第106話 流石にバレる
「せんぱ……ケント様、大丈夫でしたか?」
銃を見ていたら、レンもやってきた。マナ切れは軽かったのか、足取りはしっかりとしたものだ。その後ろからついてくるアルネイの表情は少し固いが、これはレンの心配ではなく、俺やピエールへの警戒だろう。
「俺か? 俺は見ての通り平気だ」
「……撃たれてましたよね?」
くっ……見られていたか。
「ま、まぁ腕を少しな」
「腕だったから良かったですけど、頭だったら死んでいましたよ」
「し、仕方がないだろう! 急いでコイツらを制圧する必要があったんだから」
俺の言い訳に、レンがすっと視線を移す。視線を受けたピエールは、肩をすくめた。
「ケント様のおかげで制圧しやすかったのは事実ですね。とはいえ、ご自身を危険に晒す必要はなかったかと」
ぐ……味方はなしか。
「アルミナを救うためにやってくださったのはわかりますが、無理はしないでくださいね。私にとってはケント様もかけがえのない人なんですから」
「わ、わかった。悪かったよ」
そこまで率直に言われたら、謝るしかない。
今回は痛い目を見たので本当に反省はしている。次、同じことがあったら、きっと自制するだろう。たぶん。
「は? え? 私を救うため、ですか?」
唐突に自分の名前が出されて、アルミナが目を白黒させている。
「ああいや、それは気にするな。君のためというより、レンのためだ」
里帰り早々、親しい人物が死ぬなんてことになったら落ち込むだろうからな。
「まぁ、レン殿。あまり悠長に説教している場合ではありませんから、この辺りで」
「それはそうですけど……」
ピエールがレンを注意して、ひとまず糾弾はここまでということになった。助かったな。
「我々が注意するよりもあとで、ピコ殿に叱ってもらったほうがよほど効果的でしょう」
「なるほど。そうですね」
全然助かってなかった。それは反則だろうが!
だが、抗議をするような暇はなかった。
「あちらも片がついたようですね」
ピエールがよそを見ながら告げる。そちらからは、数人のエルフが歩いてくるところだった。彼らが歩いてくるのは、さきほど若者たちが走っていた方向だ。武装しているので、今の今まで戦っていたのだろう。ただ一人、先頭を歩く男だけは、武器を携えていない。
「セルヴァンです」
レンが小さな声で、男の素性を伝えてくる。
なるほど、あいつがユーリッドの宰相か。レンを追放した張本人なので、敵も同然。できれば、俺たちの来訪に気づかれないまま目的を果たしたかったが、そううまくはいかなかったようだ。
まぁ、仕方がない。気づかれるとは思っていた。レンの治癒魔法は範囲が広すぎるからな。おそらく、セルヴァンたちのところまで影響が及んだろう。
「お戻りでしたか、リーレン様」
セルヴァンはなかなか面の皮が厚いようだ。俺やピエールはもちろんのこと、怒りの表情で睨みつけるレンすら気にすることなく、優雅に礼をして見せる。これが慇懃無礼というやつか。
「私の力が及ばず、ユーリッドまでドラクハイムに攻め寄せられてしまいました。しかし、リーレン様が戻られたのなら、そのお力で奴らを退けることも可能でしょう。さぁ、こちらに。兵隊にお姿を見せください。たちまち士気は上がり、百人力の働きをすることでしょう」
セルヴァンは兵を鼓舞するように促す。まるで、追放のことなどなかったかのように。
「セルヴァン、あなた、よくそんなことを言えたわね? 私を追放したこと、忘れたわけではないのでしょう?」
「はは、何か誤解があるようだ。リーレン様は自発的に古代種族の秘宝を探しに出かけたのではないですか?」
「馬鹿を言わないで!」
「いえいえ、これも民のためなのです。今、ユーリッドは未曾有の危機にあります。ただでさえ民たちは先行きを不安に思っている。ここで、私たちが争っている姿を見せるのは得策ではありませんよ。あなたが何をどう言ったところで、戦争はもうはじまっているのですから」
こいつ、民を盾に追放のことをなかったことにするつもりか! 自分から追い出しておいてと思うが、そうでもしないと立ち行かないほどユーリッドは追い込まれているのだろう。
そして、このやり取りを聞いても、セルヴァンの取り巻きは少しも表情を変えない。どうやら、事情を知っている連中のようだ。
レンも民のことを言われると、強くは言い返せないらしく、悔しげにしている。だが、このままヤツにペースを握られるのは面白くないな。
「まぁ待て。民の安全については考えがあるんだ」
「……リーレン様。意地を張っている場合ではありません。民を救うために、あなたの力が必要なのです」
セルヴァンは俺の言葉を完全スルー。いないものとして扱うつもりらしい。なるほど、こういう感じか。
だったら、俺も同じ手でいこう。
「俺たちの村ではこちらからの避難民を受け入れる用意がある。ああ、あんたの手を煩わすつもりはない。避難希望者は俺たちが勝手に探すので、あんたはなに一つ気にしなくてもいいぞ」
「……」
セルヴァンがこちらを無視するなら、こちらも無視して話を進めてしまう作戦だ。
「移住者の安全は保証する。村にはレンもいるから、安心して移住してもらえるぞ。本来なら統治者の許可を得る必要はあるが……ああ、リーレンが許可すれば問題ないか。どうやら、追放されたのは誤解らしいからな。よし、そうと決まれば——」
「黙れ、普人風情が。調子に乗ってペラペラと!」
流石に無視できなかったのか、セルヴァンが凄い形相で睨みつけてきた。取り繕うように軽く息を吐くと、苦々しげな顔で頷く。
「いいだろう。少しくらいは話を聞いてやる」
そう言うと、取り巻きの一人に何か耳打ちして、さっさと一人で歩いていってしまった。
うむ。これで流されるまま協力させられるのは回避できただろう。だが、レンがユーリッドの民を見捨てられない限り、何かしら協力は求められるだろうな。さて、どうしたものか。




