第105話 ドラクハイムの銃
レンの魔法が癒したのは、もちろん俺だけでない。少し先で血を流して倒れていたアルネイも、一命をとりとめたらしく、ゆっくりと立ち上がるところだった。
「今のは……リーレン様の魔法!?」
親しそうにしていただけあって、レンの魔法についても知っているらしい。
「無事だったみたいだな」
「あなたは……リーレン様についていた普人?」
少し警戒したように身を引くアルネイ。さっきの話の最中にはまったく触れもしなかったが一応、俺のことも認識していたらしい。
「ケントだ。レン……リーレンはあっちの物陰にいる。魔法を使った直後だから、マナ切れで疲労していると思うんで、助けてやってくれ」
「……あなたは?」
「ドラクハイムの連中を見張っておく」
顎をしゃくってアルネイの後方を示すと、それで彼女はようやく敵兵が制圧されていることに気づいたようだ。どう区別しているのかは謎だが、敵対勢力にレンの魔法はかからない。おかげで、連中は負傷したままだ。
「あれを、あなたたちで?」
「俺たちというか、ほとんどピエールがやったんだが」
「……あなたたちは何者なんですか?」
アルネイが探るような目で俺を見た。かなり警戒されているようだ。それでも、ヴァルノーンと違って露骨に見下してくることはないな。
「それに関してはレンに聞いてくれ。ほら」
「リーレン様!」
ちょうどレンが物陰から姿を現すところだった。やはりマナ切れなのか、少し辛そうにしている。アルネイが慌てて駆け寄って行った。
「ピエール」
「ケント様。まだ危ないですよ。意識がある者もいますので」
ピエールの制圧したドラクハイム兵はほとんどが死んでいなかった。素手で、早期に無力化することを優先したので、銃が持てなくなった時点で捨て置いたようだ。決着がついた今、生き残った者にトドメを刺すまではせず、ロープで拘束しているようだ。ロープは雑草加工術で作った簡易品だな。
トドメを刺さないのは、情報を取るためだろう。ドラクハイムの狙いも知りたいが、あの銃についても聞いておきたい。
とはいえ、全員をロープで縛るのは手間だ。ここは新魔法の出番だろう。
「魔法で埋めよう。意識があるやつはピエールが取り押さえておいてくれ」
「わかりました」
特に異論を差し挟むことなく、ピエールが一人のドラクハイム兵を押さえ込む。
「頭を上にしておいてくれ。じゃないと息ができなくて死ぬ」
「おっと、そうでしたな」
「な、何をするつもりだ!」
俺たちの行動に、押さえつけられたドラクハイム兵が動揺する。ひげもじゃで顔は厳しいが、声は意外と若い。もしかしたら、新兵なのかもしれない。
「気にするな。ちょっと植えるだけだ」
「植える……? 何を言っている!」
まぁ、意味わからんよな。とはいえ、それ以上の説明はできないので、実際に体験してもらおう。ドラクハイム兵の言葉を無視して呪文の詠唱に入る。
これから使うのは種蒔魔法だ。文字通り、種蒔に使う魔法なのだと思う。しかし、この魔法、何故か対象は種だけに限らない。苗や木の植え替えに使えるようにという配慮なのかもしれないが、それにしても対象が幅広すぎる。なんと人にも使えるのだ。その場合は、この通り——
「なんじゃこりゃ!?」
頭だけ地面から出した状態で、ドラクハイム兵が叫ぶ。一瞬の出来事で何が起きたのかもわからないだろうな。
「だから、植えると言っただろ」
「いや? え?」
何でもないことのように告げると、想定していたリアクションと違ったのかドラクハイム兵は戸惑った様子で目を白黒させた。相手をするのは面倒なので、そのまま放置して次の兵を植えていく。生き残っていたドラクハイム兵は十四名だった。残る五名の亡骸はそのまま放置だ。埋葬するにしても、居住区のど真ん中はまずいだろうから、あとで適当な場所に運ぶ必要がある。
「これがドラクハイムの銃か」
人植え作業が終わったので、次は銃の検分だ。落ちていたものを拾って、観察してみると、思ったほど銃っぽくない。スルッと真っすぐな構造で先端が尖っているので、見た目はほとんど槍だ。グリップらしき部位はなくて、中央辺りにトリガーというか、カバー付きのボタンがある。これを押せば、弾丸が飛び出るのだろうか。作りとしてはずいぶんシンプルだ。弾込めをするようなところもないし……銃っぽいが俺の知っている銃とは別物だな。
「ケント様はそれをご存知なのですか?」
ピエールが不思議そうに聞いてくるので、首を横に振る。
「似たような物について聞いたことがあるって程度だな。でも、たぶん、これとは別物だ」
「そうですか」
「ピエールから見て、この武器はどうだ?」
「そうですな。遠距離攻撃性能はそれなりに脅威ですが、近づいてしまえばただの槍と変わりありません。不意打ちでなければ対処できそうですな。とはいえ、もっと数がいれば、近づくのに難儀しそうですが」
なるほど。超人ピエールなら十分対応できる性能ってことか。それでも、一般兵にとっては大きな脅威だろう。
もしかして、ドラクハイムの快進撃の理由はこれか? さっきのアルネイの無防備さからいって、ユーリッドはこの銃の存在を知らなかったように思える。そういえば、レンも銃を見て驚いていた。つまり、ゲーム時代にはなかった武装ということだ。十中八九、“プレイヤー”が関わっているんだろうな。
武器開発に積極的な“プレイヤー”か。これが身を守るためならいいのだが、ユーリッドまで攻め上がったということは……なかなか厄介なことになりそうだな。




