表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

111/119

第111話 本当に聖樹だった件について

 静かな怒声があるとすれば、こういうことを言うのだろう。


「お前たちは…‥いったい、何をしている……!」


 怒りをにじませつつ、それでもギリギリのところで冷静さを保とうとして失敗している。そんな声だ。視線を向けると想像通りの人物が立っていた。セルヴァンだ。


 先日と同じく多数の取り巻きを連れている。が、取り巻きたちの表情は冴えない。ナーヴェルをはじめとして、ほとんどが何度もエルフ植えを体験しているので、あの日ほど強気に出られないようだ。それでも、セルヴァンの手前、言葉だけは勇ましかったりもするのだが。


 用件はわかっている。“最初に話を聞いてやる”と言い放たれて以降、俺たちはセルヴァンを無視して、こちらの用事を済ませていたからな。むしろ、ようやくきたかとさえ思う。俺がユーリッドを訪れたのは一昨日なので、丸二日くらい待ちぼうけだったはずだ。意外と辛抱強いヤツなのかもしれんな。もちろん冗談だが。


 大方、俺……というかレンの方から訪ねさせて自らの優位を示したいとか、そんな思惑があったのだろう。華麗にスルーしてしまったので、むしろ面子を潰す結果になってしまったが。


「何って、俺たちの目的は伝えただろう。移住者を募っているんだ」


 別に移住ではなく、一時避難でもいい。ここを離れたいと望む者に手を差し伸べているところだ。


 ドラクハイムの侵攻によって、ユーリッドは滅亡の危機にある。ここからの挽回はかなり厳しいだろう。


 特に、あの銃が厄介だ。たぶん、性能は地球の最新式に比べれば数段落ちるのだろうが、それでも鉄鎧を貫通する威力は驚異的だ。接収した銃は統一規格で作られており、量産化が進んでいるように見える。あれの集中砲火を浴びれば、重装歩兵とてひとたまりもない。


「くっ……! だから、その話を聞いてやろうと言ったのだろうが!」

「いや、別に聞いてもらう必要はないしな。女王の許可ならすでにとっているからな」


 お前に用はないと告げてやると、セルヴァンがギリリと歯を鳴らした。目を釣り上げて、リーレンを睨みつける。


「リーレン様! 何をしているかご自覚はおありか? 民の力を束ね、ドラクハイムの魔手を跳ね除けなければならないこのときに、結束を乱すような真似をして……あなたに国を守る意思はないのか!」

「それは、あなたが言うの? まぁ、いいでしょう。もちろん、私は国を守りたい」

「でしたら……!」

「だからこそ、民を逃がすのですよ。守るべきは土地ではなく、民です」


 リーレンが淡々と諭すように告げると、セルヴァンは忌々しげな表情を浮かべた。軽く頭を振り、反論する。


「流石はリーレン様。ご立派な考えです。しかし、民は納得しますかな? 確かに命は大事でしょう。ですが、同じくらい我々には失いがたいものがある」


 セルヴァンが大仰な仕草で両手を掲げた。その表情は一転して、勝ち誇ったような顔だ。


「そう、聖樹です! この地を失えば、我々は聖樹を失うことになる! そのようなこと、耐えられるわけがない! 我々は何があっても、この地を守らなければならないのですよ!」


 なるほど。それがセルヴァンの余裕の根拠か。自らが追い出した女王が帰還し、移住を呼びかけるという状況にもかかわらず、妙に焦りがないと思っていたのだ。エルフが世界樹を捨て、他の地に移るなどありえない。そうである以上、民を守るためにリーレンは戦争に協力せざるをえないというわけだ。


 エルフたちにとって、世界樹はかけがえのない、それこそ命を賭しても守りたいものなんだろう。実際、レンに協力的なアルネイさえ、移住には難色を示していた。セルヴァンの思惑が的外れだったとは思えない。


 だが——


「移住はともかく、一時避難に関しては受け入れられているが?」

「なんだと!?」


 事実を告げてやると、セルヴァンがくわっと目を見開いた。


「馬鹿な! 我々エルフは聖樹から離れると根源的な不安を覚える。それがなぜ!」

「それはケント様が、聖樹を生み出す力を持っているからです」

「聖樹を生み出すだと!?」


 レンの言葉に、セルヴァンが激昂する。しかし、レンはセルヴァンの怒りを静かに受け流して、ある一点を指さした。そこには、俺が設置したスキルツリーがある。


「あれを見なさい」

「……!」


 セルヴァンの表情が変わった。驚きと戸惑いに染まり、すでに怒りは見えない。


「我々の聖樹とは似ても似つかない。しかし、これは……」

「ええ。あなたにもわかるはずです。これが聖樹だと」

「こ、これをあの男が生み出したと?」

「そうです。ケント様は女神からこの力を授かったのです」


 セルヴァンの俺を見る目が侮蔑から畏怖へと変わった。あまりの変わりように、落ち着かない気分になる。


「お、おい、レン。あまり大げさなことは……」

「我慢してください、先輩。説得に時間をかけてる場合じゃないので。それにまるっきり嘘というわけじゃないわけですし」


 こそこそと過大広告に抗議するが、国民の命がかかっていることもあってレンも引かない。俺としても、そう言われると黙るしかない。いかに不本意な肩書きとはいえ、住人の命を犠牲にしてまで払拭したいわけではないのだ。


 しかも、レンの言う通り、まるっきり嘘というわけではない。なんと、スキルツリーは本当に聖樹だったらしい。その事実は、とあるポンコツの供述から明らかになっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ