第25話 滅びた村
「馬一族を追い掛けていたのは、三十人くらいだったわよね。それ以外はこの村の中で」
「ああ。食い合いになったようだな。ダニは人間の血を糧に呪術を行使している。そのダニもまた、呪術のせいで血を求めて暴走している。つまり、人間が纏まっていればそれだけ早く蔓延してしまうんだ。その点は流行病と変わらないんだよ」
蒼礼はどうしたものかと村を見る。生きている人間がいない以上、このまま放置しておいても問題ないのだろうが、ここからダニが広がっては他に甚大な被害を出す。特にここは街道沿いだ。旅人や商人が何時通るか解らない。
「燃やしちゃうの?」
鈴華もどうしたらいいのだろうと悩んでいる。
「いや、いくら小さな村とはいえ、焼くのは問題だな。近くの山に延焼しかねない」
しかし、燃やすのは賛成できなかった。村は山間にあり、火事による被害が大きくなる可能性がある。
「ああ、そうか」
「仕方ない。朝のあの呪で、奏呪には完全に居場所を掴まれているだろう。大規模な術を行使しても問題ないか」
蒼礼は覚悟を決めて、この村丸ごとに対する術を行うことにした。
何とも難儀な旅だ。行く先々で大きな呪術を使う羽目になる。このままでは奏呪に捕まるのも時間の問題だろう。
「やっぱり、術を使うと感知されちゃうものなの?」
蒼礼の言葉に不安になるのは鈴華だ。ここで奏呪が出てくれば、間違いなくややこしくなる。単純に治癒の能力を求めていただけだが、蒼礼はやはり奏呪に追われる立場だ。連れ出すべきではなかったのだろうか。
「感知されるよ。お前らが一族に残された呪を受けた者によって監視されるのと同様だ。今までは全く使わずに生活してたから追っ手が来なかったが、ここ連日使っているんだ。今頃対処を考えているだろう」
それに蒼礼は何を今更と呆れてしまう。大戦が終わったのが呪術師の投入のおかげとなれば、その呪術師たちにそれなりの監視があるのは然るべきだろう。
「そうか。そうだよね」
蒼礼は許されて奏呪を離れているわけではない。勝手に逃げ出した立場なのだ。それは知っていたが、あの恐れられた奏翼もまた自由なんてないという事実は、鈴華にとって重たいものだった。
「お前がそんな顔をするな」
情けなくなって唇を噛んでいると、蒼礼は呆れたように言ってくれる。
こいつはいつもそうだ。鈴華を適当にあしらおうとした時も、自分の命なんてどうでもいいという態度だった。
「蒼礼は、ムカつかないの?」
でも、怒っても困らせるだけだと解っているから、何とか鈴華はそう訊ねていた。しかし、蒼礼は今更だなと肩を竦めるだけだ。
「朝見たことを忘れたのか。俺は何も考えずに人を殺してしまう、ただの危険人物だぞ」
「そんなことないでしょ。もし本当に危険人物だったら、問答無用で私を殺しているはずだもん」
「・・・・・・」
それを言われると困ると、蒼礼は顔を顰めた。冷静な時に無駄な殺しをしないくらいの理性はある。が、無駄な議論をしていては日が暮れてしまう。安全な寝床も探さなければならないし、この村の浄化もしなければならない。
「口を動かさずに手を動かしてくれ。一先ず篝火が必要だ。村を浄化しないことには、この辺りで野宿するのもままならない」
蒼礼はそう言って札の用意を始めた。鈴華はまだ言いたいことがあったが、浄化を急がなければならないのも事実だった。夏も近いとあって日は長いが、夕方から夕暮れまではすぐだ。
「薪はどうするの?」
しかし、ダニの位置が解らない鈴華は、どうやって薪を用意すればいいのかと困ってしまう。山に入っても大丈夫なのだろうか。それとも安全だった街道を少し戻って薪を探すべきか。
「適当に家を壊して使おう」
それに蒼礼は考えていると、村の中でも一番手前にあった家を指差した。農村とあって家は粗末なものだ。蒼礼の小屋よりはマシだが、大きなものではない。
「了解」
鈴華は頷き、蒼礼の邪魔にならない位置まで下がる。
蒼礼は札を撒きながら、慎重に歩を進めた。口の中で呪言を繰り返しながら、ダニとダニが発する呪の気を消していく。しかし、この方法で祓える範囲には限りがある。それにすぐに他からダニが来て汚染されることだろう。
「鈴華、すぐにそこの家で使えそうなものを出すぞ」
「解った」
取り敢えず村に入っても大丈夫であることを確認し、蒼礼は目星を付けた家に向った。鈴華もすぐに追い掛ける。
蒼礼は度々札を放って浄化していく。その間に鈴華は家の中に置かれていた薪を発見して回収する。しかし、それだけでは篝火としては心許ないので、入り口の戸を持ち出した。
「これくらいで大丈夫?」
「ああ」
そこで一度安全な場所まで引き返した。やはり村の中はダニが蔓延している。長くいると、どこから飛んでくるか解らない。




