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第42話 二つの気配

 どこが身の安全は保障するよ。

 鈴華は自分の状況を考え、砂明にそう文句を言いたくなる。しかし、命の危険が迫っているような状況かというと、そうではなかった。

「快適だか快適じゃないんだか解らないわ」

 結果、そう呟くしかない。

 ただ、鈴華は今、起き上がれないのだ。しかし、ふかふかの敷物の上に寝かされ、背中が痛いということはない。頭は枕に乗っていて身体に負担がないようになっている。とはいえ、術で動きを制限されている。けれども、特に困った状況にはない。

 本当に快適なのか快適ではないのか解らない。ついでにこんな状況に置いてくれてくれた砂明は、今近くにいなかった。どこにいるのか、おそらく同じ建物の中にいるはずだが、鈴華の目の動きで捉えられる場所にはいなかった。

「しかも、ここ、どこなの?」

 寝かされている場所は快適といっても問題ない場所だが、この部屋がある建物は廃墟に近いものだった。しかし造りはしっかりしたものだったので、過去にそれなりの権力者が使用していたものだろうことは推測できる。

「でも、滅亡した一族のどれかってのは奇妙なのよね」

 しかし、大戦中に滅びた一族の長の屋敷とは思えなかった。それだけしっかりしているし、何より大きく石造りなのだ。石造りの建物など、豪族であろうとそう簡単に建てられるものではない。

「誰の持ち物だったのかしら」

 寝転ぶことしか出来ないので、目を動かして頑丈な建物について考えることしか出来ない。しかし、一体誰のものだったのか、それが解るような丁度や装飾は全くなかった。いや、あった痕跡はあるものの、それが悉く破壊されている。

「ううん」

 暇に任せてそんなことを悩んでいると

「本当に豪胆な姫君ですね」

 戻ってきた砂明に呆れられてしまう。その砂明は、まるで奏呪のような道士服を身に纏っていた。しかし、奏呪とは違い、胸元は飽きておらずしっかり首元まで締められている。

「豪胆じゃなきゃ、あの最強最悪と呼ばれた奏翼に近付くわけないでしょ」

 鈴華はいまさら呆れるなよと睨む。

「そうでした。そして、どういうわけか彼の傍にいることを認められた。そんな人、今までいません。奏呪として傍にいる奏刃ともまるで違う」

 砂明は肩を竦めると、本当に困った人ですねと苦笑する。それに鈴華はどういうことと僅かに動く範囲で首を傾げる。

「利害関係抜き、というべきですかね。ともかく、あなたを使えば奏翼を手に入れることが出来る」

「えっ」

「そう。私が欲しいのは奏翼です。ダニなんてまどろっこしい手段を使ったのも、この国に再び混乱を起こそうとしたのもそのため。しかし、ただ手に入れるだけでは面白くないんですよ。だって、彼は陽家の血を継ぐ唯一の人間ですからね」

「陽家」

 聞いたことがない家名に、鈴華は顔を顰める。それに砂明が何か答えようとした時――

「これは」

「くっ」

 二人の身体が急に何かに引っ張られるように浮き上がる。

「えっ、な、なんなの?」

 砂明の術のせいで寝ころんだまま浮き上げっていく自分の身体に、さすがの鈴華も慌ててしまう。しかし、ぐいぐい身体が持ち上がり、どうすることもできない。

「ここであなたと待ち構えていれば、いずれ奏翼が来るとは思っていましたが、これは予想外ですね」

 この展開に砂明も戸惑っているようだ。しかし、何が起こっているかは理解しているらしい。

「こ、これ、何なの?」

「そのまま抵抗せずに」

「えええっ」

 抵抗せずにってどういうことと思った瞬間、二人の身体はぽっかりと天井に出来ていた真っ黒な穴に吸い込まれたのだった。




「反応が二つあるぞ」

「どういうことだ? まさか、紫礼と砂明が手を組んでいるのか」

 術式を開始して、反応があったことは現状打破という点では喜ばしい。しかし、二つ反応があるというのが不可解だ。奏翼も奏刃も、どういうことだと顔を顰めると同時に、迎え撃つ準備に入る。

「来るぞ」

「ああ」

 二人が札と剣を手に祭壇から少し距離を取った瞬間――

「きゃあああ」

 まず聞こえてきたのは女の悲鳴だった。おかげで、奏翼と奏刃は顔を見合わせる。紫礼も砂明も男のはずだ。

「ははっ。まさかど真ん中に呼んでいただけるとはね」

 しかし、次に聞こえてきた声でハッとする。


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