第110話 ドラクハイム国王グドヴァイン
鍛冶国ドラクハイム 国王グドヴァイン 視点
ユーリッド聖樹国は、我らドラクハイムにとって憎き敵国。長きに渡って戦いを繰り返してきた。といっても、大抵は小競り合いに終わる。奴らには我が誇る鉄壁の城塞を突破するほどの力はない。
まぁ、それは我が国も同じなのだが。奴らの暮らす大森林は、ことごとく我らの進軍を拒んできた。道もなく視界も利かない森の中で、そもそも落とすべき拠点の位置もわからない。攻めるには非常に厄介な地なのだ。
しかし、それも過去のこと。我らには強力な新兵器がある。魔導銃と名付けられたこの武器は弓よりも威力が高く、しかも弓よりも扱いやすく習熟しやすい。射程は一部熟練者が使う弓には勝てないが、平均的には同等以上だ。
我らが来たるべき日のために備えていた。そして、ユーリッドが国境の砦に攻め寄せてきたあの日、用意していた魔導銃で憎きエルフどもを返り討ちにしてやったのだ。
魔導銃の威力に恐れおののいたユーリッド軍が潰走。その隙を逃さず、ドラクハイムのほぼ全軍をもって逆侵攻を行った。魔導銃はあっても、森林地形という不利は変わらないが、それに関しては我らには武器がある。情報という武器がな。
これまで辛酸を舐めさせられてきたのは、奴らの拠点の位置がわからなかったからだ。当てもなく進軍し、予想もしていないところから奇襲を受ける。それが兵らにとって大きな負担となっていた。しかし、拠点の位置さえわかっていれば、効率よく進軍できる。奇襲も予想が立てやすい。こうなれば我が軍に死角はなく、軟弱なエルフどもに負ける理由などなかった。
逆に、奴らは森という環境に守られ、油断しきっていた。砦と呼ぶにはお粗末な防御設備しかなく、そこに籠る兵も少数に過ぎない。いざ攻撃を仕掛ければあっさりと落ちた。
その結果を目の当たりにしたときには、これまでの苦戦はなんだったのかと呆気にとられたが……それだけ、我らの軍が強力になったのだと思えば、気分も悪くない。
その後も破竹の勢いで進軍を続け、ユーリッドの過半を制圧するに至った。奴らとの因縁にも、ついに終止符を打つときがきたのだ。
決戦は湖畔近くとなった。我が軍は湖畔を右手側に、ユーリッドは左側に置く形で睨み合う。森の中なので正確な兵数把握が難しいが、ユーリッド軍も明らかにこれまでよりも兵数が多い。おそらく、全兵力をかき集めてきたのだろう。兵数は五分といったところか。
湖畔によって右手側の視界は開けているが、それでも地形的には我らが圧倒的に不利だ。しかし、ちゃちな弓矢程度では我が軍の誇る重装兵の守りを崩すことなどできない。こちらには魔導銃もある。粘り強く戦えば、最後に勝つのは我らだろう。
だが、戦いに絶対はない。勝ちを確実にすべく、ひとつ策を打った。軽装の魔導銃兵を迂回させ、奴らの首都ユーリッドに攻め込ませたのだ。
エルフは長寿な種族だが、個体数は少ない。この決戦に投入している兵の数から見て、首都の守りはかなり手薄になっているはずだ。首都が落ちれば、ここで戦う兵たちも動揺するだろう。
迂回部隊を出したので、兵数的にはわずかに不利だ。だが、問題はない。我らは、迂回部隊が結果を出すのを待てば良いのだ。どっしり構えて、守りを固めれば、エルフの弱弓など脅威ではない。
三日に渡る戦いでも、兵にはほとんど犠牲が出なかった。もっとも、それはユーリッド側も同じだ。こちらが積極的に動かないので、奴らも不利になればさっさと撤退する。機動力がないのが、我らの弱点だ。もっとも、迂闊に追撃すれば、逆撃を受けるかもしれないので、これで良い。
迂回部隊からの報告があったのは四日目のことだ。
「なに、失敗したのか?」
「は、申し訳ありません……」
「ふむ。意外と兵を残していたのか?」
「いえ。人数はそれなりでしたが、慌ててかき集めたのでしょう、戦力としては微妙な者が多く、部隊も優勢に戦いを進めておりました」
伝令の報告によれば、迂回部隊は敵部隊を壊滅直前まで追い込んだらしい。ほぼ勝ちは確実という状況を一気に覆したのが、広域治癒魔法だ。瀕死の兵すら息を吹き返し、戦いに復帰したというのだから相当なものだ。そんなことをできる者は限られている。
「リーレンか。元首を交代したのではなかったのか? いや、交代したからと言って、国から離れたとは限らないか」
まったく、厄介なことだな。
魔導銃の攻撃は強力で、軟弱なエルフ兵程度、一発で無力化できる。しかし、急所に当てなければ即死というわけでもないのだ。放っておけばそのうち死ぬので、普通ならさほど問題ないが……治癒魔法があるとは話は別だ。極端な話、奴らは死ななければ何でも立ち上がってくる。それを前提として、捨て身の猛襲を受ければ、思わぬ損害を受けるかもしれない。
やはり、リーレンは邪魔だな。
「ボルヴァス」
「何でしょう、父上」
ボルヴァスを呼ぶと、澄ました顔で返事がある。しかし、目の奥に潜む期待感は隠せていない。優秀なヤツだが、この辺りはまだ未熟だな。
「あれはできているか」
「ええ。では……?」
「ああ。あれでリーレンを仕留める。できるか?」
「もちろんです」
ボルヴァスがニヤリと笑う。どうやら、新しい玩具を試したくてウズウズしていたらしい。気持ちはわからないでもないが。
「遊びではないのだ。しっかりやれよ」
「わかっていますよ」
澄まし顔に戻って、ボルヴァスが頷く。まぁ、一応釘を刺したが、心配はあるまい。楽しみを優先して、目的を忘れるほど愚か者ではないからな。




