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第36話 候補は六家

「やはり、人の心は持ち合わせておらぬものですか?」

 しかし、興味を惹かれてつい訊ねてしまう。

「そうだな。肉親を殺すなんて当たり前のような連中だ」

 それに、龍統はふっと笑って答える。奏翼のいた月家の泥沼を思い出せば、奏翼が素直に奏呪に戻ったことは喜ばしいことであり、疑うなんて馬鹿らしくなる。

「解りました。奏翼がこの件を起こしたとは考えませぬ」

 多くを語らない皇帝の反応で、よほどのことがあったのだろうと察した郭耕生は、出過ぎた意見だったと頭を下げる。

「それでよい。取り敢えず、農村の状況ももう少し詳しく調べてくれ。それと、都市部の状況だな。どうやら地方官吏どもがサボっているらしい。引き締めておいてくれ」

「了解しました」

 郭耕生はすぐに調査団を編成すべく下がっていく。それを見ながら

「奏呪が犯人を見つけるのはまだまだ先か」

 と溜め息を吐いていたのだった。




 龍河国の氏族は、皇帝一族の龍家を除くと、最大は虎家になる。しかし、この虎家は鈴華の家であり、この間からあれこれ引っ掻き回してくれているので、今回の調査からは一先ず除外することになる。

 それと同時に、虎家のように奏翼が直接呪術を施している(ほう)家と()家も後回しにして大丈夫だろう。彼らが何か良からぬことを企んでいたとすれば、奏呪がすぐに察知出来たはずだ。

「この三つを除くと、調べるべき氏族はどれくらいになる?」

 血液の採取を命じられた奏金は、一緒に動くことになった(そう)(ごう)(そう)(がん)に確認する。

「早急に確認すべきという点に絞るのならば、()家、()家、(ぎゅう)家、(よう)家、(えん)家、()家でしょうか」

 それに奏剛が答える。横に控える奏岩も大きく頷いた。

「六つか。まあ、妥当なところだな。行くか」

「はい」

 こうして奏呪の地道な調査が幕を開けた。




「ダニを百匹って意外と難しいな。っていうか、百ってざっくりでいいよな」

 その頃、奏金の双子の弟・奏銀は、キョンシーもどきが出た町に赴き、ダニの回収に汗を流していた。しかし、地味な作業の上にうっかりすると殺してしまうダニを相手に苦労させられる。

「多めに取ってこいって意味だと思いますね」

 そんな奏銀を手伝って一緒にダニを集める(そう)(げん)は、百って適当に言っただけでしょうと同意する。

「まあ、奏刃様は適当なところがあるからなあ。きっちり百取って帰ったところで、確認はしないだろうし、ざっくり百でいいか。どちらかと言えば、奏翼様のほうがきっちりしているんだよね」

 奏銀はダニを拾いつつ、あの二人は対照的だからなとぼやく。

「だから、以前までは奏翼様が長官だったわけですね」

「まあね。とはいえ、無慈悲なのも奏翼様だけど。大乱の時に長官だったってのは、それだけ多く殺しているわけだよ。そして誰に対しても冷たい」

「まあ、そうじゃなければ、十年も雲隠れしてないですよね」

「だろ。同僚だろうと何も思っていないんだよね。あの人の場合、周囲にいるのは今殺す相手がそうでないか、くらいの判断だろ」

 と、地味な作業のせいか、上司への愚痴が止まらない二人だ。しかもダニを大量に革袋に突っ込んでいくというのは、ちょっと嫌な仕事でもある。

「誰だよ、ダニを利用しようなんて考えた奴」

 おかげで最終的に愚痴は犯人へと向くことになるのだった。




「お呼びでしょうか」

「ああ、奏翼。もっと近う寄れ」

 さて、きっちりしていて無慈悲と評される奏翼は、龍統に呼ばれていた。しかも場所は後宮だ。嫌がらせかなと思わなくもない。ここは鈴華と別れた場所でもあるのだ。

 だが、今いるのは鈴華が泊まっていた殿舎ではない。正妃・()()のいる殿舎だ。その紫妃は龍統の横にゆったりと座っている。

 紫妃は当時一番の美女と言われただけあって、四十になった今も美貌の持ち主だった。正妃としての風格も加わり、他の女性とは違う輝きがある。

「お前が戻ってきてから、まだゆっくり話していなかったからな。昔語りでもどうだ?」

 龍統は酒を持ってこさせると、奏翼にも勧める。相手が皇帝とあっては断る事も出来ず、奏翼は杯を押し頂いた。

「昔語り、ですか。血腥い話をご所望ですか?」

 しかし、一体何を企んでいるんだと訝しむしかない。


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