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第107話 結局こうなる

「では、こちらに」


 そういったのはセルヴァンの取り巻き一人、ナーヴェルという名の男だ。美形なのだが、笑顔は一つもなく冷たい印象を受ける。リーレンへも淡々と接していて、敬意は欠片も感じなかった。俺とピエールに至ってはこの場にいないが如しだ。


「アルネイはここまででいいわ。あなたは——」

「いえ。アルネイも連れてこさせよと宰相が」


 リーレンの言葉をナーヴェルが遮る。アルネイを通じてアラヤ村への移住を呼びかけるという手を封じてきたか。


 ピエールからどうしますという視線が届く。ナーヴェルを排除して、自由に動くかという意図だろう。


 だが、そうなればセルヴァンとは完全に敵対することになる。場合によってはそれもやむなしだが、穏便に解決できるならそのほうがいい。ここはまだ無理をするところではないだろう。

 

 かすかに首を振ると、それで意図は伝わったらしい。ピエールは小さく頷いて、そのまま背後に控えた。


 とはいえ、このまま移動するというわけにはいかない。植えたままのドラクハイムの処遇について考えないと。ユーリッド国民にとって、ドラクハイム兵は自国に攻めてきた憎き敵だ。どの程度の悪感情を持っているかはわからないが、怒りに身を任せて私刑とかされると困る。


「おい、コイツラはどうするんだ?」

「……ふん」


 ナーヴェルに捕虜の扱いを問いただす。だが、奴はまるで俺の声が聞こえないかのように振る舞った。この距離で聞こえていないということはないだろう。無視するつもりか。


 だったら、反応するまで続けてやろう。


「おい! どうするんだと聞いているんだ! 聞こえてるか? おーい!」

「やかましいぞ、普人が!」


 大声で呼びかけ続けていたら、流石に無視を続けることはできなかったようだ。こめかみに青筋を浮かべ、俺をにらみつけてきた。


「誰の許可をとって、喋っている! お前らに発言権などないんだ。不愉快な声で我らの耳を汚すな!」

「そう思うなら、さっさと反応しろ。そしたら、必要最小限のやりとりで済むぞ」

「はっ。下賤な種族の声など、我らには届かんのだ」


 いや、だったら、やかましくもないだろうが。


「本当に面倒なヤツだな……」

「なんだと!?」


 思わず感想を漏らすと、ナーヴェルがいきり立つ。意図せず挑発してしまったが、奴が動き出すや否やの段階でピエールが前に出て取り押さえてくれた。


「何をする!」

「それはこっちのセリフですなぁ。先に手を出そうとしたのはそちらですが?」

「ぐっ! この下等種族が!」


 ナーヴェルが自由を取り戻そうと暴れるが、ピエールががっちり抑え込んでそれを許さない。


「お前たち!」

「何をやってる!」


 セルヴァンの取り巻きはナーヴェルだけじゃない。事態を察した他の奴らも集まってきた。正当防衛だ、と主張したところで聞きはしないだろうな。


「よし、植えるか」

「それが良いでしょう」


 ピエールの賛同も得られたので、まずはナーヴェルから種蒔魔法で植える。手が空いたピエールが他の取り巻きを次々に投げ飛ばしていくので、気絶した者から同じように植えていく。向かってきた取り巻きは五人程度だったので、エルフ植えはそれほど時間がかからずに終わった。


「結局、こうなってしまったか」


 せっかく穏便な話し合いで済まそうと思っていたのに。


「お前たち、我らにこのようなことをして、ただですむと思うなよ……」


 埋まってなお、ナーヴェルが強気だ。文字通り、手も足も、それどころか体さえ出ない状況だろうに。


「いや、こっちは大人しくついていこうとしていたのに、それを台無しにしたのはお前だろ」

「何をふざけたことを……! リーレン様、このような無体なことが許されると思っているのですか!」


 お、今度はレンに矛先を向けたぞ。本当に敬意とかないんだな。


 そんな扱いなので、もちろんレンの態度も冷たい。


「私の客人への無体ということですか? それならばもちろん許されませんよ。だから、今、あなたたちはそうなっているのです。そこで反省していなさい」

「何を——」

「うるさいですね」


 なおも何か喚こうとしていたナーヴェルをピエールが小突いた。軽く叩いたようにしか見えないが、ナーヴェルは白目をむいて静かになる。


「リ、リーレン様、こんなことをして大丈夫なのですか!?」

「先に無礼を働いたのはあちらなのですから、自業自得というものです」

「えぇ!?」


 アルネイが俺たちの行動に仰天している。それだけセルヴァンの権力は恐ろしいということだろうか。しかし、やってしまったものは仕方がないからな。


「よし、ピエール。プランBだ」

「おや、こちらがサブプランだったのですか。私はてっきり……」

「いや、ちゃんと一度は穏便にすませようとしただろう」

「そのわりには煽っていたような……」


 煽ったか? ああ、大声で何度も同じことを繰り返したことを言っているのか。あれは確実に情報を伝えるための苦肉の策だったが、人によっては煽られていると捉えるかもしれないな。こちらにそのような意図はまったくないので、被害妄想と言わざるを得ないが。


 たしかに、大人げない対応だったと言えなくはないかもしれない。だが、あれは向こうの対応が悪かったから、こちらも相応の対応で返したというだけのこと。あれはもう排他的とかいうレベルじゃないだろう。ぶっちゃけ、付き合い切れん。


「まぁ、何でもいい。とにかく、セルヴァンとかいうヤツに付き合っていたら、無駄に時間がかかりそうだ。パパっと話を済ませてしまおう。レンもそれでいいか?」

「そうですね。いきなり移住を説得するのは難しいかもしれませんが、セルヴァンに話を通しても好転するとは思えませんし、勝手にやりましょう」


 レンもようやく開き直ったようだ。ニヤリと笑う顔は、元女王の威厳はなく、後輩の悪戯顔によく似ていた。


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