらできるわよ」


 弓で狙える距離ではないと思うのだが、ウェルは命中させる自信があるらしい。ローニーもその実力を信頼しているようだ。


 弓で射るだけなら、失敗しても被害はないか。ここは任せてみよう。


「だったら、頼む」

「わかった」


 ウェルがこくりと頷く。そこにラピードが待ったをかける。普段はほとんど喋らないラピードにしては珍しい。


「動揺した隙をつけ」

「動揺? いったい何の話だ?」


 端的というか、前後関係を省略しすぎだ。喋ったと思ったらこれである。


 どういう意味だと聞き返すと、ラピードは少し考えるような仕草を見せたあと、ローニーに視線を向けた。


「任せた」

「あー、もう!」


 うーん、苦労しているな。


 ローニーの翻訳でラピードの意図を聞いたところ、おそらく存在するであろう敵の護衛への対処としてアドバイスをくれたようだ。ウェルの矢が狙撃手に命中すれば敵は動揺する。潜伏した護衛たちの注意がそちらに逸れるだろうとラピードは読んだらしい。その隙をつけば、距離を詰められる。そうなれば敵が銃を持っていても関係ない。一気に制圧してしまえということらしい。


「では、突撃するのが私の役割だな。任せておけ。そういうのは得意だ」


 最後にルーマが請け負う。銃の威力については知っているはずだが、それでも躊躇はないらしい。仲間を信頼しているのか、ただ思い切りがいいだけなのか。いずれにせよ、思ったよりもバランスの良い四人組なのかもしれない。まとめ役のローニーの負担が大きそうだが。


「ゾル、ピエール。二人もルーマと一緒に護衛兵の制圧にまわってくれ」

「いいよ!」

「わかりました」


 作戦は決まったので、あとは実行するだけだ。


「ルイ、イザベラ。煙幕を——」

「このままでいい。風の強さがわかっていい」


 煙幕魔法を止めるように指示しようとしたら、ウェルに止められてしまった。どうやら、このまま矢を射るつもりらしい。


 本気か? たしかに、煙のたなびき方で風の強さはわかるが、標的は見えないんだが。って、しかも塹壕の中から射るのか!?


 驚いている間に、ウェルは矢を番えて——放つ。矢は煙の向こうに飛んでいく。


 というか、このままじゃ矢が当たったかどうかわからなくないか?


「では、参る!」


 しかし、ルーマは構わず塹壕を飛び出して行った。ゾルとピエールもすぐにあとに続く。


 おいおい、大丈夫なのか。もし、狙撃手が移動していたらどうするんだ。


「大丈夫よ。撃たれる方向がわかっていれば、ルーマならそうそう当たらないわ。ピエールさんなら尚更でしょう」


 ハラハラする俺を見かねたのか、ローニーがひらひらと手を振る。


 いや、銃だぞと思うが……まぁ、こっちの英雄も大概だからなと思い直す。一般人と一部の超人との能力差が激しすぎるんだよな。たしかに、ピエールなら正面からの銃弾くらい軽々躱しそうだ。ルーマも相当な実力者らしいので、心配するだけ無駄か。


 しばらくして、何度かタァンと銃声が聞こえた。が、それもすぐに止む。


「ケント、終わったよー」


 鋼鉄ボディの妖精が、意外と軽快な動きで飛んで来て、結果を知らせてくれる。


「そうか。怪我人は?」

「いないよー。ルーマが張り切ってて出番がなかったー」

「そ、そうか」


 終わってみれば、あっさりとした決着だった。銃兵を相手にこうも圧勝とは……ひょっとして、うちの戦力は異常なのでは?

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