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第37話 奏翼と龍統

「確かに血腥い話になるだろうな。しかし、今起こっていることを正確に把握するには、昔語りは必要ではないか」

 龍統は奏翼を試すように言って笑う。それに対して、奏翼は返す言葉がない。

 確かに今起こっているのは、どこかの一族が奏呪から漏れてもなお生きている強力な呪術師の手を借りて、反乱を起こそうとしているというものだろう。そして、その反乱の動機は、十年前まで続いていた大乱にある。

 奏呪を編成し、呪術師による戦力を得ることで勝利した龍統。それを恨んでいる者は相当数いるはずだ。

「それに、余はまだ、お前がこの十年間逃げた理由を聞いていないぞ」

「それは」

「お前は奏呪の長官だった。その責任の重さは重々承知しているのだろう」

「もちろんでございます」

 まさかここで問い詰められるとは思っていなかった。奏翼は深々と頭を下げるしかない。それを見て、紫妃がくすりと笑う。それに、奏翼はちらっと目を向けた。この妃が今、笑ったのはどういう理由だろうか。

「あら、ごめんなさい。気を悪くしないでね。陛下ったら、あなたがいなくなったことをずっと気に掛けていたのよ。何が悪かったのだろうって」

「おいっ」

 いきなりの紫妃の言葉に、さすがの龍統も慌てた。そして

「お前が裏切ったとは思っていなかったがな。一体何が原因か解らんから、気を揉んだものだぞ」

 ふっと表情を緩めてそう言った。それに、奏翼は申し訳ありませんと頭を下げるしかない。

 しかし、自分の抱える問題を皇帝に打ち明けるわけにはいかなかった。これはいずれ、自分で片付けなければならない問題だ。

 それに龍統がなぜ奏呪というものを作ることが出来たのか。その秘密も、出来れば自分の中に仕舞っておきたい事柄だ。

「どうして去ったのだ?」

 だが、何も言わないまま見逃してくれることはない。龍統は改めて訊ねてくる。

「この身はあまりに多くの怨嗟にまみれております。泰平の世において、王宮にいるべき存在ではありません」

 それに対し、奏翼は当たり障りのない部分だけを述べる。実際、あまりに多くの人間を殺しすぎた。正直、鈴華に唆されて治癒が出来たことに驚いたほどだ。

 本来、この身体は陰に傾きすぎている。治癒などという陽の気を使うものが出来るはずがなかったのだ。それが出来たのは、おそらく奏翼の身体に流れる陽家の血のおかげだ。

「確かに、お前は多くの人間を殺している。だが、命じたのは余であるし、何より朕もまた多くの人間を殺している」

 龍統は気にしすぎるなと笑うが、皇帝の地位にいる者と一介の呪術師では背負うものが違いすぎる。

「それを言ってしまうと、この王宮にいる者はみな、人殺しになってしまいます」

「ははっ、そうだな。まあ、紆余曲折があったとはいえ、お前が奏呪に戻ってくれたことは喜ばしい」

「勿体ないお言葉です」

「だからこそ、この事件をお前に解いてもらいたいのだ」

 もう一度、奏呪の長官として活躍してもらいたいからな。龍統はそうはっきりとは言わなかったものの、奏翼を見つめる目がそう語っていた。それに、奏翼は首を振ると

「奏刃が長官であることが相応しいでしょう。しかし、この事件の解決には、身を粉にして働く所存です」

 そう返しておく。

「お前の頑固は相変わらず、か。まあいい。ダニの対処は目処が立ったようだが、他はどうだ?」

 龍統は説得も昔語りも諦めて、そう訊ねた。重要なのは今だ。となれば、この問題を早急に片付けたい。

「幽霊に関しては、まだ何とも言えません。それに呪術師といえども幽霊を見た経験がありませんからね。本物が出ているのか違うのか、というところの確認からですが、何分、情報が不確かです」

 奏翼は実態が掴めずに困っていると、思わず顔を顰めてしまう。しかし、龍統が気になったのはそれではない。

「呪術師なのに、幽霊を見たことがないのか」

「えっ、はい」

 そう、こちらが意外だったのだが、奏翼にすれば何を言っているのかという感じだ。この国において幽霊は鬼と同義であり、そう簡単に現われるものではないとされている。

 もちろん、民間に流布しているのは、やはり死んだ人が魂だけになって出るというものだが、これは呪術師の範疇の外になる。

「ふうむ。では、今回の騒動はどう考えるのだ? 鬼が溢れ返っているのか?」

 龍統はダニよりも大問題じゃないかと腕を組む。

「いえ。普通の、それも一般人が幽霊を見たと騒いでいる場合、多くは勘違い、もしくは幻術です」

「ほう」

「しかし、集団心理が働いているとしても、全国あちこちで幽霊の目撃情報があり、それも絶えず訴えている人がいるというのが奇妙です」

「となると、この件も呪術師か。幻術で幽霊、この場合は死者の魂の方だな、を見せているということか」

「ですが、そう考えた場合、広域で幻術を掛ける術がありません。出来たとしても、それこそ奏呪が感知しますし、何より幽霊だけを都合良く見せるというのも難しいです」

「なるほど」

 こちらも考えていくと難しい問題にぶつかるというわけか。


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