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第41話 星砂明

「い、一体、何者なの?」

 鈴華は警戒しつつも、物腰が柔らかそうな呪術師に訊ねる。

「私は砂明という者です。実は虎の棟梁様にお耳に入れたいことがあります」

 砂明。奏呪ならば真っ先に警戒し、もしくは攻撃を仕掛ける相手、葉砂明その人だが、鈴華は知らないので、一体何かしらと首を傾げる。

「キョンシーもどきについて?」

「ええ。それもございますが、奏翼、いえ、月蒼礼の秘密です」

「え?」

「ここでは人の耳がございます。出来れば、蒼礼の傍にいたことがある、あなたにだけお伝えしたい」

「で、でも」

 蒼礼に何かあったのか。心配になるから知りたい。しかし、この得体の知れない呪術師の言葉を信じてもいいのだろうか。

「大丈夫です。すぐそこ、建物から離れた場所で」

 砂明は笑顔を崩さず、そしてすぐに行動を起こすこともなく、鈴華を誘う。

「ううん」

 鈴華は躊躇ったものの、ここで何かあれば叔父たちがすぐに対処してくれるはず、と砂明の誘いに乗ることにした。

 これでも蒼礼を探して国中を旅した豪胆さを持っている。ちょっとやそっとの出来事では驚かない。

「あなたが行きたい場所に着いていきましょう。ただし、変なことはしないでよ」

「それはもちろん」

 砂明は驚いたものの、身の安全は保障しましょうと頷いた。




 血の呼応に必要なのは、当然ながら呼び出したい相手と繋がりの濃い血だ。ただし、この場合は血縁である必要はなく、いわば魂同士の繋がりというべきであり、血はただ媒介に必要なだけである。

「祭壇はこれでよかったな」

「ああ」

 奏刃と奏翼は、奏呪本部の地下に設けられた秘術を用いるための祭場にて、血の呼応を行うべく祭壇を組み上げていた。奏呪の長官と副官の二人をもってしても初めて行う呪術だ。一つ一つ確認しながら進める必要がある。

 それだけでなく、呪術家同士の者を呼び出すための祭壇は独特だ。下手すれば呼び出した呪術師が死ぬ可能性も含むためか、結界を多重に張る必要があり、そのために用意するものも多種多様なのだ。

「紫礼が生きているにしても砂明が生きているにしても、多重結界はあった方がいいからな。しっかり組めよ」

 奏刃は祭壇の準備を進める奏翼にしっかりと釘を刺す。

「解ってるよ。それより、お前の供物の準備は大丈夫なのか」

「抜かりない」

 互いに言い合いながら、こんなことは十年振りかと二人揃って懐かしくなる。だが、奏翼も奏刃も懐かしいと感じた自分の心を苦々しく思った。

「懐かしんでいる場合か」

「全くだ。また国が乱れた証拠だ」

 息ぴったりに考えを否定してしまい、また二人の間に微妙な沈黙が下りる。だが、妙なことでいがみ合っていても作業は進まないので、そのまま黙々と手を動かすことになった。

 こうして途中途中に十年間の蟠りが邪魔することはあったものの、三時間ほどで祭壇と供物を用意することが出来た。あとは組み上げた祭壇の中央に、二人の血を供えるだけだ。

「待て。お前には私の呪いが掛かっているのを忘れたのか」

 自らの腕に躊躇いなく刃物を突き立てようとする奏翼に、奏刃は呆れならば制止する。

「ああ、そうだった。これが自殺と取られたら、魂が乗っ取られる」

 奏翼は答えつつ、問題は奏刃に発動する意思があるかではないかと思ったものの、大人しく持っていた短刀を奏刃に渡す。奏刃は短刀を受け取ると

「手を出せ。手の甲が一番その先に影響がないだろう」

 すぐに戦闘になることを考えろと奏翼の手を取った。十年前よりも無骨になった手を見て、奏翼の山での生活が楽ではなかったことが垣間見える。

「治癒の呪を使えばいいじゃないか」

 戦闘になるかはどうかとして、治療できるではないかと、奏刃の考えすぎに苦笑してしまう。だが、奏刃からはぎっと睨まれた。

「お前は自分の治癒が出来るのか。言っておくが、私は使える気がしないからな。これから大事があるというのに、そんな賭けみたいなことをするな」

 そしてそう小言を頂戴することになる。

「やってくれ」

 これ以上何か言うと、ますます奏刃の機嫌を損ねることになる。奏翼は反論を諦めて大人しくする。すると奏刃も文句を飲み込み、奏翼の左の手の甲を軽く切った。そこから滲み出る血を、すばやく用意しておいた白い絹の布に染み込ませる。そうして血染めとなった布を祭壇の中央に供えるのだ。

「よし」

「お前は」

 自分の分が終わったことにほっとし、それから奏翼が自分でやるのかと聞くより早く、奏刃は自分の左手の手の甲を切っていた。その素早さに呆れるが、すぐに白い絹の布を手渡す。

「これでいいな」

「ああ」

 二人分の血染めの布が祭壇の中央に揃い、準備は総て整った。二人は息を大きく吸い込むと、祭壇の前に座し祭文の詠み上げ始めたのだった。


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